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『30女の思うこと〜上海女子物語〜』③ジョン・シャオチン編


中国で総再生回数71億回超を記録した、上海在住アラサー女子のキャリアストーリー。

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今回紹介するのは、三人目のヒロイン、ジョン・シャオチン

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夫と二人暮らしのお気楽OLの悩み


上海生まれ上海育ち。
大手不動産管理会社で働くシャオチンは、仕事や昇進に特に野心がないOL。ファッション雑誌風に表現すると、ゆるキャリ系OLでしょうか。


ちなみに、三人のヒロインはシャオチンを介して繋がりました。

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ジアとは大学の同級生、マンニーの勤めるブティックはシャオチンが勤務する不動産管理会社のテナントで、縁あってシャオチンとマンニーは親しくなります。それから三人で集まるようになります。

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頼まれるとイヤと言えない性格。きっぱり断れないから、同僚にも当たり前のように雑用を頼まれて、いつもアタフタしています。いつまでたっても下っ端扱い……そんなシャオチンの姿に、要領のいい後輩くんが見かねて彼女を手助けしてあげたり。どちらが先輩なんだか(笑)

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シャオチンの悩みは、夫との会話が無いこと。つかみどころのない夫の心がわからなくて寂しさを感じています。

アラサーモラトリアム? 子供おばさん?


見合い結婚の夫、チェン・ユーはTV局勤務。なかなか当たりのキツい女性の上司の元、ストレスフルな仕事をしている様子。
趣味は鑑賞魚の飼育。家のリビングのど真ん中には大きな水槽があって、暇さえあれば嬉しそうに魚の世話をして、魚を眺めるのが至福の時間。

一方のシャオチンは猫を飼っていて(その猫が水槽の魚に隙あらばちょっかい出してきます笑)、お互いに妻や夫と向き合うよりもペットの相手をしている方が落ち着くようです。

シャオチンは家事もあまり得意でないのと大雑把な性格だからか……家の細かいことは全て夫任せ。(夫、職場でも家でも忙しそうです)


夫が取材や出張でいないと、シャオチンは必ず実家に帰ってしまいます。両親も一人娘を甘やかしているので、実家でも何もしないシャオチン。いつまでたっても娘気分が抜けないアラサーちゃんです。

こんなアラサーちゃんを「子供おばさん」と揶揄する向きもあります。精神年齢が低く大人になりきれていない、恋愛においても相手に依存するばかりで「相手を愛する」ことができません。相手を愛することよりも自分が愛されることを望む、意識のベクトルが自分だけに向いた状態、といえるでしょうか。


こんなシャオチンを見て思い出すのが、エリクソンの【漸成的発達理論


エリクソンの漸成的発達理論とは、エリクソン(Erikson, E H)が提唱した、人間の発達を包括的に捉える理論のこと。

「乳児期」「幼児前期」「幼児後期」「学童期」「青年期」「成人期」「壮年期」「老年期」の8つの発達段階があり、それぞれ「心理社会的危機」が存在し、人間はその心理社会的危機を乗り越えること(課題達成)で獲得することがある。


エリクソンは「アイデンティティ」の概念を考案した人で有名です。

アイデンティティとは、自我同一性とも言われ「自分はいったい何者なのか」の明確な答えとしている。「青年期」の発達課題であり、アイデンティティを獲得するまでの社会的猶予期間を「心理的モラトリアム」と言う。


アラサーのシャオチンに関係あるのは6番目の発達段階「成人期」ですね。

成人期(22歳から40歳頃)
成人期は、職場や家庭など現実的な役割を担い、責任を負うようになる期間である。さらに同性や異性との関係を重要視する(親密性)。親密性を獲得していくためには、アイデンティティを獲得されていなければならず、相手に受け入れられないと後ろ向きな感情が生まれる(孤独感)。


シャオチンは、結婚して「妻」「嫁」の役割を担い相応の責任を負っているかというとそうでもなく……周りの皆に許され庇護された「お嬢ちゃん」のままです。

自分にまるで関心がなさそうに見えるパートナーの態度に、シャオチンは孤独感をおぼえます。

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転機もいろいろ(シュロスバーグ)


そんな彼女の転機は、想定外の妊娠。夫に報告するも、積極的に子供を欲しくない夫は浮かない顔。

(夫は夫で、両親の離婚により貧しい家庭で母一人に育てられたという過去があり、自分が父親になることを逡巡しているようです)

シャオチンのことは大切に思っているのに、口下手で思いが伝わらない夫と、もっと夫に(わかりやすい形で)構ってほしい甘えん坊のシャオチン。

すれ違いから少しずつ心が離れてきているのを感じているだけに、シャオチンはこの妊娠をきっかけに夫との関係を好転させたいと考えていました。産むことを決心するシャオチン。



折しも、職場ではシャオチンに昇進話が持ちあがりますが、そこまで仕事に対しての欲がない彼女は、上司にその場で断ってしまいます。


そして、妊娠を上司に報告する前に、流産(正確には胎児発育不全)してしまったのです。

シュロスバーグの【トランジション理論】で言うところのノンイベントの転機です。

シュロスバーグ(Shlossberg.N.K.)は急速に発達する社会で起こる様々な人生上の出来事(イベント・ノンイベント)をトランジション(転機)をとして捉えた。


期待していたことが「起こらなかった」ことも転機
のひとつと考えられています。

転機の際には次のような変化が1つまたは2つ以上起きる、と言われています。

人生役割の変化:人生の役割が失くなる、または変化する

人間関係の変化:人間関係が強まったり弱まったりする

日常生活の変化:何を、いつ、どのように行うかなどが変化する

自己概念の変化:自分に対する考え方、認知の仕方が変わる


親になる、という機会が失われてしまい(人生役割の変化)、夫との婚姻関係が破綻してしまい(人間関係の変化)ました。


この流産という出来事からさらなるすれ違いが生まれ、ついに二人は、シャオチンの30歳の誕生日に衝動的に離婚を決意します。


転機に際し、よりよいキャリア形成へ進むための対処法として【4S点検】を提唱しています。

転機を乗り越える資源(リソース)をシュロスバーグは4Sで表しました。4Sとは…Situation(状況)Self(自己)Support(支援)Strategy(戦略)の頭文字を取ったもの。


シャオチンは転機を乗り越えられず、二人は離婚することになります。シャオチンの場合、どのリソースが不足していたのか考えてみました。


Situation➡︎夫婦の問題を二人で解決できなかった。仕事で問題を抱えていた夫にも、妻を支える精神的な余裕がなかった。

Self➡︎年相応の大人になりきれていない。「妻として」よりも「娘として」の自分を優先してしまう。


といったところでしょうか。


終わりが始まり〜トランジション理論(ブリッジズ)


夫、チェン•ユーとの結婚生活が終わり、シャオチンは新しい人生を始める決心をします。


これぞ、ブリッジズの【トランジション理論】!

ブリッジズ(Bridges, W)の提唱したトランジション理論は、人生の転機(トランジション)のことで、「過渡期」とも呼ばれる。トランジションには下記の3段階があるとされる。

 第1段階 終焉➡︎何かが終わる時
 第2段階 中立圏➡︎ニュートラルゾーン
 第3段階 開始➡︎何かが始まる時


第1段階は「何かが終わる時」から始まります。

シャオチンの場合は、チェン・ユーとの離婚。(人間関係の終了)


第2段階は「ニュートラル•ゾーン」

内的な再方向づけにも大切な時期です。転機をどのように受け入れていくのかという問題に直面し、喪失状態・深刻な空虚感を感じる段階です。このプロセスは長く、進むべき方向がわからず、停滞しているかのような感覚になるといいます。


この、試練とも思える「ニュートラルゾーン」を乗り切るための対応としては、以下の6つの対応が示されています。

①一人になれる時間と場所を確保する

②ニュートラルゾーンの体験の記録をつける

③自叙伝を書く

④本当にやりたいことを考える

⑤自分の死亡記事を書く

⑥自分なりの通過儀礼を体験する


①自然の中を散歩する、静かなカフェで休むなど、自分一人になれる環境に身を置きます。

②ニュートラル・ゾーンにいるときに思いついた様々な思いや考えをそれらをノートに書き留めてみます。

③これまでどう生きてきたのかを書き出してみます。

④自分の思いや欲求に目を向け率直に自分は何がしたいのかを自身に問いかけてみます。

⑤もし今死んでしまったら心残りは何かを考えてみるというもの。第三者的に書いてみることで、自分が本当は何をしたかったのかを客観的に知ることができます。

⑥例えば、数日間一人旅に出るなどして非日常な世界に身を置いてみます。旅のあいだに考えたこと、感じたことをありのまま書き留めておきます。

ニュートラル•ゾーンでは、とことん過去を振り返り自分自身と向き合い徹底的に考え悩むこと……「自己理解を深める時期」とも言えますね。


自分を知ること

シャオチンは、絵を描いたり文章を書いたりすることが得意です。

シャオチンはブログで、夫との間に起きたことや日常のこと、心の内を表現し始めます。また、教習所に通い車の免許を取得したり、年下のボーイフレンド(シャオチンを助けてくれる会社の後輩くん)に連れられて気球に乗ったりあちこち出かけたり……。

このボーイフレンドの存在は、シャオチンが辛いニュートラル•ゾーンの時期を過ごすのに大きな助けになったはずです。彼は心の動くままに行動し、感情は押さえ込まず喜怒哀楽を表現するタイプです。そんな彼のお蔭で、シャオチンの心のブロックが徐々にはずれていきます。

自分の心を素直に見つめることで、何が大切なことなのか、自分が本当に求めているものが何なのか、ありたい自分の姿にシャオチンは気づきます。


そして、シャオチンにとって夫、チェン•ユーの存在がどれほど大きいものかをはっきりと知るのです。(シャオチンのことを好きな後輩くんにとっては皮肉な結果になりましたが。)

シャオチンのブログは好評を博し、書籍化の話が持ち上がります。

しんどい思いを経験して、ニュートラル•ゾーンを抜けたシャオチン。

互いにパートナーを思いやる気持ちが生まれ、二人の関係は新たなステージに向かいます(微妙にネタバレを避けようとした表現)。


次回は、番外編をお届けします。お楽しみに♪