見出し画像

薮中塾12月勉強会報告

こんにちは!12月勉強会担当です。

今回は、12月19日に行われた勉強会の実施報告です。

1.テーマの概要

画像1

12月勉強会のテーマは難民問題
後期の勉強会テーマを決めるために行われたピッチ大会で難民問題が選ばれ、それに関心を持つ担当者6名で開催しました。

本勉強会の目標は二つ。

1.当事者意識をもちながら難民問題をとらえ、塾生全員が自分の専門性を活かしSpeak Outすること。
2.難民問題を学び、今後10年間における、難民問題に対する日本のとるべきスタンスを立体的に考えること。

2019年末、紛争や迫害により故郷を追われた人の数は7,950万人に達しました。この数は全人類の1%、言い換えると地球上の97人に1人に値します。2019年に新たに故郷を追われた人は1,100万人。その影響を最も受けているのが、脆弱な環境にある低所得国・中所得国です。

最大の難民受入国はトルコ(410万人)で、同国は5年連続で最大の難民受入国となっています。トルコの人口は約8300万人であるため、同国では人口の20%が国外からの難民ということです。トルコに次ぐ受入国は上から順に、コロンビア(180万人)、パキスタンおよびウガンダ(各140万人)、ドイツ(110万人)で、世界の難民の約85%が後進国で受け入れられています

一方日本では、2019年度における難民認定申請者数(一次審査)が10,375人であったのに対し、難民認定手続の結果、日本での在留を認めた外国人はわずか81人
(その内訳は、難民と認定した外国人が44人、難民とは認定しなかったものの人道的な配慮を理由に在留を認めた外国人が37人)
日本の難民認定率の低さは、国内外で批判の対象となっています。

画像2

<参考:G7+韓国 難民受け入れ貢献度比較>


このような、世界の難民問題と日本が抱える課題を捉え、「今後10年間における、難民問題に対して日本がとるべきスタンス」に関して各人が考える意見をSpeak Outすることを最終ゴールとして、勉強会構成を考えました。

12月勉強会は以下のタイムスケジュールで行われました。

画像3


2.第1部:導入・レクチャー

第1部は導入として、世界の難民問題の現状各国の受け入れ状況日本が抱える課題をブリーフィングし、塾生に本勉強会のポイントを提示しました。

画像4

画像5


3.第2部:テーマトーク

第2部ではグループに分かれ、6か国(テーマ)の難民問題の現状について理解を促進するため、テーマトークを行いました。
事前課題として塾生にそれぞれのテーマに関する問いを設定してもらい、発表を作ってもらった上で、当日はポスターセッション形式で発表・質疑応答・ディスカッションを行いました。
第2部の目的は以下。

1.第三部・四部で日本の難民政策を考えるベースとして日本と諸外国の難民政策の動向及び難民問題の主要論点を知る
2.世界の難民問題を議論し、適当な言葉・数字を用いて話せるようになる

テーマは以下の6つ。

a.シリア(紛争難民)
【問い:シリア難民が受入国先で抱える問題とは何かーー特に教育に着目して

画像6


b.南スーダン(途上国での難民受け入れ)
【問い:なぜ南スーダン難民は安全なトイレにアクセスできないのか

画像7


c.太平洋島嶼国(気候変動難民)
【問い:太平洋島嶼国の気候変動難民の概要

画像8


d.ロヒンギャ難民(宗教またはコロナと難民キャンプでの生活)
【問い:ミャンマーでなぜロヒンギャ難民が発生したのか

画像9


e.日本(長期収容、仮放免等の入国管理上の問題)
【問い:なぜ日本では難民申請希望者の超過滞在が問題になっているのか

図1


f.カナダ(社会統合・第三国定住)
【問い:カナダで移民・難民政策が成功している社会的・政治的背景とは

画像11


各グループ、面白い問いと結論を準備してくれたため、ディスカッションが非常に盛り上がりました。

4.第3部:ディベート

第3部では「日本は難民を積極的に受け入れるべきである。是か非か」をテーマにディベートを行いました。
日本の難民認定率が低く、受け入れに対して厳しい入管法があることは上で見た通りですが、第4部全体討論で自身の意見をSpeak Outするうえでも、改めて経済・社会・文化など多角的な観点から、日本の難民受け入れの課題を現状ををとらえ、メリットとデメリットを理解するべく議論しました。

※厳密には、難民受け入れには、入管法や難民認定制度が密接に関わっていますが、ここでは、法律や制度だけに焦点を当てた議論ではなく、政治や経済、社会、文化などの広い観点からの議論を促しました。
※実際には、難民問題を扱う際には、「難民が自国に帰ること」を最終Goalとすることが一般的ですが、現実的に紛争が長引いているため自国に帰るのは難しく、受け入れ国に長期的に滞在する事例が多いため、受け入れを一つのゴールとして扱いました。


当日のディベートでは以下のように活発な討論が行われました。入管法のみに固執しない、経済・社会・政治・文化の多様な面から立論が構成され、全体討論の上でも勉強になったという声もありました。

【肯定派】
・現在日本の難民認定は不必要に厳しく、難民条約を批准している国家として難民の庇護義務を放棄、迫害の恐れがあっても送還するということは、国際法にも国内法にも違反し、国際社会そのものに背を向けることとなる

・日本では特に介護市場で人手が不足しており、難民を労働者として受け入れることで労働力不足が解決する(移民受け入れにも積極的になる可能性)

・難民受け入れを通じ、従来とは異なる民族の人々が日本を訪れ、日本人は異文化理解、難民は自身の保護と双方へのメリットが大きい。社会の多様性が増すことで活力になる
【否定派】
日本こそ国際社会と協調し、人道支援に尽力している。さらなる負担は日本を衰退させる

・労働力としての難民受け入れはモラルハザードを生む

・難民をより受け入れることで、国外から持ち込まれる危険 (国内でのテロなど) が増大する可能性が高まる

・難民をより積極的に受け入れれば、社会的なコンセンサスが十分に取れていない中で国内からの反発の増大は必至であり、難民制度を濫用した技能実習生が増えると予測できる

5.第4部:全体討論

第4部では第1部~第3部までを踏まえ、「今後10年間における、難民問題に対して日本がとるべきスタンスとは」という論題に対して自分の意見を全体でSpeak Outしました。

画像12


特に、後のアンケートで塾生の印象に残った回答が以下。

段階的に受け入れるべき。マインド的なところで日本は治安悪化を気にしている点もあるが、治安悪化には繋がらないと分かってきている。段階的に受け入れていけば日本も一定の受入数が取れるのでは。

・難民と移民の違い。難民は人道的見地が一番大きい。他の国が受け入れているのに日本はそれで良いのか。グローバルな国民という意味での当事者意識をもっていかなくてはいけない

・外国人が周りにいるという不安はある。多文化共生の土台を作る支援が求められている。難民の受入は治安悪化につながっていないと言うが、これは、科学技術にも言えることで、原発、AIなど、専門家的なリスクがないという話が必ずしも市民に納得されるわけではない。多文化共生、移民についても、対話モデルが必要

・ディベートで賛成派は労働力になることを持ち出すけどそれはすごく失礼だと思っている。働けない人もいて、それでもなぜ受け入れなくてはいけないかというと帰れないから。難民というとネガティブなイメージになってしまうが、それは保守的な政権の影響もあると思う。実際難民がどういうひとなのか議論したり、正確なイメージを持つことが必要。

・この議論全部含めて見落としているのが日本は30人受け入れているという点日本で暮らすための支援を日本ができていない。この30人の受け入れ態勢をしっかりして、就労もスムーズに行けば、日本は受け入れだけが問題じゃなくて受け入れている人に対する保障をしっかりしているということをアピールできる。今もUNHCRに多額の拠出金を出している。

太平洋等諸国の状況が深刻。キリバスとかツバルとか、誰が海面上昇を引き起こしたのかというと、原因を作ったのは先進国だと思う。一方で紛争に日本が関わっているのかというとそうではない

・今後10年間においては、日本は難民を受け入れるべきではないと思っている。難民を受け入れる以外にも支援することは可能であってODAやUNHCRを通じて支援する。日本に来ることが果たして幸せかなのか、それは難民のwellbeingにつながらない

・難民を受け入れるのではなく、難民を減らすというアプローチをする方が現実的ではないか。


「積極的に受け入れるべき」「段階的に受け入れるべき」「10年間は受け入れるべきではない」「現状維持で良い」「受け入れたあとの体制を整えるべき」等、本当に多様な意見が見られ、1時間で活発な討論をすることができました。

6.総括

以上、12月勉強会の実施報告を盛りだくさんの内容でお送りしました。
実施後アンケートでは、塾生の皆から嬉しい言葉もいただくことができて(以下)、勉強会担当としても、非常に達成感がある勉強会になりました。

・最後の全体討論で収束していき、完成されている勉強会だなぁと感じていました

・難民という幅広いテーマを扱うための工夫と日本にとって大事な論点になるこれからの難民受け入れについての深い議論の場が設けられていて、とても良い勉強会だったと思います。普段暮らしていて、なかなか難民のことを考える機会は私にはなかったので、非常に意義深い機会になりました

・最低限の時間で様々な国の課題を把握できる構成で素晴らしかったです!また、全体討論で全員の話をじっくり聴ける時間があり、学びが深められて非常に良かったです


世界を取り巻く難民問題は日々複雑化・深刻化しています。
難民問題の解決に向かって、日本として、また個人としてどのように行動するべきか、しっかり自分の言葉で発言する機会を設けることができました。薮中塾の勉強会もすべて終わり(*1月20日現在)、残すは公開イベントのみ。
塾生の”Speak Out with Logic”力が入塾当初に比べて向上してきていることを最近強く感じます。最後まで駆け抜けていきましょう!

2021年1月20日 齊藤

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?