薫衣

薫衣(くのえ)。作家。

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薫衣(くのえ)。作家。

最近の記事

雨の日の夜にジャズを聴くという休日

    • 【プラトンの日】

      一昨日に題名をつけるとしたらプラトンの日、と名付ける。 私は読書を趣味にしている。本を探るうち、哲学に対する好奇心が湧いた。 それ以来浅く広く、ゆっくりと哲学に対して知識を集め、興味のある思想が明晰としてきた。 しかし哲学書というものは難解なものである。 アリストテレスのニコマコス倫理学は既読だが、その他に歴史的に有名な哲学書は未読だ。 そんな時、後輩の一人からポッドキャストというアプリを勧められた。様々な番組がラジオのように楽しめる。その番組の一つに「日本一楽しい哲学

      • 【随筆】真夜中の音楽

        物事を深く知るには時間がかかる。 音楽でも文学でもそれは同じだ。 僕はCDを集めることが好きだ。 休日は気の赴くままに聴きたい音楽をCDプレイヤーにセットし、再生する。 ジャズのアルバムを買い集めるようになってしばらく経った。 持っているアルバムも、少しだけ増えたがタイトルも言えないアルバムがほとんどだ。 だが、どのアルバムにどの曲が入ってるか。 このアルバムにはどんな良さがあるか。 それだけははっきりとわかる。 奏者の名前や発売された時期、経緯などはもっと時間を

        • 小説【雨と煙草】

          冷え切った小雨が煙草に点く火のアントニムみたいだ。 午前二時前。 雨音が窓ガラス越しに聞こえる。耳を澄ます事自体、久しぶりな気がした。 窓ガラスを開き外の空気を吸い、煙草をふかした。まだ三分の一ほど残っている。 ふかした煙は真夜中に混じり雨にかき消された。 煙草を吸うようになったのはいつからだっけー。 十代の頃だったか、それとも成人してからだったか。 そんなことまで忘れてしまった。 煙の美味さを味わっている時だけ、肩の荷が降りる。 不健康な自分でいる時だけ、心がどこ

        雨の日の夜にジャズを聴くという休日

          【読書感想】迷宮 中村文則

          現代小説を読むことは僕にとって呼吸をするようなものだ。 一言に読書と表現しても純文学小説を読むこと、学術書を読むこと、数学の本を読むことでは必要とされる技術や知識が変わってくる。 自分に分不相応な難しい本を読み続けていると息継ぎが必要になる。 私は息継ぎのために呼吸をするように読める現代小説を手に取った、 手に取った小説は中村文則の【迷宮】 一家殺害事件の生き残りの少女に狂わされていく主人公の物語。 事件は密室状態であり、迷宮入り。やがてその事件は司法論文の問題に

          【読書感想】迷宮 中村文則

          【随筆】文章を書きたい欲求

          小説家に向いている人とはどんな人なんだろう。 慌ただしい日々の微かな瞬間、一息をつくとふと文章を書きたい欲求に駆られる。 文章に書きたい内容は色々だ。 こんな良い時間を過ごせただったり、こんな良い映画を見た。こんな嫌なことがあったなど、様々な思考が吹き出しになり文章として形成されようとする。 画家がデッサンをしたい風景に出会った時、あるいは写真家がシャッターを切りたいと思った時、欲求の起源はどれも同じなのかもしれない。 文章を書くことは好きだ。 けれど僕がやっているそれ

          【随筆】文章を書きたい欲求

          【小説】それでも鐘はなる

          鎮魂の鐘が村中に響き渡る ここから遥遠くに立てられた死者を祈る鐘の音。 その鐘が三度鳴った。 三回鳴らす時は、この街の英雄を想う時の鐘だ。 英雄は洪水から村を救った。村の人間を誘導し避難させた。 それ以来英雄の彼はずっと村で言い伝えられている。 私の村は川に囲まれている形で立てられている。 その川を超えた途端、鐘の音は急に聞こえない。 真夜中、私自身が試した。鐘が鳴っている最中、急いで川を渡ると、急に音がしなくなる。 そんな疑問も大人になった今では何も思わなくなっ

          【小説】それでも鐘はなる

          【小説】1973年のバックヤード

          2023年某月 世界がつまらないと感じるのは、君の無意識がつまらないものばかり探そうとしてるからだよー。 僕は数年間つまらない喫茶店でアルバイトをしていた。つまらない珈琲をいれ、つまらない客をいなし、つまらない雑誌をダラダラと読んでいた。 僕のつまらなそうな様子を察したのか、その時のマスターは僕にそう告げた。確かにその通りだ。僕は物事の楽しみをみつけようとする努力をしていない。 この喫茶店、アルトって名前の店は古さだけが取り柄の奇跡みたいな店だ。席と卓の数は少なく、客

          【小説】1973年のバックヤード

          【映画感想】首

          北野武作品の映画を見たのは初めてだ。 時代劇を見ることも随分久しぶりだった。 僕は連帯責任という言葉が大嫌いだ。ある組織に所属し、その組織の誰かが失態した場合同じ組織に所属していたという理由だけで失態した者と同じペナルティを背負わされる。 中学の時の部活で連帯責任という言葉にとても苦しめられた。 なんでこんなことを書くのかと言うと、映画【首】の冒頭では信長に反旗を翻した荒木村重の謀反が鎮圧されるというシーンが描写されている。 鎮圧された結果、捉えられた荒木村重の一族

          【映画感想】首

          【小説】死者と暮れ

          引きこもりの兄がある日死んだ。 揃っていたパズルのピースが大きく欠けたようなそんな虚無感だけが残って、悲しさはあまり感じなかった。 お父さんとお母さんが難しそうな顔をして話しているのをよく見るようになった。 死因とか、自殺とか、私にはよく分からない感覚だった。 その日は、隙間風がいつにも増して冷たい冬だった。 私は、兄の亡霊を見たのだ。仏壇に飾られた顔写真、その写真の服装のまま仏間の端で背を丸めて蹲っていた。 体は壁側に向いていたので顔は見えなかった。だけど、あれは兄

          【小説】死者と暮れ

          【随筆】Xを消した日から

          数ヶ月前xを消した。 それから数ヶ月経過した現在の心境の変化はどうであろうか。 xを消した理由は中毒者のように時間を食べさせ続けていたからでこれは行けないと思う気持ちが常々あり、消す消すといい何度も躊躇いを繰り返しながらついにアインストールを決行した。 消してから数ヶ月はそこまで気にならなかった。 しかし如何せんスマートフォンで文章を打つ、という楽しさが忘れられない。作る必要のない文章をフリック入力しただ目的もなくポストに投稿する。そんな一連の流れは中々得がたい楽しみの一

          【随筆】Xを消した日から