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赤と白色(小説)

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赤と白色(小説)3

少しずつ血に相反するように、私はどんどん興奮していった。非日常感がそうさせるのかと思ったけれど、それ以上の本能を感じていた。

少しずつ五感が戻ってきて、鉄のような香りに少しだけ甘い香り、翔の香。

 足りない、と焦がれるように思い、私は思い切り歯を突き立てた。翔は呻き声をあげたけれど振り払わず、なぜ?と思い、歯を突き立てたまま、息を荒くして翔の顔を見た。

笑ってこそいなかったけれど、先ほどと違

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赤と白色 (小説)2

前回↓

「お嬢さんはもとから、花のように明るい顔色だし、舌も元々赤いな。僕、なんでこんなに死人みたいな色なんだろう。あ、そうだ、名前なんていうの?」
「百合子」
「花の名前かあ、ご両親は迷信を信じないタイプだね。僕は翔」

 私は彼と話していると年相応にけらけらと笑えた。花束を胸いっぱいに詰め込んだくらい幸せだった。
 夕間暮れになるまで私たちはそうしていて、私が帰らなくてはならなくなったので、

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赤と白色(小説) 1

 私は冷蔵庫の中から、とりわけ新鮮な生肉を取り出し、べち、と白い皿に乗せた。滴る血液が、皿の中に溜まる。空気に触れ少しずつ酸化していく肉を、そのまま口に運んだ。貪り食った。じわりと唇の間から迸る血液を、余すことなく飲もうとした。
 それが幼い頃の、初めての肉欲的記憶だった。

 朝起きて、そら豆が入った薄緑のサラッとしたスープを白い皿に注いで、有り合わせのものでとろとろと気の進まない食事をした。

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