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『人間の条件』を読んで

少し時間があいてしまいましたが、『人間の条件』を読んだ感想をカジュアルに綴っていこうと思います。京都(物産展)土産の八ツ橋(ニッキ)を食しながらで恐縮です。……

前回の続きなのでこちらもぜひご覧ください。

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ハンナ・アレント『人間の条件』志水速雄訳 ちくま学芸文庫

アレントは本書の中で、労働、仕事、活動、この三つのうち、どれが良くてどれが悪い、という言い方はしていませんでした。
しかし、市民革命と産業革命を経て成立した大衆消費社会における、「労働」の圧倒的優位について警鐘を鳴らしており、また一方で「活動」の重要性を強く訴えているのは明らかです。

アレントは、人間として今一番大事なものはこれだ、と主張するのではなく、複数の価値を認めたうえで、人間が人間らしく生きていけるための、世界のバランスについて考えている。

このようにみると、アレントの哲学は、世界が一元的な価値観のもとに支配され人間性が損なわれるような状況、つまり広い意味で全体主義、の批判になっている。

この本は全体主義について詳しく論じた本ではありませんが、アレントの考える内容以前に、アレントの考え方、概念を整理するやり方そのものが、全体主義に抵抗しているということ。そのことを確認し、僕は強く感動しました。


さて、ここからはもっと自由に、アレントからも脱線しながら書いていきます。

アレントのように真面目に政治や公共について考えなくても、もっと普通に、私たちの生活に身近な形で、アレントの哲学を使うことはできると思いました。

労働、仕事、活動。

これらはどれも人間が人間であることの条件から要請される必要なことであり、また、人生を充実させるものです。

アレントはおもに社会全体でこのバランスを見ていましたが、個々人でこのバランスについて考えてみてもいいと思います。

たとえば、オフィスで働いている人(労働)は、趣味で絵を描いてみたり(仕事)、描いた絵をどこかで発表して誰かと意見を交換したり(活動)。そういうことをやってみると、普段の生活だけでは満たされないような充実感が得られるかもしれません。

三つの概念を知ることで、自分が日々行っているのはどの活動かを分析することができ、自分の生活を見直すきっかけになるかも。

社会は役割分担などと称して、この三つの活動を人に分けて与えがちです。

活動は政治家に、芸術は芸術家に、農業は農家に。

また一つの組織であっても、

経営は経営者、製作は制作部、営業は営業部。

このように人が行う活動を分けるのがただちに悪いことだとは思いませんが、やはり、限界や弊害もあると思います。そんなとき、一人一人の人間の活動が三つの活動のバランスを欠いていないか、考えてみる価値はありそうです。


また、現代は労働と仕事の成果物が過剰な時代でもあることには、さらに注意が必要かもしれません。

現代ではフードロス(食品は労働の成果物)などが問題になっていますし、動画配信サービスが充実し、時間さえあれば仕事の成果物(作品)をほとんど無限に鑑賞できます。

しかし、過剰さで人は満たさせるのか、と問うてみてもいいでしょう。そんなときは、その成果物が生み出された活動、それを行った人に思いをはせてみるのはどうでしょうか。

この料理は誰がどうやってつくったのか、食材はどこから来たのかを知ると、目の前の一皿をより深く味わうことができる。

道を掃除してくれていた誰かに気づくと、感謝の気持ちがわいてくる。

作者の意図が分かると、作品の鑑賞が一段と深まる。

そういうことがあるように思います。


ところで、(政治)活動の成果物とは?

基本的には多くの労働と同じように、活動にも成果物はないとアレントは言っていました。しかし、モノが残らなくとも、活動を一つのサイクルとして締めくくる要素は考えた方がいい気がします。つまり、僕が考えたのは、アレントの、「行い→成果物」という図式ではなく、「行い→その終点」という図式に読みかえられないか、ということです。実際にやってみると、

労働→消費財

仕事→作品

活動→無し

ではなく、

労働→消費

仕事→鑑賞

活動→???

と、こうなります。

すると「???」の部分、活動の終点とは「反省」ではないでしょうか。

現実の政治の言説を見ても、現状はこうだ、とか、これからこういうことをやる、といった話はよくありますが、この政府はこの何年でこういうことをやった、それでどうなった、というような話は少ない気がするので、活動も反省が必要で、ひたすらやればいいというものではないような気がしました。


労働と仕事のバランスについて考えていると、宮沢賢治を思い出し、彼の私塾や文章についても興味が再燃してきました。

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