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【隙間怪談-2-】

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2022年3月の記事一覧

深夜の訪問

深夜の訪問

丑三つ時。
ワンルームのアパート。
伊村さんが熟睡していると遠くの方で誰かが呼ぶ声がしたような気がして目が覚めた。

薄ぼんやりと覚醒してきそうな意識の向こうで“こん、こん”と、とても静かでお淑やかなノックの音が聞こえた。

「ごめんください」

かぼそい女性の声だ。

誰かが家に訪ねてきたのだろうか。
それにしても、この深夜にいったいどういう事だろう?
もしかして近所に住む人が鍵を無くして困った

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代替

代替

昭和の頃の話である。

田舎では鶏を家で飼っていて卵をとったり親鳥を捌いて食べる事が少なくなかったという。

山﨑(やまさき)さんの実家もそういう家で、鶏を飼っていたのだそうだ。
毎日卵をとって、たまに卵を産まなくなった“ひね”と呼ばれる鳥を捌いていた。
主に鶏を捌くのは祖父の役目。
山﨑さんが実際に捌く事はなかったのだが、鶏が捌かれるのをじぃっと興味深げに眺めていた記憶がある。

「鶏ってさ、シ

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赤い晴れ着の女の子

赤い晴れ着の女の子

これは母が聞かせてくれた話だ。
満を辞して……という感じではある。

母は怖がりなので僕がこういう心霊に触れるような事をしていると解ると“もう!アンタは自分でなんとかするけどお母さんはそういうの全然無理なんだからね!”と厭そうな顔をする。

そんな母が、小学生だった頃の話。
なのでもう30年以上前の話になる。

当時住んでいたのは、神戸だったと聞いている。
一軒家で結構いい家で敷地も広かったそうだ

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元カレの首

元カレの首

「えっとねえ、半年くらい前にカレシと別れたの」

そう話し始めたのは志保さん。
彼女は30代の女性でアパレル関係の仕事についている。
志保さんなのだが、最初に述べた通り半年ほど前にカレシと別れた。

何故別れたのか……なのだが、主にカレシがヤバい奴だった!というのが主な理由になる。

同年代のカレシだったがとにかく相手の精神年齢が子供だった。それが志保さんにとっては苦痛で仕方がなかった、という話だ

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木の芽時の不審者

木の芽時の不審者

これはかつての恩師から聞いた話。

「先生そういえば、こういう話ってした事なかったと思うんですけど……先生って何か怖い話ってもってたりしません……?」と聞いた所、キラキラとした眼で「あるよ!!ある!!」と答えてくれたので聞いてみた。

「うちの学校の近くに幽霊が出るって聞いたことある?うちの近所結構多いじゃん、そういうの」
「何個かありますよね」
「その中に激ヤバい奴がいる話はあった?」
「こいつ

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応援してる(3)

前編:応援してる(1)
中編:応援してる(2)

「昼間に自分の部屋で何が起こってるのか……それが知りたかったんだけど、さてどうしようか、って考えた」

吉田さんは弟と話し合った結果“ズル休みでもしてみようか”という話に落ち着いた。

色々な案が出たのだが、監視カメラで自分の部屋を撮影する場合はカメラが必要になる。しかも用意をするのにお金も多少の時間もかかる。
1番手っ取り早いのは自分の部屋で張り

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応援してる(2)

応援してる(2)

前編:応援してる(1)

吉田さんは、あの日の事を不思議には思うものの詳しく聞き出したりしようとはしなかった。
普通に学業もバイトも忙しかったから、というのが理由だが、母の様子が変わってしまっているかもしれない事に踏み込むのが怖かったのだ。

なので気にしないフリを貫いてそのまま学業とバイトに打ち込みっぱなしで状況が落ち着くのを待とうとしたのである。

吉田さんはその日も学校が終わるとバイトへと向

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応援してる(1)

応援してる(1)

吉田さんが学生だった頃の話。

彼は一般的な家庭の高校生だったが“ちょっといい大学”を狙える位には秀才だった。
ただ天才肌だという訳ではなくそこそこの苦労をしながらそこそこの努力をして“秀才”を保っているタイプだった。

勉強をするには参考書や問題集が必要だが新品で買うとどれもこれも高い。
そういうのは中古で買い揃えていたし、それを買うための資金は自分でバイトして稼いで捻出していた。

両親は共働

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京都某山の瓦礫通り

京都某山の瓦礫通り

京都にはたくさんの山がある、というのは有名な話で、京都といえば山がたくさんある盆地、というイメージを持つ人が多いんじゃないだろうか。

京都に住んでいる僕もまあ大体そういう感覚を地元に持っている。山が沢山あって、夏は暑くて冬は寒い。そういう感じ。

山、って普段からまあまあ目にするものだが、実際“山”というのは何に使われているか想像はつくだろうか?
木を伐採して木材を取ったり、キャンプをしたり、と

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姉妹(2)

姉妹(2)

前編:姉妹(1)

話してもらった通り、美穂さんには妹がいる。

幼少期、よく子守りの真似事をしてそばに居た。
寝かしつけや読み聞かせなどを買って出る位には一緒にいたのだが、事あるごとに泣くから幼心に気になっていた。

一緒にお昼寝をしている時は大人しいのに一緒に遊んでいるとすぐにぎゃあぎゃあと泣き出すのだ。

最初のうちは可愛らしいと思っていた。

「だんだん、嫌になってきたの」

当時の美穂さ

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姉妹(1)

姉妹(1)

淡路さんには2人の娘がいる。
姉の美穂ちゃんと妹の美沙ちゃん。

淡路さんには子育て中、不思議に思う事があった。
1人目の美穂ちゃんを育てた時は勿論初めての子育てであるから不思議に思う事も困った事も多く、あれこれ試行錯誤していたのだが疑問を感じるようになったのは美穂ちゃんが幼稚園に行き始めた頃の事。

淡路さんが家事をしている最中、ふと目を離した隙に美沙ちゃんが泣いているのである。1度や2度ではな

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手土産

手土産

とある和菓子屋さんでの話。

大きな店舗というわけではなく、老舗の本当に小さな和菓子屋さんで、車道に面した所にぽつんと立っていて斜向かいには郵便局がある。

その和菓子屋さんの閉店時間は18時までである。もう少し開けて置いてもいいのだけれど、次の日の仕込みもあるから……という事で18時には店を閉めるようにしている。

その日も18時に店を閉めて店主と奥さんは店の奥の厨房で次の日のための仕込みを行っ

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けむりのにおい

三木さんが帰ってくると部屋全体から焦げ臭い臭いがした。

近所で火事があったという事ではなく、自宅の鍵を開けた瞬間に家の中から焦げた厭な臭いが外に流れ出してきたのだ。
煙が無かった事が不幸中の幸い。

三木さんは慌てて部屋に入ると臭いの原因を探し出そうとした。
焦げ臭い異臭に少し甘いような匂いも混ざっている。思いつく限りの場所を探した。コンセントが変な風になっていないか、水濡れしてはいけないものを

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箱入りのお気に入り(2)

箱入りのお気に入り(2)

前編:箱入りのお気に入り(1)

千鳥さんは週に5日“店長のオキニが入っている”と言われていた段ボールを横目に働いていた。

「中身は凄く気持ち悪かったから……2度目見に行こう、なんて思ったりはしなかったんだけれど……それでもさあ、気になるっちゃあなるから……」

奥の方をなんとなく気にしながら深夜バイトに打ち込む日々である。店の事は色々と穂高さんに教わりつつ、あっという間に1ヶ月、2ヶ月、と時間

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