薫衣

薫衣(くのえ)。

薫衣

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最近の記事

寝て疲れる

    • 白鳥の歌

      森の奥深く、澄んだ泉のある方向から作曲家は白鳥の鳴き声を聞いた。 夜も更け、狭く散らかった家からは足音一つ聞こえない。 空いた窓の外から木枯らしの音と夜に時折、白鳥の鳴き声が聞こえるくらいだ。 作曲家には夢があった。 壮大な曲を書き自らの曲と名前を歴史に残すことを長く、夢見ていた。 だが、どれほど死力を振り絞り曲を書き続けても作曲家の作品が世に認められることは無かった。 何本もペンを折ったー、その度に心も折れる音がした。 作曲家には妻があった。 痩せ細り、かつ

      • ジャズ評論でも始めようかしら

        • 【読書感想】流浪の月

          明るく読みやすい文体と暗澹とした社会問題のテーマのコントラストが終始引き立ち、一貫していた。 生きていて辛いことは数多くある。 第三者が見える形だけを切り取り騒ぎ立て、本人達の言い分を聞かず心無い数多くの言葉を浴びせる。 少女更紗と青年文はある日公園で出会い、共に過ごすようになる。 共に暮らした期間はお互いにとって幸福であり、気を許し会えるかけがえのない時間だった。 その幸福を引き裂いたのは社会だ。 更紗は共に暮らす叔母の家でその息子からの性被害に逢い社会そのものを

        寝て疲れる

          【随筆】真夜中の音楽

          物事を深く知るには時間がかかる。 音楽でも文学でもそれは同じだ。 僕はCDを集めることが好きだ。 休日は気の赴くままに聴きたい音楽をCDプレイヤーにセットし、再生する。 ジャズのアルバムを買い集めるようになってしばらく経った。 持っているアルバムも、少しだけ増えたがタイトルも言えないアルバムがほとんどだ。 だが、どのアルバムにどの曲が入ってるか。 このアルバムにはどんな良さがあるか。 それだけははっきりとわかる。 奏者の名前や発売された時期、経緯などはもっと時間を

          【随筆】真夜中の音楽

          【随筆】文章を書きたい欲求

          小説家に向いている人とはどんな人なんだろう。 慌ただしい日々の微かな瞬間、一息をつくとふと文章を書きたい欲求に駆られる。 文章に書きたい内容は色々だ。 こんな良い時間を過ごせただったり、こんな良い映画を見た。こんな嫌なことがあったなど、様々な思考が吹き出しになり文章として形成されようとする。 画家がデッサンをしたい風景に出会った時、あるいは写真家がシャッターを切りたいと思った時、欲求の起源はどれも同じなのかもしれない。 文章を書くことは好きだ。 けれど僕がやっているそれ

          【随筆】文章を書きたい欲求

          【映画感想】首

          北野武作品の映画を見たのは初めてだ。 時代劇を見ることも随分久しぶりだった。 僕は連帯責任という言葉が大嫌いだ。ある組織に所属し、その組織の誰かが失態した場合同じ組織に所属していたという理由だけで失態した者と同じペナルティを背負わされる。 中学の時の部活で連帯責任という言葉にとても苦しめられた。 なんでこんなことを書くのかと言うと、映画【首】の冒頭では信長に反旗を翻した荒木村重の謀反が鎮圧されるというシーンが描写されている。 鎮圧された結果、捉えられた荒木村重の一族

          【映画感想】首

          【小説】死者と暮れ

          引きこもりの兄がある日死んだ。 揃っていたパズルのピースが大きく欠けたようなそんな虚無感だけが残って、悲しさはあまり感じなかった。 お父さんとお母さんが難しそうな顔をして話しているのをよく見るようになった。 死因とか、自殺とか、私にはよく分からない感覚だった。 その日は、隙間風がいつにも増して冷たい冬だった。 私は、兄の亡霊を見たのだ。仏壇に飾られた顔写真、その写真の服装のまま仏間の端で背を丸めて蹲っていた。 体は壁側に向いていたので顔は見えなかった。だけど、あれは兄

          【小説】死者と暮れ