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「好きを仕事に」を叶えたバレエ講師に学ぶ「とりあえずやってみる」のチカラ

この記事は、オンラインキャリアスクールSHElikes(シーライクス)での、インタビューライティング課題を加筆修正し投稿したものです。

4歳からクラシックバレエを始め、現在はフリーランスとして、オープンクラスでのレッスンや専門学校での指導など、幅広く活動している中村文香さん。

就職せずバレエの道で生きることを選択した彼女は、アルバイトを掛け持ちしながら徐々に仕事を増やし、現在ではバレエに関わる仕事のみで生計を立てています。

多くの人が、好きを仕事にすることへの憧れを抱くなか、「バレエの先生になりたい」という幼少期からの夢を見事に実現した中村さん。

才能ある一握りの人物のように見える彼女ですが、道のりは意外にも「とりあえずやってみる」の繰り返しだったといいます。チャレンジするなかで変化した考え方や、好きを仕事にする上で大切にしているマインドとはどのようなものなのでしょうか。


「もっと上手くなりたい」が強まった初主演舞台。就職せずにバレエの道へ。

ーー4歳からバレエを続けていた中村さんですが、バレエを仕事にしたいと具体的に考え始めたのはいつ頃だったのでしょうか。

もともと、バレエの先生になりたいという夢は幼稚園のときからありました。自分が通っていた教室の先生にすごく憧れがあって、「先生みたいになりたい」とフワっと思っていたんです。

実際に、バレエを仕事にしたいと思ったのは大学3年生のときですね。その年の夏に発表会「シンデレラ」で主役をいただいたことが大きかったです。

ーー「シンデレラ」が中村さんにとって、初めての主役だったんですよね。

はい。いままでにないほどたくさん怒られましたし、生まれて初めて「痩せろ」と言われ、体重を10kg落としました。

当時、注意されたことや自分の気持ちを書いていたノートがあるんです。読み返すと、当時の私は周りからの目をすごく気にしていて、完璧じゃないといけないと思っていたことがよくわかります。

バレエ教室のみんなが敵に見えるぐらい精神的に追い込まれていて、発表会が終わったらバレエを辞めようと思うほど極限状態でした。

でも実際に終わって達成感を味わってみると「やっぱりバレエは楽しい。もっと上手くなりたい」と感じている自分がいました。

ーーもっと極めたい、上手くなりたいという考えが濃くなったからこそ、バレエを続けたいと思ったきっかけにもなったんですね。

就職活動が始まるなかで、週5日働いて2日休みだと、いままでと同じペースでバレエを続けられなくなると思うようになりました。その結果、技術が劣っていってしまうのがすごく嫌だったんです。発表会で鍛えたレベルを落としたくないと思いました。

柔軟な働き方もあったのかもしれませんが、当時は納得した環境の中でレベルを保つことを目指したいと思い、就職せずバレエを続けることに決めました。

ーー当時からすでに、やりたい仕事のイメージなどは持っていたのでしょうか?

それは正直ありませんでした。それよりもバレエをずっと続けていきたいという思いのほうが大きかったので、「こんな仕事がしたい」という理想像みたいなものはまだ描けていなかったですね。

NY留学で変化した「教えること」への向き合い方。

ーー大学を卒業した年に、NYに短期留学されていましたが、留学を決めた経緯はどのようなものだったのでしょうか。

大学卒業時に、日本のバレエ団オーディションに応募したのですが全部落ちてしまったんです。「それなら経験として海外にでも出してみるか」と応募したら取ってくださるところがあったので、そこに1カ月だけ行くことにしました。

ーーNYに行ったことで心境の変化などはありましたか?

自分はバレエに対して、すごく凝り固まった考え方をしていたなと気づきました。踊り方にしろ体型にしろ練習の仕方にしろ、「こうじゃなきゃダメ」みたいな。「絶対に上手くなきゃダメだ」という固定観念もありました。

日本での公演前は、根詰めた練習と食事制限をするのですが、NYではスケジュールに完全にオフがあって、やるときはやるし休むときは休むという感じでした。リハーサルの前後で普通に遊んだり、お稽古のあとも毎回パーティーみたいな感じだったりで、びっくりしましたね。

体重もシンデレラ公演から考えると15kgぐらい増えたと思います。でも、それでも楽しかったし自由でした。体重が増えてもレッスンで「綺麗よ」と言ってもらえると、「ああ、これでもいいのか」と思いましたし、先生がよく「もっと楽しみなさい」と言っているのを聞いて、いろんなバレエへの向き合い方があるんだと感じましたね。

バレエ団でのパフォーマンス期間が終わってからは、シェアハウスを借りてオープンクラスのレッスンを回っていたんです。そこでも、おじいちゃんとおばあちゃんがプロに混ざってすごく楽しそうにしているのを見て、「できなくても楽しそうに踊っているほうがいいな」と思いました。

NYに行ったことで、「こうじゃなきゃダメ」という考えがちょっと薄れた気がします。

ーー現在は、バレエ未経験の人に指導する機会も多いとのこと。NYでの経験があったからこそ、初心者への指導を楽しめている部分もあるのでしょうか?

そうですね。NYでの経験がなかったら、指導する人の対象は広がっていなかったかもしれません。当時から、通っている教室で指導のアシスタントをしていましたが、ある程度踊れる子に教えるほうが、言ったことをすぐに体現してくれて楽しいと思っていたんです。

でもNYに行ったことで、「いろんなバレエがあるんだよ」ということを子供たちに伝えていけたらいいなと思うようになりました。私がNYでしたような経験を、子供たちにもしてほしいと思ったんです。そのためには、やっぱり「先生」という仕事がいいのかなとも感じました。

いま講師をしている専門学校でも、ほかのダンス経験はあってもバレエは初めてだったり、なんならバレエが嫌いだったりする子もいるんです。そういう子たちに教えるために、音を工夫してみようとか、言い方のたとえをわかりやすくしてみようとか考えていますね。いまではそういったことに楽しみや達成感を見出しています。

「とりあえずやってみる」が切り開いた可能性。繋がった「人との縁」を大切に。

ーー就職しない道を選んだり、NY留学に行ったりと、中村さんは決断力がある印象を受けます。失敗したらどうしようと思うことはないのでしょうか。

私は、やらないと考え方が変わらないタイプなんです。何事も「やって変わる」。NY留学もそうですが、いままでも「やって変わる」経験を何回もしてきたから、何かするときにそれがいい方向に変わるかもしれないと思えます。だからまた次も、やってみようと思えるのかもしれません。

それでもし失敗しても、人生のどん底に行くことはないだろうと思っているんです。周りの人にかなり恵まれているからだけど、何かあったら誰かが助けてくれるという変な自信があります。だから、とりあえず何でもできる。「やってみてあかんかったら辞めたらいいやん」と思っています。

バレエを続けると決めたときも、最初はもちろん不安もありましたし、いまでもずっと葛藤はあります。でも、アシスタントの仕事を増やしてもらえたり、専門学校での講師の仕事が決まったりするなかで、「これで正しかったんだな」と思えてきました。

どこかのタイミングで決心したというより、とりあえずやってみてから少しずつ、この道で頑張ろうと思えるようになってきた感じです。

ーーいまではバレエの仕事が軌道に乗っている中村さんですが、普段から仕事をするうえで意識していることはありますか。

人との縁を大事にしています。人との繋がりが仕事を運んできてくれているんです。

たとえば、オープンクラスでの指導は、私が小さい頃から同じ教室に通っているお姉さんに「知り合いのクラスでバレエの先生を探しているみたいだけど、どう?」と声をかけてもらったのがきっかけでした。そのオープンクラスのオーナーが、さらに仕事を紹介してくださり、最近では新体操の指導も始めています。

仕事を紹介してくださった人はもちろんですが、生徒さんを含め、出会った人を大事にしています。与えられた仕事をきちんとやり、いい繋がりをずっと持っておくことが大切だと思っています。完璧にできているかと言われたらそうではないけど意識はしていますね。

「この人に仕事を依頼したいな」と思われる人でないと、新しい可能性に繋がることはないと思っています。

ーー小さい頃からの夢を叶えた中村さん。今後やってみたいことはあるのでしょうか?

最近オープンクラスで作品をつくり、別の方が主催する発表会に出させていただく機会がありました。そのなかで、「自分主催の発表会だったら、もっと生徒さん達にチャンスを作ってあげられるのではないか」という気持ちが湧いてきたんです。

だから、「中村さんに教えてもらいたい」と言ってくれる生徒さんが増えてきたら、将来的に自分の教室を持つことも考えてもいいのかなと思っています。

とはいえ、まだ自分もダンサーとしても活動したいですし、どこかに行きたくなったときにスケジュールを自由に調整できる身軽さは持っておきたいので、あくまでも将来の可能性の1つという感じです。

ーーこれからもバレエに携わるうえで、「なりたい姿」はありますか?

小さい頃は、とにかく自分の教室の先生みたいになりたかったんです。綺麗で踊りが上手で、いまでもみんなの憧れです。

指導者の立場になってレッスンを俯瞰して見るようになると、「先生がつくるスタジオの空気感って素敵だな、好きだな」と気づきましたし、それをつくる難しさも感じるようになりました。指導者として、私もそういう場所を提供できる人になりたいと思っています。

今後も変わらず自分のスキルを上げ続けていきたいですし、スケジュールさえ合えば、ショーへの出演など、いろんなことにチャレンジしたいと思っています。仕事の間口を狭めず、ダンサーとして高みを目指すことと、指導者であることの両方を続けていきたいですね。

好きを仕事にする方法に「正解」はない

いまでは好きを仕事にしている中村さんも、初めから現在の姿を想像していたわけではなく、「バレエを続けたい」という一心だったことに驚きました。

一貫していたのは、「好きだな」「やりたい」「挑戦したい」と思ったことを「とりあえずやってみる」こと。やってみたから変化が起き、変化したから見えた選択肢があったようです。

彼女のその姿勢は夢を叶えた現在でも変わっていません。出会った人との縁を大事にしながら、専門学校、オープンクラス、新体操の指導と、あらゆる形でバレエに携わっています。

好きを仕事にするためには、確かな1つの正解を探しこだわるのではなく、挑戦したい気持ちに蓋をせず、「とりあえずやってみる」ことが1番の近道なのかもしれません。


中村 文香(なかむら ふみか)
4歳よりスミノバレエにてバレエを始める。角野由佳に師事。夏山周久演出・振付「シンデレラ」にてシンデレラ役を務める。他、ドン・キホーテのキトリ、エスメラルダなど多数舞台出演。FLAPバレエコンクール優秀賞、クリアバレエコンクール入賞第3位。アメリカNYに短期留学、舞台出演スミノバレエにて指導、アシスタント。大阪ダンス・俳優&舞台芸術専門学校バレエ講師。大阪本町Primetimeにてバレエクラス開講。









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