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MONOEYES Between the Black and Gray Live on Streaming 2020 Report


そういう世界があるなら、
行ってみたいと思った。


ライブから1週間と少しが経ち、超特大大サービス並みの1週間もの期間を設けて頂いたアーカイブの保存期間も終わった今、セトリや演出、MCのネタバレも含み、10月19日に行われたMONOEYESの配信ライブについてのレポート並びに私的な感想を、備忘録としてここに残しておくことにする。

※以下、本稿の注意事項になっておりますので、ご一読頂く際にはお手数ではございますが、必ずお目をお通し頂きますようお願い申し上げます※
本稿は、曲ごとの細かな描写をしたレポートではなく、総括的なレポートになります。
またあくまで備忘録に過ぎないため、万人受けするような書き方はしておりません。
個人的な感情並びに私情を含んでおります。
上記の点をご理解頂ける方のみお読み頂ければ、と思っております。
ご理解の程、何卒お願い致します。

お読み頂ける方は、稚拙な文章ではございますが、お時間の許します限り、ゆっくりとご覧になって頂けましたら幸いです。


MONOEYES
Between the Black and Gray
Live On Streaming 2020 セットリスト
1.Bygone
2.Run Run
3.Thermite
4.グラニート
5.Iridescent Light
6.Get Up
7.Castle in the sand
8.  Fall Out
9.My Instant Song
10.Nothing
11.Satellite
12.Two Little Fishes
13.明日公園で
14.Roxette
15.Interstate46
16.リザードマン
17.Outer Rim
18.彼は誰の夢


去る8月28日に猪苗代野外音楽堂にてELLEGARDENのYouTube配信が行われ、それを画面越しに目撃した時、その空間の異端さに、私は不意を突かれ驚嘆した。
今回のMONOEYES配信ライブで受けた驚愕も、同じ部類の驚きにカテゴライズされていった。
エルレ配信時の記事と同じようなことを綴るが、今回の配信は、きっとどこかのスタジオや、彼らがいつもリハの際に使用している用賀の某スタジオや、どこかのライブハウスからの “こじんまりとした、ささやかで優しい” 、自分の中の悪魔を奮い立たせてあえて言い方を悪くするならば “申し訳程度の” 、そんな配信になるのだろうと得意げに予測しては、私は高を括っていた。
「STARTING SOON」と書かれたサムネイルがブラックアウトし、5年間の彼らの活動の足跡をプリントアウトしてアルバムにファイリングしたかのようなプロローグを経て、私たちが息を飲んで凝視していた画面の向こう側には、想像だにしなかっただだっ広い空間が広がっていた。
最近の細美さんは、本当に突拍子がない。
無論、いい意味でだ。
巧妙に仕組まれた奇をてらったこの人の企てに、今回も今回とて懲りることなく、私はまんまと引っかかったのである。
学習能力が甚だしく欠如した人種であると、我ながら思うものだ。
「ここはどこなのだろう」という、噴水のように湧き出る疑問符が、演奏に集中したい自分に横槍を入れてくる。

セトリの1曲目に関しては、「やっぱりな」と合点がいく選曲で、配信場所の件とは裏腹に、私の予想力が細美さんの企画計策力を上回った。
一瀬さんによるハイハットのカウントを合図に、戸高さんがSagoのホロウボディで出来上がった竿をかき鳴らす。
本アルバムの中で、“世界観に誘う”という重責に満ちた大役を配分された、「Bygone」である。
サビ前までは、リスナーに60〜70年代のロックと現代のオルタナティブロックの融合を痛々しいほど感じさせ、且つ新鮮でありつつも、何処かそこはかとなく懐かしさを感じさせる楽曲である。
Deep PurpleやStonesをティーンエイジャーの頃から狂うように聴いてきた私にとっては、この曲の根源にそれらの破片が散りばめられているように思えた。
とは言え、サビは完全にオルタナティブロック界の女王・MONOEYESが持つ渾身の武器を振りかざし、縦横無尽に好き放題やりたい放題、弾けては飛び散る。
そんな印象を受ける1曲である。
今も尚絶大な支持を受け続ける60〜70年代のハードロックに、恐れることなく自らが持つ現代で確立されたオルタナティブロックの音楽性を混ぜ合わせ調合する。
双方の素材の魅力を余すことなく使い込み、そして互いの存在を潰すことなく、寧ろ際立たせる。
格好があまりにもつきすぎている化学実験。
そんな異質な曲を、ライブ冒頭に平然とした顔でセットしてくるその毅然さたるや。
このことから、今回の配信ライブを以て彼らが如何に私たちオーディエンスに『Between the Black and Gray』の世界を見せつけたいと考えているのかが、痛切に伝わってきた。

画面の向こうで十人十色の想いを抱え様々な表情で画面を見つめていた呼吸の合わないバラバラの私たちを、見事に魅了し同じ感動を味わえる地点へと集合させアルバムの世界へと引きずり込んだところで、彼らは畳みかけるように音を途切れさせることなく繋いでいく。

「Run Run」「Thermite」「グラニート」と、容赦の言葉をまるで知らないサディスティックな演奏が、止まることなく持続されていく。
「グラニート」の

 いつだってほらこんな風にさ

の、2番の「ほら」の部分を、私たちに誘いかけるように、問いかけるように歌ってくれた細美さん。

細美「改めましてこんばんは、MONOEYESです!
何も返ってこない…(笑)
いや、多分ね、画面の向こうではね、『わあー!』って言ってくれてるはず。
まあ、こういう状況なんでね、初の単独生配信ライブ、月曜の遅い時間に…ちょっと早いかな?、この時間から申し訳ないですが、お付き合い下さい。
観てくれてる人たちほんとに、どうもありがとうございます。
曲いっぱいやるんで楽しんで、目いっぱい楽しんで帰りましょう。
俺たちもこの感じでやるのはね、きっと一生でも、今日しかねえんじゃねえかなと思うんで、楽しんでいきます。」

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戸高「リングみたいですね、なんか。」

細美「ちょっとなんか、UFC感あるよね。」

戸高「同じ釜の飯を食う仲間が、リング上でバッチバチに音で殴り合うみたいな感覚があるので。
僕は嫌いじゃないっすね。楽しいっす。
お願いします。」

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一瀬「そうですね、アルバムを作って、ほんとにこう、ちゃんとしたロックバンドの音で演奏するのは、人前って言っても配信になっちゃってるけど、今日が僕ら初めてだよね。
だからリハーサル頑張ってやったんだけど、それでもやっぱり、もっとドキドキするかなあと思ったんだけど、新しい曲を4人で出せる楽しみを今噛みしめながら演奏させてもらってるんで、それがみんなに伝わったらいいなぁと思ってます。
まだまだあるんでよろしくお願いします。」

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スコット「Between the Black and Gray Live On Streaming 2020へ、ようこそーーー!!
この形は初めてなんだけど、やっぱりちょっと緊張するよね。
でも近くにライブハウスが無くても、どこからでも観れるっていうのは、すごくいいことだなって思ってて。
しかも僕、アメリカにいるお父さんとお母さんも早起きして今、生で観てるから。
Hello,Mom. Hello,dad.
みんなの画面の前の顔は見れないけど、きっと素敵な笑顔になってて、(自分の)頭の中でそれを想像してて、ちょっとテンション上がってる。
最後まで一緒に楽しみましょう。」

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細美「よーーーく目を凝らすとさ、なんか見えるような気がするんだよね、みんなの顔が。
最後まで一緒にいて下さい。よろしくお願いします。」

最後まで一緒にいて下さい」、その言葉に涙した人はきっと数え切れないほどいることだろうと思う。
言うまでもなく、私もその一人だ。
配信ライブという形は、方法としては不本意極まりないものであっただろうに、私たち以上に彼らにはやり切れない気持ちが蓄積して溢れ返っているであろうはずなのに、彼らは今自分たちが置かれている状況を冷静に飲み込み消化し、プラスの感情に変換していた。
正の感情と負の感情には、互換性なんてないと思っていたけれど、彼らの前向きな姿勢は、私のそんな考えを容易に打ち砕いていった。
彼らはそれほどまでに、満たされた人間の顔をしていた。

「Iridescent Light」は、スコットボーカルタイム。
そこから「Get Up」、「スコットがキメるぜ!」という細美さんの一声から「Castle in the sand」へと続いていく。

細「いまやってるね、そのセミアコースティックツアー、ほら、沖縄行けないから、今日は気分だけでもと思って、オリオンビールを頂いております。
なんで配信なのに、わざわざ週末じゃなくて月曜日なのかと。
実は今日、10月19日は、俺たちにとってかなり特別な日でして。
今日ここでライブをやることは、1年以上前から決まっていて。
ほんとならね、今日今カメラの向こうで観てくれてるみんなに、ここで会えてたんだろうなぁと、思っているんですが、それはそれ。
一応俺たちの夢は叶ったぜ、って日です。
最後までよろしくお願いします。」


「Hello again…」というお決まりの挨拶を皮切りに、4人は「Fall Out」のメロディを奏で始めた。
サークル状にセッティングされた彼らの立ち位置を囲うように、背後に吊るされていた薄幕。
ドローンが映し出す広角なアングルに画面が移り変わり、薄幕が落ちて私たちの視界に現れたのは、目に深々と焼きついたあまりにも見慣れた景色だった。
私はしばらくの間、画面に映る現実を、勿体ない程の幸せと夢と希望に溢れた現実を、受け入れることが出来ずにいた。

彼らが音を鳴り響かせていたのは、スタジオでも、キャパの少なめのライブハウスでもなかった。
日本中のライブハウス、ライブ会場を血眼で見て回っても、この場所と類を同する場所は一つもない。
何十回とそこで生の音楽がもたらす感動に酔いしれ、何十回もそこで涙し、何十回もそこで生きる糧をもらった。

日本武道館

日本中の若手ミュージシャンがそこを目標とし日々奮闘し、世界中のミュージシャンがそこでパフォーマンスをするために挙って日本に足を運ぶ。
日の丸の垂れ幕は、日本を代表するライブの聖地としての威厳と責任とプライドを掲げている。
スタジアムクラスのライブが当たり前になっている自分にとって、武道館のキャパは決して大きいとは言えないが、夢があって数々の思い出が所狭しに詰まった、思い入れの深い大切な場所。
日本武道館は、私にとって、そんな場所だった。

寒色をメインとした無数のLEDに照らされ、アクアリウムのような空間と化した武道館は、今まで幾度と目撃してきた武道館の顔とは、一線を画す洗練さと神秘性があった。
何度も足を運んだ武道館、頭から爪先まで全て知り尽くしていると思った武道館の素顔に、こんな妖艶な表情があるとは。
恋人の体を知り尽くしたつもりでいながらも、ある日突然見たこともない艶やかな所作を見せつけられた、あの時の嫉妬と屈辱に酷似した感情に見舞われた。
自分の居場所のように感じていた場所に、まだ見ぬ表情があったという事実が、少し恨めしかったのだ。

「Fall Out」が1サビに差し掛かると、私たちの視界に広がる景色は、再びドローンのアングルへと移り変わる。
その疾走感に溢れたカメラワークは、彼らが武道館でライブを行うまでのバンドになったこと、もっと言ってしまえば無観客にも関わらず武道館でライブを行なってしまうほどのビッグなバンドになったこと、そして頭取を落とす勢いで帆を進めてきた彼らの軌跡を象徴しているかのように思えた。

続く「My Instant Song」では、更に広角での映像が映し出され、今回の彼らの会場の使い方が “武道館のキャパの無駄遣い” としか言いようのないものであることが伺われ、ずっと小さい小さいと思い続けていた武道館が、突如として偉く広い場所に思えた。
無駄遣い” という形容の仕方は、誤解を招いてしまいそうな言い回しではあるが、これも無論いい意味でだ。
無観客のライブに、日本武道館を使用する。
武道館ほどのキャパは絶対に必要のない今回の配信ライブに、余白が生まれるのを承知の上で、あえてこの地を選んだのだ。
いくら1年前からブッキングしていた会場とはいえ、配信ライブに妥当な規模の会場に変更することは、いくらだって成しえたはずだ。
にも関わらず、彼らは今回のこの配信ライブに、日本武道館の地を選んだ。
それこそが、MONOEYESというバンドが、どれだけ地道に、でも必死にハイペースに、バンドとしての階段を駆け上がり成長していっているバンドであるか、ということを如実に示しているのではないだろうか。
日本武道館の無駄遣いなんて、誰もがそう簡単に出来ることではない。
無駄遣い” 、最高じゃないか。

そこから「Nothing」「Satellite」、そして「Two Little Fishes」へと続いていく。
「Two Little Fishes」の序盤、ファンにとっては安心感をも感じてしまうよく見知った顔が、PCを片手に、まるで映像クルーのような出で立ちで、平然と彼らの輪の中に加わってきた。
そう、TOSHI-LOWさんの登場である。

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詳しくない方のために簡単にご説明すると、MONOEYESとかなり交流の深いバンド、BRAHMANのボーカルを務めるお人である。
そして細美さんの大大大親友であり、ミュージシャンとしての細美さんだけではなく、人間としての細美さんにとっても、欠かせない存在であることが、お二人のご関係を拝見しているとよくわかる。
もちろん、それはMONOEYESというバンドにとっても同じことが言える。

TOSHI-LOWさんの登場により、その場にいたメンバー皆、笑顔が増え更に口角が数ミリ上がっていて、なんだかこちらまで笑顔のお裾分けを頂き、幸せな気分に浸らせてもらった気がしてならない。
「Two Little Fishes」は細美さんとTOSHI-LOWさんの友情を描き綴られた楽曲であるがために、サプライズゲストとしてはTOSHI-LOWさん以外に適役は考えられないが、まさかこの時世に、しかも配信ライブに、こうしてTOSHI-LOWさんが来て下さり、ステージを彩って下さるとは、思いもしなかったことである。
演奏が終わり、細美さんがTOSHI-LOWさんにスポットを当てる。

細美「TOSHI-LOWーーー!」

TOSHI-LOW(以下、T)「いやー、家で観てたんだよ配信。家で観てたの。
すごいいいライブだなーと思って、なんか目の前でやってるみたいだなーと思ったら、やってたんだよ。」

一同「(笑)」

T「入っちゃったパソコンの中、初めて。
ネバーエンディングストーリーみたいな感じ、今。
すごいことが行われてるねえ、ここ。
ここすごいよ、これ。」

細美「これねぇ、わかってない人もまだいるかもしれないけどねぇ、こちら我々、現在日本武道館で配信ライブやっております(笑)」

T「あのさ、ちょっといい?話して。
正直さ、1年前にさ、ほら、武道館決まった話から知ってるじゃん。
いや、どうすんのかな〜と、思ってたの。
もうこの時期でこれでさ、沢山の人が入れないみたいな。
で、でもなんかあんだろうとは思ったのさ。
で、MONOはさ、いっつもさ、震災の時にさ、フェスとは名ばかりのもうちっさい村祭りみたいのとか一緒に行くじゃん俺ら。
だからね、こんなコロナの中でも、何か絶対してくれると思ったのさ。
で、今日これ。
武道館の中で、無観客配信………馬鹿なの?
遊び心にも程があるよマジで(笑)」

一同「(笑)」

細美「この武道館の無駄な使い方(笑)
体育館とかでもいいんだろうね(笑)」

T「すごいわー。」

細美「でもねぇ、ほんとだったら、今日この日はここのさ、わかんないけど、もしかしたらまんぱんにさ、新譜を聴いてくれた今カメラの向こうにいる皆とかがね、いたんじゃねえのかな、って気はするわな。」

T「なんかこれさ、ほらみーちゃんに言われて、『TOSHI-LOW武道館やれよ』って言って、『やだよー』って言って、やったじゃん。
覚えてる?
だからさ、一個約束してほしいんだけどー。」

細美「いいよ。」

T「このコロナ終わったらさ、MONOで、まんぱんの客の中で、やってくんない?

細美「いーーーんじゃないの?」

一瀬「やろうよ!実現させてもらおうよ。」

細美「なんか俺ほらさ、他のバンドの名前を出すのは変かもしれないけどさ、HIATUSで武道館やったのね。
で、俺武道館は一生に一回でいいと思ってたの。
その、繰り返し繰り返しやってもなぁと思ってたんだけど。
戸高がね、『武道館やりたい』って言って。
俺、戸高の夢だったらなんでもやると思って、用意したのが、この日だったの。
どう?戸高、夢叶った?」

戸高「叶いましたけどねぇ…(笑)」

一瀬「人がいない武道館は夢じゃなかったんじゃねえのか?(笑)」

戸高「こんな…はずではなかったのかもしれないけど(笑)」

T「俺しかいないもんね。ほんと申し訳ない(笑)」

戸高「信頼する仲間がいて、信頼するスタッフがいて、でまぁ多分画面の向こうには、なんかこんな形だけど、武道館に疑似的に連れて来られたお客さんたちがいて、俺はなんかこういうのも悪くないなぁって、今日はちょっと特別な日だなぁと思ってます。」

細美「割とあっけらかんとしてて。
ほんとに目を凝らせば見えるような気がすんだよなー。
多分、その気持ち?人間だからね。
ここに来てくれているんじゃないかなーと。
今日ほんとここに来てくれて、どうもありがとう。
……って感じですかね。
だって、あれだよ、めっちゃでかいスピーカー吊るして爆音で鳴らしてるからね、今(笑)」

T「たださ、やっぱ、生で感じさせてやりてぇって思うよ、俺は。」

細美「そうだね。
じゃあ約束しちゃおう
この話マジで全然してなかったけど、いつか、来年(ブッキングが)取れっかどうかわからないけど、取れたら最短で。」

T「まだ皆ずっと不安じゃん。
ほんでさぁ、先になんか何もなくてさ、自分でさ、命を落としてしまうような人もいっぱいいる中でさ、やっぱり先にさMONOがさ、武道館があって、その『やる』っていう約束で、俺は生きてる奴いっぱいると思うの。
なんで、約束してくれて、ありがとう。」

細美「じゃあ、次なる武道館に向けて…(笑)
でもまぁ、2020年の俺たちの精一杯だからな、これが。
2020年の俺たちの、MONOEYESの、日本武道館へ、ようこそいらっしゃいました。
ありがとうTOSHI-LOWー!」


TOSHI-LOWさんが武道館のステージを後にしたところで、「明日公園で」を皮切りに、4人のMONOEYESのステージが再び始まった。
しかし先ほどまでと明らかに違うのは、この武道館のステージに彼らはまた必ず帰ってくるという未来が確約されたことだ。
満員の武道館で、彼らは必ずリベンジを果たすのだろう。

自分たちの居場所であるライブハウスという場所が、ライブという存在が、未知のウイルスによって脅かされ、剥奪されつつある今の世の中。
いつまたそこに戻ることが出来るのかも知れず、不安と苛立ちばかりが駸々と募る日々。

TOSHI-LOWさんが仰っていたように、この世の中を受けて自ら命を絶ってしまう人だっている。
そしてその人たちの立場は、決して他人事ではないのだ。
嬉々として人生を謳歌しているように見えていた人が、ある日忽然とこの世を去る。
そんな残酷で悲痛な出来事が、当たり前のように起こりつつある、この世の中。
その人たちの立場に、いつ自分がなってしまうかもわからない、不透明な未来。

そんな、何もかもが闇の中にあり、何もかもを失ったような感覚に陥っている昨今の私たちに、彼らは約束という形で希望の光を与えてくれた。

MONOEYESが満員の武道館でライブをやる。
その未来の確約だけで、生きていける人がいる。
少なくとも、私はその一人だ。
今回の約束を武器に、目の前の不安や苦しみ、これから待ち受けているであろう試練、そんなものを一切合切切り捨ててやろうと思った。


「スコットがキメるぜーーー!」という細美さんの再びの一声から、演奏は「Roxette」「Interstate46」へと続く。


細美「なんかやってみたらマジであっという間よね。
うーん、なんかね……なんつーの?こんなのやったことないじゃん。
で、多分最初で最後じゃん、単独で生配信ライブなんてやるの。
あの……すごいなんか、楽しかったな。
なんて言うの…?(笑)
ねぇ?めちゃくちゃ楽しかったよね?
いつもさ、外に向けてだけどさ、やる時って。
めちゃめちゃなんか、俺たち、この5年どんだけ濃い時間を一緒に過ごしてきたんだみたいな気分にならなかった?
俺めっちゃ今なってて。
よかった、ほんと。このバンド一緒にやれてて。
ありがとう。

…ただね、今日『Between the Black and Gray』の曲をさ、全曲やったけど、一個だけな、やっぱ足りないなと思うのは、曲ってさ、いつもライブハウスに来てくれるあのバカどもと一緒にさ、汗だくになりながら色んなことを積み重ねて育てていくものだから、それがまだ全然無いなぁと思うわけ。
来年、一緒にこの曲を育ててもらえたらいいなと思います。
そん時は一つ、よろしくお願いします。」

一同「よろしくお願いします。」

細美「みんな最後に、一言ずつある?」

戸高「まさか配信とかすることになると思わなかったっすけど、まぁ…まだここがどこなのかちょっとよく理解出来てない感じですね。
でも、だから…リベンジしたいですね。
でも今日はすごい、今日は今日で。」

細美「よかったよね?」

戸高「すごいよかったっす。」

細美「コロナのこと思い出す時に、俺たちにはいい思い出も一個あるなー。」

戸高「新譜の曲をいきなり武道館で初披露みたいな…。
やばいですよ(笑)
まぁでも今日やれてよかったなぁってのがまず第一って感じで。
もっともっとこの曲を育てていきましょう。」

一瀬「まぁとりあえずお金を払ってね、いつもじゃない今日みたいな配信のライブ、今観てくれてる皆さん、アーカイブでもそうなんだけど、心から感謝します。
それでこの場を借りて、元々ね、普通にやれるはずの武道館がコロナの影響でこんなになっちゃって、で、無観客配信でやるってなった時に、すーーごい大変なのよ。
スタッフの皆さん、カメラの皆さんとか、映像の皆さんとか。
なんで、僕たちのわがままに対してほんとに一生懸命やってくれてるスタッフの皆さん、関係者の皆さん、この場を借りてお礼を言います。
ありがとうございます。」

一同「ありがとうございます。」

一瀬「で、まぁなんか次、またここで普通にお客さんが戻ってきてライブがいつか出来る日には、その時にはまたみんなに笑いながらやれるように協力して頂けたらありがたいと思います。
ほんとにありがとうございました。」

スコット「あのー、とでぃだけじゃなくて、僕子供の時にビートルズが大好きで、ビートルズ聴いて音楽好きになったんだけど、その時もビートルズが武道館、ここでやってる映像も観て、で、いつか出来たらなと思ってて。
でも想像したのとちょっと違う感じになったけど(笑)、まぁいつかリベンジを…なんだけど。
まぁこれから最高の4人で色々やっていくんで、その時またどこかで会いましょう。」

細美「はい、それではこれが我々MONOEYESの今年の武道館、Between the Black and Gray in 武道館 2020、ありがとうございました。
アンコールはありません。
またどこかで会いましょう。」


今年の武道館」という言葉に、私は足を止めて思慮に耽った。
今回のライブは、あくまで今年の武道館のライブなのだと。
そうか、今年ではないいつか先の未来に、また武道館でのライブがあるのだ。

ついさっき目の前の画面の中で交わされた約束の真髄を、早速味わいつつあることが、幸せでならなかった。
この幸せを、勿体ぶらずに無駄のないよう、きちんと噛み締めて生きていきたい。

ライブは佳境へと差し掛かり、「リザードマン」「Outer Rim」「彼は誰の夢」と、物語のラストを3曲が飾り立てた。
感じるはずのない会場のボルテージが、いないはずのオーディエンスの歓声と熱量が、画面からひしひしと伝わってきては、鳥肌が立った。
ライブの定義は、 “目の前に聴いて観てくれるオーディエンスがいること” であるのかもしれないが、定義なんていうものは、時として酷く脆く頼りないものだ。
必ずしも定義が=正解であるとは限らない。
オーディエンスがいなくても、ライブは出来る。
そんな定義から外れた異質な正解に、私はこの配信ライブを以ってして出会うことが出来た。

「リザードマン」はこうして改めて聴くと、細美さんの心の叫びのようにも思える。

これだけは失くすものかと
ずっと抱えていたはずなのに
ここからいつかは
抜け出せるかな
わずかな記憶をたどって


自らの音楽を表現する場であるライブという存在が消し去られ、暗雲が晴れることなく永久に立ち込んでいる今の世の中。
しかし自分の大切なもの・大切な場所を失っても、そんな世の中から抜け出したい、抜け出せる日は来ると信じ続けるその屈強な心。

細美さんは以前、今回のコロナ騒動を受けて、「自分たちは失業者である」とはっきり断言していた。
そんな、何もかもを失くした人が描く、強くも優しい希望の唄。
沢山のものを手にし余裕を持った人間が豪語する無意味な応援歌とは、説得力の桁がまるで違う。


こうして彼らの挑戦兼夢の舞台兼オーディエンスへのサプライズ企画は、静かに幕を閉じた。


コロナパンデミックが収束の兆しを見せ、また今までのように満員のキャパでライブが出来る日常が、当たり前でいてその一方で奇跡の集合体でもあるそんな日々が、またいつか必ず戻ってきてくれるのだとして、その時には、2020年10月19日に日本武道館で交わされたこの約束は、必ずや叶うのだろうと思った。
今の世の中がどうであれ、私はその日が来ることを、心の底から信じている。
そう信じて、生きていこうと思う。
その信念の背景は、私の仕事が彼らのようなミュージシャンと同じ音楽業界の職種であるからとか、それゆえに大変な思いを現在進行形でしているからだとか、それでも夜明けは来ると信じて希望を持って進んでいくしかないからだとか、それももちろんあるのだけれど、きっとそれだけではないのだろう。
私は単純に、MONOEYESの一ファンとして、彼らが満員の日本武道館を湧かせている情景が、単純に見たくて見たくて、楽しみで楽しみで仕方がないのだろうと思う。

いつになるかはわからない。
世の中が、果たしていつそれを許すのかはわからない。

でも、
MONOEYES ワンマンライブ in 日本武道館

そんな日が来るなら、
迎え入れたいと思った。

そういう世界があるなら、
行ってみたいと思った。

それを希望に私たちはこれからも生きていく。
どんなにつらかろうとも、必死で生きていく。

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