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#650「狙ってくる教官」
ジュンイチは修了検定を受けるために、指定された教習車の前に向かった。
教習車の前には髪の短いおばさんの教官が立っていた。
「え、やだ!!!」
ジュンイチの顔を見るなり女の教官は叫んだ。
「え、なんですか!?」
「………どタイプ!」
「は!?」
「どうしよう!!髭が生えてる顔の濃い30代来ちゃった!大好物来ちゃった!」
「え、あ、」
「あ、あの!今日担当させてもらう…教官のマツイです
#649 ずっと一口目みたいな男
「っっあー!!うめえ!!」
後輩はジョッキの飲み物を豪快に一口飲んだ。
「本当今日みたいな日は飲むに限りますよね!」
「まあ、そうだな。」
「俺思うんですよね。あの部長さえいなくなれば、今の職場すごいいい環境になるのになーって!」
「まあ、そうだな。」
「だって今日だって元はと言えば部長のミスですよね?」
「そうだな。部長の指示で俺たちは動いたわけだからな。」
「それなのに自分のこ
#648 手応え感じた男
「後ろこんな感じになってます。」
美容師の男は鏡を見せた。
「はい。ありがとうございます。」
「いやー、すごいいい感じです!」
「ですよね!すごいイメージしてた通りの感じです!」
「え、ですよねえ!やっぱりそうですよね!お客様的にもすごいいい感じですよね?」
「はい、いい感じです。」
「ですよねえ。いや普通ね、こんな綺麗にパーマかからないですよ。」
「そうですか!」
「うわあ、傑
#647 コーヒーを飲みに来た男
ノブオは喫茶店の扉を開けた。
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
メイド服を着た若い女が出迎えた。
「あの、1人なんですけど。」
「かしこまりました!おかえりなさいませ!」
「おかえりなさいませ?」
「では今からお屋敷の方にご案内しまーす!お屋敷の中にどうぞ!」
「お屋敷?あ、すみません。お屋敷とかは別に大丈夫なんですけど。」
「はい?」
「席に案内していただけませんかね?普通に
#646 怖がられる男
仕事終わりの24時、ノジマは疲れ切った様子でフラフラと家に向かって歩いていた。
酒屋の角を曲がって神社の前の通りを歩いていると、雑木林から何やら物音がした。
ノジマは足を止めて、音の方へ振り向いた。すると雑木林から、白い服を着て青白い顔をした髪の長い女の霊が出てきた。
「うわっ!」
思わずノジマは声を上げた。
「ギャーーーー!!!!」
そんなノジマの姿を見た女の霊は悲鳴を上げた。
「え?
#645 笑ってほしい男
「あー、どうも!本日担当させていただくカメラマンのヤマキです!」
カメラを持った感じの良さそうな男が、カトウのキャベツ畑にやってきた。
「いやー、立派な畑ですね。」
「ありがとうございます。」
「今回は店内のポップに掲載される、生産者の写真撮影ということでよろしいですかね?」
「あー、はい。なんかプロのカメラマンさんに撮られるのって緊張しますね。」
「緊張しなくていいんですよ。普段通り
#644 しまってほしい男
「こちらの物件なんかいかがでしょうか?」
女の店員はそう言って物件情報が書かれた紙を机の上に置いた。
「こちら駅前ビルの一階で、以前も飲食店が入っていた物件なんですね?立地にしては家賃も高くないですし、非常におすすめなんですけれども。」
女の店員の提案に、男は黙って考え込んだ。
「んー、やっぱりここも違いますかねえ。」
「あ、あの…。」
女の店員が次の物件を探そうとした時、男が言った。
#643 寝てほしい男
夜遅くの電車に揺られながら、男はウトウトしていた。
自然とまぶたが閉じ、意識が遠のいていった。そして男の体は次第に傾き、隣の男の肩にもたれかかってしまった。
「わ!ええぇ!?」
もたれかかられた男は声を出した。
「え、あ、すみません。」
眠っていた男は、隣の男の声で目を覚ました。
「ごめんなさい!」
「あぁ‥。うわぁ…。」
もたれかかられた男の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「
#642 諦めないでほしい男
ピンポーン
日曜日の午前中、マサルの部屋のインターホンが鳴った。
「はい。」
マサルが部屋を開けると、そこには白髪の男が立っていた。
「あ、あなたは…。」
「もうワシのことを忘れてしまったかな?」
「いいえ。雲龍先生ですよね?なぜここに。」
「いやあの〜…最近うちの工房の前に立ってないから。」
「は?」
「この前まで毎日うちの工房の前に立って、ワシの仕事終わりに弟子入りさせてくれ
#641 撮られる男
「じゃあ今日から撮影の方初めて行きますので、よろしくお願いします。」
カメラを持ったディレクターが言った。
「普段通り、仕込みやってればいいんですよね?」
シェフが尋ねる。
「はい。お店紹介のVTRで使う素材を撮りたいので。まあカメラ持ってうろうろしてますけど、気になさらず。自然な画を撮りたいので。」
「わかりました。」
「じゃあお願いします。」
ディレクターはカメラの録画ボタンを押
#640 忘れない男
「そうなの!俺ね、タバコだけは忘れたことない!俺結構忘れ物とかするんだけど、タバコだけは絶対右ポケット入ってる!」
「へえ、そうなんだ。」
閉店間際の居酒屋で男と女が話を続けていた。
「あ、あとイヤホンね!イヤホンも絶対忘れない!音楽聴きたい欲強すぎて、絶対忘れないの!俺音楽ないとマジで無理でさ…」
男は話ながらグラスを傾けたが、中には氷しか入ってなかった。
「あ、すみませーん!」
「
#639 辞めたい男
「やっぱり気持ちは変わらないか?」
上司は部下に尋ねた。
「そうですね。今月いっぱいでこの会社を辞めさせてもらいます。」
「まあお前の気持ちが固まってるなら仕方ないけど。できれば辞めないでほしいんだよな。お前はうちの会社の若手のエースだし。」
「そう言ってもらえるのはすごいありがたいんですけど。僕の気持ちは固まっちゃってるんで。」
「なあ、なんで辞めちゃうんだよ。何か他にやりたいことがあ
#638 アドバイスを聞く男
「じゃあ、お疲れ様です。」
カトウは少し遠慮がちに、タナベのジョッキに自分のジョッキを合わせた。
「いやー、タナベさんと飲めて本当に嬉しいです。ずっと色々お話聞いてみたかったので。」
「そんな風に言ってもらえて嬉しいよ。」
「タナベさん、営業の成績が毎月すごいじゃないですか。僕全然ダメなんで、営業のこととか色々聞いてみたいなーって思ってて。」
「ああ、まあ俺でよければ。答えられる質問は答
#629 臨場感のある男
ノグチが休憩室に入ると、イシバシが椅子に座ってうなだれていた。
「おい、どうした?」
ノグチは心配そうに声をかけた。
「ああ、お疲れ。」
「なんかあったのか?」
「聞いてもらえる?」
「うん。なになに、どうした?」
「さっき部長にすごい怒られてさ。」
「えー、なんでなんで?」
「呼び出されて部長のところ行ったら、その時点ですごい怒っててさ。」
「うん。」
「イシバシお前さ、俺
#628 インドカレー屋の男
「ナン、オカワリ、ダイジョウブ?」
頭にターバンを巻き、口髭をたくわえた店員が片言の日本語で客に尋ねた。
「あ、もうこれだけで大丈夫です!」
「ダイジョウブネ?」
「いやー店員さん。ここのカレーめちゃめちゃ美味しいですね。僕が探し求めてた味ですよ。」
「ホントニィ?ウレシイネ!」
「実は僕ね、大学時代に自分探しの旅でインド行ったことあるんですけど。その時に食べた本場のインドカレーの味が