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私の瞳に映ったあなた(最終回)




それ以降、僕と小塚さんは二人でいる機会が増えていった。
それは、小さな恋愛だった。
お互いがお互を意識し合う、可愛い恋愛。
プラトニックラブ。僕は青春を謳歌していた。
恋愛する事で勉強にも力が入り、クラブ活動も充実していた。
人を好きになる事は、自分自身を高める事。
小塚明子さんに嫌われる事なく立派な自分でありたい。
その様にいつも僕は想っていた。

そんな日が続いたある日、僕は彼女と男が一緒に腕を組み歩いているのを、歩道橋の上から見てしまう。

二人、仲良さそうに歩いている。
遠くであるが、仲良さそうな雰囲気は伝わってくる。


降り出した粉雪が、大粒の雪に変わり僕の髪の毛を染める。
丸坊主の熱くなった頭を、冷やす様に降り積もる。

……一体、何があった?!……
僕の疑問は、不信に繋がり、絶望に変わる。
……女心なんて、夢の風船だ!風に吹かれ何処かに飛んでいくんだ!……
これは、嫉妬では無く裏切られた怒りだ!

……あの男は何者だ!子供では無い。大人だ!
だが、小塚明子の父親でも無い。
若者だ!
もしかして、明子のお兄さんか?
そう言えば、明子にはお兄さんがいると言っていた。
お兄さんかも知れない。きっとそうだ!……

と、僕は勝手に結論を出していた。
僕の予想は的中した。
あの男は、小塚明子さんの兄だった。

僕は嫉妬と思われない様に、彼女に聞いた。
「いつも、お兄さんとは腕を組んで歩くの?」
と、
「いつもじゃ無いよ。この前だけだよ。ちょっとふらついたから、病院に連れて行ってもらったのよ」
と、いつもとは違って少しヒステリックな声である。
「何処か悪いの?」
「まだ、解らないよ。今度大きな病院で調べてみるんだって」

「何で怒っているの?声が荒いよ。」

「怒ってなんか無いよ。私を疑うなんて許せない。」

「やきもちぐらい、焼くよ」
と、今度は僕がヒステリックに明子に言った
「へ〜^_^。やきもち、焼いてくれたの。今度食べさせてね。」
と、声が急に明るくなった。

明るい声とは裏腹に、顔の色は白い。普段から色白ではあるが
今日はかなり蒼白である。

「身体、辛く無い?いつからえらいの?」
と聞く僕に、
「心配ないわ。・・・。大丈夫だから。」
と、明るく言う
……その明るさが僕を不安にさせるんだよ。本当の事言ってよ……
と、想いつつも
「そうなんだ。大した事ないんだ。」
と、喜んで見せた。

その日2月2日 だった。
次の日、彼女の教室に出向いた。
彼女は一番後ろの席の窓側である。
教室の後扉から覗くと居ない。同じクラスの男の子に聞いてみたら、
「今日は欠席しています」と、答えてくれた。
……病院に検査に行くんだな……と、僕は思っていた。
次の日も彼女来なかった。
その次の日も。
僕は心配になって、小塚明子さんの家に訪れた。
だが、留守であった。僕の不安が更に深まる。
そんなある日、小塚明子さんから、僕の家に電話が掛かる。
「お久しぶり、矢神くん元気?どうしてるの!」
と、至った明るい声。
「大丈夫なの?入院しているの?どんな具合なの?」

「うん、入院してるけど、退院はまだみたい。検査ばかりしているの。何だか疲れてしまったの。」
と、今度は声が沈んでいる。
「矢神くん、お見舞いに来てね。待っているから。病院は東京のね、⭕️⭕️病院よ。地図に出てるから来てね。」

「東京?行けるかな?遠いね。」

「絶対に来てよ!お願いだから。」
「うん、わかったよ。来週か再来週の日曜日に行くね。待っていてね。」
「約束だよ」
と、僕は小塚明子さんと簡単な約束をしてしまった。
その時の僕には、深刻な気持ちでは無く、小塚明子さんの元気な声が聴けて安心してしまった。
その日は2月15日だった。
僕は、来週の日曜日も再来週の日曜日も見舞いにいけなかった。

突然の訃報が学校に届く。
3月2日の日小塚明子は亡くなった。

一体どの様な病気だったのか?私には解らなかった。

ただ、珍しい病気で10万人に一人と噂に聞いた。
見舞いにも行かなかった自分を責めた。
あの時、彼女の思いは如何なるものだったのか!
「何故僕は・・・・。」本当に悔やんだ。それと同時に彼女に詫びた。心から詫びた。


彼女の葬儀は3月4日

僕は、学校を休んで葬儀に参加した。


最期の君の笑顔は生前と同じ、
薄笑みを浮かべ穏やかな表情は僕の瞳に強烈に焼きついた。
決して消え去る事の無い君の笑顔。

僕の目から涙も出てこない。
悲しみが大きいと涙も出ないのか⁉️

君は青い着物に身を包み、沢山の花が周りで咲いている。
これからの天国への旅路を祝福しているみたいだ。

……小塚明子さん、今から君は天国に旅立って行くんだね。
僕を残して一人で行くんだね。……

その時、私の脳裏に「my  foolish heart 」の曲が流れた。

乳白色した雲の中を、君は一人で天国の階段を登っていく
後を振り向きながら、僕に未練を残す様に一段一段、階段を登っていく。
美しい音楽に身を任せながら静かに静かに登って行く。

振り向く君の瞳は、悲しみで僕を見つめている。
伏せ目がちに見つめている。
そして、階段の中央部を過ぎた時、振り返る事も無く階段を登り行く、君。

僕は君に声を掛ける事ができない。
言葉が出てこない。
追いかける事もできない。
何もできない!

溢れる涙も止める事が出来ない。


…………さようなら、大好きなあなた❤️  ・・・・また会う日まで………


      完

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https://note.com/yagami12345/n/n202b51a6b376

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