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創業期のPMF、業界にイノベーションを与えるプロダクトを創る

会場は40人、いや50人以上いたかもしれない。
沖縄の色んなホテルの責任者たちが那覇の会場に集まってくれていた。

起業早々の当社にここまでの集客力はなく、パートナーであった旅行会社の開くホテル向けの勉強会の枠をもらい、私はそのスピーカーの1人として、タイムデザインの考えやプロダクトを説明するところだった。

2006年の夏だった。どれほどの時間をプレゼンしたかあまり覚えてないが、結論から書くと、プレゼンへの反応は散々だった。

ホテル業界の持つ課題。

ホテルの販売チャネルは、直販が3割、旅行会社などの外部に7割を頼っている。(2006年当時はきっと今よりももっと直販率が低かったはず)
ホテルは、旅行会社などの外部へ15-25%の高い手数料や、アロットメントといって部屋をまとめて旅行会社が仕入れるものの売れない場合には直前に支払いなく返却されるという旅行会社都合極まりない条件に苦しめられていた。そして、そういう世界は今も続いている。

なぜ直販が少ないかには業界構造もあるが、ホテル・飛行機やレンタカーなど、顧客が予約するものすべてをひとつの「旅行商品」と考えると、ホテル単独では「旅行商品」が完成しないのだ。その結果、顧客はいくつものウェブサイトを買い回って「旅行商品」を自ら完成させなくてはならない。残念ながらホテル単体の力ではその課題を埋めることができていなかった。

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結果としてホテルにとって旅行会社という業態は必要不可欠な存在となり、本来旅行の中心がホテルであるはずが、なぜか移動手段との組み合わせを担う旅行会社が力を持ってしまう。これが先に書いた条件の悪化につながってしまっていた。

当社の解決課題はこうだ。

私たちのこの課題に対するアプローチは、ホテルが旅行提供する上で必要となる①旅行業免許、②航空券等の仕入、③カスタマーサポート体制、そして④予約システム、を備えたSaaS型プラットフォームを用意し、ホテル公式サイト内で旅行販売を可能とする。

そして、ビジネスモデルにおいても初期費用や固定費用を無くし、成功報酬型とすることでホテルの負担を減らした。営業効率を上げる狙いからもなるべくリスクフリーとした。

当時のものは、様々に改善の余地があるものであり、現在の国内や世界のあらゆる航空会社に対応しているよと比べると航空会社もJALのみや提供路線は限定されているものであったが、ホテルの課題を解決するダイナミックパッケージソリューションの始まりだった。もちろんANAの旅作も、JALダイナミックパッケージもない時代だ。

話をまた2006年のプレゼン会場に戻そう。

そんな強い思いをもってプレゼンテーションを行ったが、会場の反応は冷ややかなものだった。質問を投げかけても反応がなかったり。正直会場から逃げ出したいくらいだったけど、何とか同じ週でいくつかのホテルと個別打ち合わせのお願いをして何とか約束をもらえました。

全体では意見がなかった先も、個別の打ち合わせをしていく中で徐々に本音が見えてきた。
「取引している旅行会社の機嫌を損ねたくない。」
「ホテルのほとんどが旅行会社経由の販売に頼っておりそれが普通だ。公式サイトで売れると思わない。」
「あなたはどこの業界出身だい?この業界のセオリーがわかってないみたいだから元の業界へ戻った方がいいかもしれないよ。」
とまで言われてしまった。愕然としました。プロダクトが課題を解決するとしても業界の慣習を変えるのは容易ではなかったのです。営業の道中、力不足に涙をしました。

そんな中、老舗の大型リゾートホテルの言葉に救われました。
「きっと多くのホテルがいきなりはこのサービスを利用できないだろう。皆初めてのものは怖いんだ。でも君の言っていることはわかるし我々ホテルも変わらなければならない。もし我々のような老舗が利用したならば他のホテルにとっては動く勇気やきっかけになる。だからやってみよう。」
全体でのプレゼンと、個別のミーティングの説明には大きな違いはない。あるとすれば情熱を持ってこの業界の課題を解決したいことを改めて解いたことかもしれない。なぜあの時やってみようと言ってくれたかわからないが、その方の言葉に我々は今も勇気づけられています。

こうして沖縄のホテルで、ホテルと航空券を組み合わせるダイナミックパッケージの販売が開始された。事例に事例を重ね、現在では沖縄県では約8割のホテルに我々のソリューションを活用いただいている。

2006年当時PMF(プロダクトマーケットフィット)なんて言葉はなかったけど、ホテルへサービスを提供し、業界を理解し、フィードバックをもらい、常に少し先のニーズを開発する。それを繰り返し行うことで、よりマーケットに求められるプロダクト/サービスになっていくということだ。困ったときこそ顧客の声に耳を傾けてなければいいプロダクトにはならないのだ。

読んでいただき、ありがとうございます!

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