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名前がなくても愛しくてたまらない

真っ白い部屋に包まれながら眠っていた。まだ眠い目を擦りながら、眩しい日差しに刺激されて目を覚ました。隣に視線をやると愛しい人がまだ眠っていた。あることをはじめるために、起こさないようにとベッドから出る。

そう、ピクニックの準備を。こんなにも天気のいい日はピクニックに行きたくなってしまう。断られるかもしれないと少し不安を抱きながらも、お弁当を作りはじめた。

寝室で叫び声が聞こえてきた。びっくりした。効果音をつけるとしたらきっと、ドタドタ、バンッ。走って思ったら勢いよくドアを開けたものだから、このよく響いてしまう部屋にはとてつもなく大きな音になって返ってきてびっくりする。音の元凶の本人も少し反省しているのか、子犬のようにシュンとなっている。かわいいだなんて言ってあげないけれど。

そんな彼が珍しくマシンガンのように話し出す。うるさい、うるさい。ゆっくり話して、なんて思いながら聞いていると「起きたらいないんだもん!!!」とさらにかわいいこと言い出したので、我慢できなくなって抱きしめてみた。「どうしたの?」「なんでそんなにかわいいの?セコくない?」「えーーー?」すっとぼけた。この人。

キッチンを見て「お弁当……もしかしてピクニック!?」わたしが頷く間も与えてくれず、子供のようにはしゃぎ出すわたしの愛しい人。なにを不安がっていたんだろう。わたしが言うことになにかを言われることなんてないのに、こんなことで不安になってしまっていた。その理由はわたしは気づいてる。でも気づきたくないから言葉にもしたくない。

お弁当を手に持った彼は既に玄関にいた。早く行こうよっと急かして家の戸締りをし終えたわたしの手を当たり前かのように握りしめてきた。こういう何気ないところがすき。きっと彼はなにも考えていないと思う、そんなの知っている。でも、わたしのことは大切にしてくれているところがすきですきで仕方ない。

先日言われた「え、なにその関係?一緒にいるの無駄じゃない?そんなのほかに本命いるってば」そう、笑って言われた。友達なんて思いたくない。頭にこびりついて離れてくれない。尖ったナイフで飛んできたかのようにまったくもって離れようともしてくれなかった。そんな言葉にわたしは苦しんでいた。いたい。くるしい。言ったあなたはきっとわたしのこんな苦しさ知らないだろうけれど。

芝生にレジャーシートを敷いて作ったばかりのお弁当を広げる彼を見ていると、こんな外野の意見に左右されてしまっているわたしの思考こそ無駄に感じる。どうしてこんなにも外野の声が気になるんだろう。いくら考えても答えなんて出てこなかった。きっとこの答えは見つかったところでわたしには無駄な時間にしかならないということだけはわかった。

周りと比べてないものを求めようとしてしまうから、いろんなことが気になってしまう。そんな余計なことを求めようとしてしまうのならば、今この大切な時間を忘れないように覚えておきたい。わたしの作ったお弁当を食べて「やっぱり俺の大事な人が作ったお弁当はおいしいねー!」ってオーバー気味に褒めてくれる人を。いつの間にか持ってきていたうさぎのぬいぐるみをきれいに並べてわたしがさみしくないようにお昼寝してしまった人を。

「元気出た?」そう言って今日見たことない複雑な表情を見せてきた。気づかれていたの?わかっていたの?いろんな気持ちが頭を駆け巡ってなんて答えればいいのかわからなくなって、なにも言えなくなってしまった。わたしの雰囲気を感じてか「今日、ピクニックたのしかった?」それだけを聞いてきた。「うん、たのしかった」ようやく絞り出して返事ができたのはこれだけだった。

「俺もね、ピクニックたのしかった!」って。それだけで涙が溢れそうになってしまった。わたしもね、一緒にピクニック来れてうれしかったんだよ。一緒にたのしめたことがうれしかったんだよ。たのしい思い出がまた増えたのがうれしいんだよ。そう声にしたくても涙が溢れそうになってまったく彼には届いてくれないけれども、涙に耐えている表情をしているわたしを見てずっとたのしそうな笑顔を見せてくれている。

「明日もピクニックしたいね」「明日もするの!?」そうびっくりした声で言って笑いながら、繋いだ手から湿りつつある彼の温もりを感じた。わたしは知ってる。そう言って少し嫌がりつつも付き合ってくれることを。だから家路に向かいながら彼は呟く。

「明日のお弁当はおにぎりにしよっか」

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