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【おすすめ本】櫻田智也『蝉かえる』昆虫好きの青年が数多の事件を解き明かす

個人的におすすめのミステリーをご紹介します!

作者は櫻田智也さん。
元webライターで、2013年に魞沢泉シリーズの1作目にあたる「サーチライトと誘蛾灯」で第10回ミステリーズ!新人賞を獲得しデビューをされました!

「蝉かえる」ってどんな話?

本作は、昆虫好きの青年、魞沢泉(せりざわせん)が探偵役となるミステリー短編集です。
毎回ゲストの登場人物の視点で物語が語られ、魞沢は毎度(不幸にも)事件に巻き込まれる形で登場をします。

タイトルの通り、すべて何かしら虫をテーマとなった物語となっていて、傍から見ると奇妙な事件を、一見すると頼りない昆虫オタクの青年、魞沢が解き明かすというのがオーソドックスな流れとなります。

『亜愛一郎シリーズ』のオマージュ?

この作品の良さを語る上で、泡坂妻夫さんの推理小説『亜愛一郎シリーズ』について知って頂く必要があると思います!

『亜愛一郎シリーズ』は1978~84年に刊行された、カメラマンの青年、亜愛一郎が主人公の短編ミステリーです。

語り手は毎回ゲストの登場人物となりますが、亜愛一郎は傍から見ると妙にマニアックな事に興味を持ちたがる臆病で頼りない青年なのですが、事件に直面するとすぐに真相を解き明かしてしまい瞬く間に事件を解決してしまいます。

ここまで読んで頂いた方は分かるかと思いますが、本作「蝉かえる」は『亜愛一郎シリーズ』に非常に似た構成の物語となっております。

僕も前作の「サーチライトと誘蛾灯」を読んだ際は、『亜愛一郎シリーズ』の正当なオマージュ作品という印象で楽しんで読まさせて頂きました。

気弱な青年、魞沢泉の魅力

ただ、その評価も「蝉かえる」を読んだ事で、良い意味で一変しました...…!

前述の亜愛一郎については、第三者視点で心理描写も描かれるのですが、どちらかというと事件に怯えていたり変な事に興味を持ってみたりと表層的な部分が多く、そういった少しミステリアスなところも魅力でありました。

しかし、「蝉かえる」で描かれる魞沢泉は、事件に心を痛ませたり自身が推理を行う事に躊躇をしたりと、事件に対してしっかりと向き合って心が揺れる描写が随所で描かれます。

そこで、僕の中の印象も『亜愛一郎シリーズ』のオマージュから、<魞沢泉という気弱だけど心の優しい一人の青年の物語>という風にアップデートされました!

もちろんミステリーとしても面白い!

ここまでキャラクターの事を中心に感想を書きましたが、数々の賞を受賞している事からもわかるように、純粋にミステリーとしても面白いです!

派手なトリックはありませんが、一見すると不可解な状況から意外な真相が導き出される流れはどれも素晴らしいです!

特に収録されている一遍「サブサハラの蠅」に関しては、ほぼ場面が変わらず登場人物も少ないにも関わらず想像もしなかったような事件に繋がっていき、前述の魞沢の心理描写も相まって非常に秀逸な作品でした!

気になった方はまずは前作の『サーチライトと誘蛾灯』を読んで頂き、面白いと思ったら『亜愛一郎シリーズ』も名作なので読んで頂ければと思います!


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