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【塾生通信#13】「ゆこさん」という名のスパイスとして

入塾した暁には、専門の珍しさも活かしつつ、6期生のスパイスのような存在になれればと思っています。

6期生の、スパイス。

3月上旬、まだ使い慣れないZoomでの入塾面接。肩に力が入りっぱなしで挑んだ私の頭にそんなフレーズがふいに浮かび、気づいた時には脳内のフィルターを通ることなく口から流れ出ていました。

こんにちは。薮中塾6期生の小原由子(おばら・ゆこ)です。
通称、ゆこさん(「巫女さん」のアクセント推奨)。大阪生まれ東京育ち、関西弁と標準語のバイリンガル。趣味はお散歩、特技はカッターでの鉛筆削り、好きな食べ物は小さなお店で食べるスパイスカレー。
毎月2回更新されるこの薮マガの管理人としての顔も持っています。

今年3月に大阪大学文学部を卒業し、現在は大学時代の教授が関わる博物館叢書の編集やデザインに携わったり、NewsPicks発のキャリア系メディア・JobPicksのライターをしています。加えて、大阪・天満のチルドレンズミュージアム・キッズプラザ大阪の「創作工房」ワークショップスタッフとしても活動しており、表現・創作を通じた子どもたちの学びをサポートしています(つい先日、創作工房の活動に関しての記事を執筆させていただきました。よろしければお読みください)。
大学での専門は美術史(特に日本近代絵画史)。週に1度は近畿圏の美術館・博物館・寺社仏閣に院生や教授を含む研究室メンバー全員で足を運び、丸一日かけて様々な美術作品と睨めっこをするという学生生活を送っていました。好きな画家は河鍋暁斎、北野恒富、アルフォンス・ミュシャ、サミュエル・メスキータなどなど。

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(1月の予餞会にて。東洋美術史研究室あるある:写真撮影のポーズでなぜか印結びがち)

直感は、確かめてナンボ


入塾を決めた一番の理由は、他の多くの6期生と同じように、2月の公開イベントです。目の前でバチバチと繰り広げられる議論にディベートやディスカッションとは何のご縁もなく生きてきた私は話を理解するのがやっと。
ただ、元々とりとめもなく思索に耽るのが好きで、忌憚なく意見を交わす場を心のどこかで求めていた私の目に、タブーを恐れずに議論する薮中塾はとても魅力的に映りました。
かつ大学卒業を間近に控え、どっぷりと属してきたコミュニティを一つ離れる身でもあった私は、せっかくなら今まで自分が積極的に関わってこなかった分野の人たちと接してみたいと考えていたところでした。
これまでも国内外での一人旅や短期プログラム、長期インターン等、大学という枠を越えて好奇心の赴くがままに様々な環境に飛び込んできたつもりでした。しかし気を抜けばすぐに自分に似た空気を纏う人々との関わりで満足し、刺激によるストレスを忌避する傾向が私にはあります。
視野を狭めて傷つくことのない世界で楽をしようとする己の心に楔を打ち、多くを吸収するという意味でも、薮中塾は最適な学びの場なのではないか。また、元外交官の薮中先生の元に集まる学生のなかで、芸術学系出身の塾生の存在は特殊だろうし、何かしらの形で薮中塾に刺激を与えることができるのではないかとも考え、入塾を志願するに至りました。

…と、ここまでつらつらと書いてきましたが、実は今年の公開イベントに参加する随分前から、「私、薮中塾に関わるだろうな」という(かなり強めの)予感がありました(何を急にスピリチュアルな話を始めるんや、という感じですが)。
薮中塾の存在自体はなぜか3年程前から知っており(恐らく何かしらの媒体で当時の公開イベントの広告を見かけた)、「何してるのかあまり分からないけど、私の人生においてきっと大きな意味を持つことになる」という謎の直感が頭のかなーり片隅のほうで静かに働いていました。かといって具体的に調べたり活動を追ったりするわけでもなく時間が過ぎて行ったところ、今年2月、たまたま当時塾生だった友人2人から公開イベントに誘われたのです。不思議な縁だなとつくづく思います。
これまでも自分の人生に大きな意味を持ってきたもの(人/コミュニティetc.)との関係は、今回のような「あ、このご縁大事にせなあかん」という直感から始まることが殆どでした。
ただ「何となく流される」のがあまり好きではなく、「点としてみれば単なる偶然でも、自らの価値観に矛盾のない選択と行動を繰り返すことで、『人生』という線で振り返った時には必然へと導かれるのではないか」と考えてしまう私。
何故直感が働いたのかを、そのモノにコミットしていくなかで自分の人生の様々な場面と照らし合わせながら模索するようにしてきました。その結果、自分の根底を流れる価値観に何かしらの点で重なるモノが直感というアンテナに引き寄せられるようになってきているように思います。
薮中塾との出会いも、例外でなく、行動と哲学の繰り返しで自分の価値観に向き合い続けた結果の一つなのではないか、と考えています。

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(大阪・難波の爬虫類カフェにて蛇さんとともに。紺色無地ワンピースでこの手懐け様、付いた渾名はもちろん「魔女」。)

思考のスピードと要領の悪さに悩みながらも


さて、晴れて入塾したはいいものの、暫くの間は本当に何の結果も残せていませんでした。ディベート・ディスカッション初心者なことに加え、元々思考スピードが遅く、時間をかけて答えを練り出す性格だったこともあり、他の塾生が繰り広げる素早い論理展開に全く付いていけませんでした。偏った完璧主義が祟り、自分の意見を的確に表現する語彙がなかなか見つからないことで発言する自信が持てずタイミングを失った結果、「なぜあの時こう言えなかったのか、別に超絶的外れなわけでもなかったし、戸惑うことなく口にすればよかったじゃないか」と後悔することもかなりありました。
また(これは殆ど言い訳に等しいですが)、自分の専門から遠く離れた分野を勉強会で扱うことが多いためか、インプットに関するコストパフォーマンスが他の塾生に比べて圧倒的に低く、己の要領の悪さに愕然とすることもしばしばです。

私は何のためにここに在るのだろう。
多様性を謳う薮中塾に、専門が珍しいという理由でラッキーで入塾できてしまっただけで、自分は本来ここにいるべきでなかったのでは?

とさえ悩んでしまう日々が長らく続きました。

しかし、光陰矢の如しとはよく言ったもの。「悩みで日々を埋めているうちに薮中塾の活動が終了するのでは」と危機感を抱いてからは、少しずつ、内容は拙いながらも発言量を増やし、主張を恐れない訓練に励んでいます。最近は「あの意見、いいなと思った」と言ってもらえることも増えてきて、入塾当初に比べてSpeak Outする楽しさが分かってきたように思います。まだまだ満足の行くレベルには到底及びませんが、自分と相手、双方の主張のインプット・アウトプットのサイクルを早め、with Logicを達成できるように励んでいきたいと考えています。

また、活動を通じて「他者の視点・感情に寄り添い続ける姿勢を忘れない」という自分の強みも発見できました。
きっかけは8月勉強会。風俗嬢役の相談に乗るロールプレイングでカウンセラー役を担当したのですが、「ゆこさんはパターン的な対応を当て嵌めるのではなく、特に風俗嬢役が抱える心の不安に真摯に向き合ってくれていた」というフィードバックをもらうことができました。
キッズプラザ大阪のワークショップスタッフとして、子どもたち一人ひとりの学びを最大限にするため、それぞれの年齢・興味関心・バックグラウンド等に応じた最適なコミュニケーションを模索してきた私。
一方、薮中塾で扱うどんな社会問題を見ても、その根底にはシステムに翻弄される人たちがいます。そして多くの場合、システムを築く側と翻弄される側の間には大きな断絶があり、弱き人たちはその断絶を乗り越える知恵や体力を身につける余裕のないまま孤独や不安と闘っているのではないでしょうか。法や制度のような大きな手段より、「あなたは一人ではない」という一見何気ない言葉から、生きる意味を見いだされることもあるのではないか、と私は考えてきました。
塾生からのそんなフィードバックは、対象は違えど当事者の視点に寄り添おうと努めてきた経験が、このような形で活かされるのかと実感させてくれるものでした。

とはいえ、ミクロ視点に偏るあまり、マクロからの考察が出来なかったり現実的なプロセスを踏み切っていない飛躍した理想論を掲げがちなのが私の課題でもあります。ミクロ・マクロのバランスをとりながら、問題の本質に切り込む力を身に着けたいと思います。

「ここにいるのは、珍しいからなんかじゃない」


薮中塾での存在理由を見失いかけていた6月頃にある塾生からもらった言葉が、それから5ヶ月経った今も強烈に自分の心のなかで響いています。

「決して低くない倍率の中、ゆこさんが狭き門をくぐって塾生になれたのは、単に美術畑出身で珍しい存在だからなんかじゃない。選んだ皆が、ゆこさんと一緒に6期を創り上げていきたいと感じたからだ。まだ今はゆこさんを深く知っていない自分が偉そうなことを言える立場ではないけど、あなたがここに選ばれた意味は、絶対にある」

この言葉に今も強く励まされると同時に、最近、自分が抱き続けていた驕りにも気づくことができました。
それは、自分だけが、薮中塾に刺激を加える特殊な存在なのではない、ということ。
成程、「社会問題を議論する」という薮中塾の性質上、法や政治を専門に学ぶ人が自然と多くなるかもしれません。そのなかで薮中塾史上初の芸術学系出身の私は確かにある意味で「特殊」といえるかもしれません。
しかし、日々活動していくなかで、専門でカテゴライズしていた自分はなんて愚かだったのかと思うくらい、塾生一人ひとりが持ち合わせた異なる魅力に触れることができました。一人ひとりが、様々な色の熱意を胸に抱き、自分自身の成長、そして薮中塾全体の発展のために、それぞれ異なる形でコミットしていました。
そう、美術畑の私だけではなく、塾生一人ひとりが個性的な特徴を持ったスパイスであり、薮中塾はそれぞれの持ち味が光って初めて完成する、いわばスパイスの魅力をたっぷり掛け合わせたカレーのような存在なのだ、と。そして、より深い味わいの薮中塾を作れるよう、「ゆこさん」という名のスパイスとして出せる味を、美術畑というカテゴライズさえも飛び越え、卒塾のその瞬間までシェアしていくべきなのだと、今は考えを改めています。

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(高2の校舎改修前最後の日。人生で一度はやってみたかった「邪魔するもののない空間での飛び蹴りショットを撮る」が叶った瞬間です。それにしてもこの無駄な跳躍力、なんなん。※ずっと美術部です)

支柱として、己に誠実であれ

私は「自身の定義する『幸せ』に誠実である人を増やし、互いを認めあう社会を築くための支柱で在り続ける」という目標を人生に掲げています。そのためには私自身が自分に誠実であり、日々直接関わる周囲の親しき人たち、そして今日もどこかで自分の生活を支えてくれているやもしれぬ、顔も知らない誰かへの想像力を持ち続ける必要があると考えています。
「手触りのある世界から自分自身のアクションの成果を見出したい」と考える私が社会へ踏み出そうとする一歩は、大きな夢を掲げる他の塾生に比べればとても小さいものになるかもしれません。
それでも「ゆこさん」というスパイシーでブレない存在であり続けることが、行く行くは誰かの心を支えることを信じ、これからの日々も自分の持ち味を磨き続けていきたいと思います。

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(ドイツ・ハンブルク市庁舎前での一枚。幼馴染のコンサートを聞きに、はるばる向かいました。のびのびとしたええ街やったなあ。)

長くなりましたが、ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

6期生 ゆこさん

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