ある「ギフテッド」当事者の半生(9) どうしてこうなった

2007年、夏。私はブリスベン国際空港で香港行きの旅客機の搭乗待ちをしていた。直行便の設定がないくらい遠いのだ。
ちなみに乗客の殆どがコモンウェルス各国かBNO(英国海外領土)パスポート持ちで、出国審査は別の列。私は殆ど待つことなく出国審査を終えることができた。

搭乗が始まり、私は通路側の席を指定してチェックインしたのだが私の隣もその隣も人がいる状態だ。毎日運行ではなかったので結構乗っているな、と思った。
 -いよいよ、ヨーロッパの土地を踏むんだ。

日付変更線を跨ぐことはないものの、イギリスはGMT+0000。対して香港はGMT+8000、ブリスベンは+1000。フライト時間は待ち時間を入れてほぼ24時間。18世紀の時代に、クリッパーと呼ばれる帆船はケープタウン(希望峰)経由で100日以上かかった(授業で学んだ)。それが今では100分の1の時間と考えると、まあ許せる…気がした。

機内食を食べたあとどうやら眠ってしまったらしく、目が覚めるとすでにアプローチに入っていた。香港啓徳空港のアプローチも今は昔。スムーズに着陸し、降機。キャセイパシフィック航空は本当に素敵。

香港到着後、日本に電話を入れる。
親は海外から海外への渡航が心配だったらしく、日本で契約したローミング用SIMカードを送ってもらっていた。これをGSM端末に差し込めば、日本と韓国以外どこでも使える。私はノキアのクアッドバンド機を持っていたので、早速電話をかける。
…出ない。
おかしいな、と思っていたら、やっと「もしもし?」と言う母の声が聞こえた。
『今香港に着いたよ、ヒースロー行き待ってる』
「そう…夜遅いから、ロンドン着いたらまた連絡ちょうだい」

時計を見ると、香港時間で23時を過ぎている。と言うことは、日本はすでに「翌日」0時を回っていることになる。これじゃ寝てても仕方がない。
空港のベンチに座ったり中を散策しながら、ひたすらヒースロー行きの便を待った。

明け方、搭乗開始のアナウンスがあった。早速搭乗ゲートに向かうと、さっきの便とは違い、いろんな人種の人が並んでいる。肌の白い人、黄色い人、黒い人…。ああ、イギリスって多国籍国家でもあるんだな、と実感した。

私はこの便でも通路側を指定してチェックインした。どうせ高高度を飛ぶんだし、隣に気兼ねなくトイレに行けるから…である。なんとも日本人らしい考え方である。

 私が早めに乗り込んでいると、突然中国語らしき言葉で話しかけられた。
どうやら奥の席に座りたいが、少し避けてくれと言う意味なのだろう。「私は日本人ですが、あなたはここの席に座りたいのですか?」と英語で聞くと、すんなり「そう、すみませんが…」と申し訳なさそうに言われた。
 香港の歴史や文化を感じた瞬間でもあった。


 - ここからロンドンまでは、14時間以上もかかる路線だ。
 ロンドンに着いたらすぐ動けるように、ゆっくり寝ておこう。


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