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episode.1 友達にかっ攫われたイケメン タカト君

 中学2年生の夏。クラスメイトの男子から
「やえとメールしたいって言っている奴がいるから、アドレス教えてもいい?」
との連絡があった。
 
 当時は学生にもガラケーが普及し始めた頃で、そもそも携帯電話を持つ人も少なかった。
 そんな中、親の気まぐれで当時の人気機種を与えられた私は、誰かとメールするということが嬉しくて、二つ返事でOKをした。

 そのお相手というのが、人生で4番目の彼氏になる、学年人気上位のイケメンサッカー部のタカト君。
 そう、4番目の彼氏なのだ。それまでの彼氏については今後書いていくかもしれないが、小学生のうちに1人、中学に入ってからすでに2人とお付き合いをしていた。
 今考えたら、なんて生意気な小娘なのだろう。

 とまぁそんな私なので、「メールをしたい」なんて言われたら、これは……狙われているのでは? と勘ぐることができてしまうくらいには、恋愛に対して免疫が出来上がっていた。

 案の定、メールをし始めてからたった2週間で告白をされた。私の顔面偏差値はそこまで高くないし、ぶっちゃけなぜ私だったのか、今でもよくわからない。おそらく恋愛経験があるから付き合いやすいと噂されていたのだろう。
 正直、付き合っても付き合わなくてもどちらでもよかった。同学年のイケメンランキングトップ5くらいには入る程、男前な顔立ちをしたタカト君だったが、なんせ私は顔面に興味がない。顔より、相手の趣味や特技に昔から興味があるのだ。興味深いと思える人だと、ついついお付き合いしてみたくなってしまう。
 
 私は彼の告白を受けることにした。メールで話してみると感じもよく、意気投合することも多かった。そして、お付き合いをOKしなくてはならない切実な理由があった。夏休みの一大イベント、夏祭りがあったのだ。
 去年一緒に行った親友は彼氏ができたので、一緒に行くことは叶わない。だが、私にも彼氏がいれば、ダブルデートとして一緒に回ることができるのではないか? と淡い期待を抱いたのだ。
 実際、お付き合いを始めたことを親友に話したところ、ダブルデートが叶った。それがタカト君との初デートでもあった。
 
 そのようなふざけた理由でお付き合いを始めた私だったが、恋人として付き合っていけばいくほど、ちゃんとタカト君を好きになっていった。
 夜に長電話したり、サッカー部の試合の応援、クリスマスデートや、部活の無い日には私のうちへ遊びに来ておうちデートなんてものも楽しんだ。ちなみに、私のハジメテのお相手でもある。
 学生ながら、一生懸命に愛し合い、付き合い始めてから11ヶ月が経とうとしていた。

 そんなある日、突然タカト君から別れを告げられた。理由は覚えていない。古い記憶だからというのもあるが、あまりにショックだったのだ。その頃には本当に大好きになっていて、きっと高校生になってもこの人と恋人同士でいるのだろうと考えていた。それなのに、フラれてしまった。
 
 悲しみに打ちひしがれ、思い出すたびに鼻の奥がツンとし、学校ではタカト君の居そうな場所は避けた。もちろん放課後のグラウンドには近づかないようにして、彼のことを見ないように見ないように、ひっそりと過ごすようにしていた。

 別れを告げられてから1週間経った頃、友人のミエから「彼氏ができた」と報告があった。
 ミエはちょっと不思議ちゃんであったがとても美人で、発育もよく、同学年にしては大人びて見える子だった。そんなミエに彼氏ができた。一体どんな人が彼女のハートを射止めたんだろうと、二人で撮ったという携帯の待ち受けに設定された写真を見せてもらった。その瞬間、視界がグニャリと歪んだことを今でも鮮明に覚えている。
 ミエと並んで、頬をくっつけてピースしている相手。それは間違いなく、1週間前に私に別れを告げたタカト君だった。

 言葉が出てこなかった私に、ミエは「やえに言おうか悩んでたんだけど、隠しておくのも悪いなって思って」と言った。

 いや、悪いっていうかさ。だって1週間よ? 別れてまだ1週間。1週間の付き合いで、頬を付けてツーショット撮れるほどお近づきになれる? しかもお揃いのピアスしてない? 1週間で? どんなハイペース?

 と頭の中は大混乱。だが、当時の私は笑顔を作った。そして「彼氏できてよかったね」と小さく震える声で言ったのだ。
 
 そこからはあまり覚えていない。無垢な中学生の私にはショックが大きすぎたらしい。たぶん、笑顔を貼り付けたまま逃げるようにその場を後にしたのだろう。当時の私ならきっとそうする。
 
 ただ、親友であるセナが、私の代わりに憤慨していたことはしっかりと覚えている。
 セナは夏祭りにダブルデートをした親友だ。どれだけ私がタカト君を大好きで、フラれたことに傷ついていたことをよく知る彼女は、裏切りに近いことをしたミエに心底腹を立てていた。

 私はセナが怒ってくれたお陰で、案外冷静でいることができた。「ひっぱたかなきゃ気が済まん」と言って走り出そうとするセナを静止し、今更もういいよと笑うこともできた。

 その後は、廊下や教室の端で人目を憚らずいちゃつく二人を見かけたり、ミエからこんなデートをした、こんな喧嘩をしたと報告や相談を受けたりもした。
 最初はもやもやとした気持ちが湧いていたが、だんだんとそれも薄れ、しまいには面白く感じるようになっていった。
 
 というのも、なんとミエは今で言う「メンヘラ」というやつだったのだ。私も二人が付き合うまでそのことを知らなかった。タカト君が他の女子と話そうもんなら、物凄い形相でその女子を睨みつけたり、タカト君の携帯をチェックしたり、行動を逐一チェックするようになっていた。
 なぜか私まで疑われるようなこともあった。突然ミエがうちに来て「タカト来てるでしょ!」とヒステリックを起こすのだ。残念ながらうちに来てはいないし、人のものになってしまったタカト君に一切興味が無くなっていたので、妙な疑いをかけられてイライラしたものだ。
 
 一番愉快だったのは、「ミエが怖い、こんなことならやえといた方が幸せだった」とタカト君から連絡があったことだ。内心、ざまあみろとは思ったが、私はしおらしく「そんなこと言ったらミエが可哀想だよ」と言っておいた。二股かけておいて、何を今更。
 
 そう。後々わかったことだが、タカト君は私と別れる2ヶ月前から、ミエと二股をかけていたらしい。ミエから迫り、最初は困惑したが次第に流されていったらしい。
 メンヘラヒステリックを爆発させたミエがポロッと口を滑らせていたから間違いないのだ。
 私はそのことを知っていたから、タカト君が今更何を言おうと心が動くことはなかった。

 そのうえ、私にはすでに新しい彼氏ができていた。これから大人になるまでずーっと大好きな、「かっちゃん」という彼氏が。 なので、外野が何を言おうと、屁でもなかったのだ。

 最終的に、ミエは他の男性に乗り換えていた。とことん自分を大切にし、甘やかしてくれる男性へ鞍替えしたのだ。こっぴどくフラれたタカト君は、再び私に言い寄ってきたが、後の祭り。私はかっちゃんにぞっこんだったので、ほだされることもない。しつこすぎるメールや電話に辟易したので、アドレスを変え、着信拒否をした。
 ミエがヒステリック中に方方で「タカト君を私から奪った」と騒いだおかけで[二股男]のレッテルを貼られてしまったので、友人も減ったらしい。もちろん、それはミエも同様だ。
 

 中2の夏からの11ヶ月間、初めての恋人らしい恋人を、最後は嫌な形で失ってしまったが、この経験で一つ学んだ。大切な相手を裏切ったりするから、そうやって一人になるんだよ。と。

 浮気される側を体験するにはあまりに早すぎる年齢だったとは思うが、この後の歴代彼氏達に浮気させるような失敗はしたことがない。(と思う)
 
 そういう風に成長できたのは、癪だけどこの苦い思い出のおかげかなぁ、と、今の私は考える。
 私の恋人になる人には、浮気する暇なんて無いくらい、愛して笑わせて、私も一緒に楽しむのだ。その大切さを教えてくれたのは、残念ながら私に傷をつくったあの二人だ。誠に遺憾ではあるが。
 
 いやでもやっぱり癪だなぁ……。
 書きながら当時を思い出し、ため息の尽きないやえなのでした。

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