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水野梓「グレイの森」

水野梓「グレイの森」(徳間書店)。電子書籍版はこちら↓
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 名門高「大澤学園」で起こった、7人もの児童殺傷事件。加害者の母親、被害者の母娘。それぞれが失意の日々を送っていた。偶然にもその両方に関わってしまった臨床心理士の水沢藍。その苦悩の深さにどう寄り添えばいいのか困惑する、駆け出しの臨床心理士。そこに寄り添う、同僚にして「アセクシュアル(恋愛無関心症)」の潤。答えは自ら出せと背中を押す斗鬼所長。殺人事件の加害者と被害者の家族の両方をクライエントとして担当したと知って、藍に取材を迫るマスコミ。
 読んでいてずっと号泣。悩む娘、自らを責める母、開き直る殺人鬼、逃げた父。みんな苦しんでいる。特効薬はない。藍にできることは傾聴すること、共感すること。人は皆話したいのだ。心の奥の澱を吐露して、楽になりたいのだ。如才ない潤と違って、不器用な藍。だからこそ相手の口が開くのを待つ辛抱ができる。それが「蟻の強さ(この話は読んでみないとわからない)」である。最も感動した箇所は、藍を散々苦しめたマスコミへの取材対応。クライエントと共に悩み、乗り越えてきた藍は本当の意味で誰からも頼られる大人になった。表紙にも、タイトルにも全て意味がある。そのことが本作品に対して寄せた著者自身のコメントからわかる。
■すべてに白黒つける二項対立の世界で「生きづらい」と感じることが多くなりました。人が人として生きるために何が必要か。自分の中の汚いものを見つめながら、魂の底をえぐり出すようにして書きました。生きづらさを抱えるすべての人に捧げます。


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