赤と白色(小説) 1
私は冷蔵庫の中から、とりわけ新鮮な生肉を取り出し、べち、と白い皿に乗せた。滴る血液が、皿の中に溜まる。空気に触れ少しずつ酸化していく肉を、そのまま口に運んだ。貪り食った。じわりと唇の間から迸る血液を、余すことなく飲もうとした。
それが幼い頃の、初めての肉欲的記憶だった。
朝起きて、そら豆が入った薄緑のサラッとしたスープを白い皿に注いで、有り合わせのものでとろとろと気の進まない食事をした。
幼い頃、肉塊を齧り血まみれになっていた私を見た両親は、それから私に対して畏怖のような感情を向けるようになった。
結果としては徹底したベジタリアンを課されるようになった。もう慣れてしまったけれど、私は肉の味を知っている。
私の頭の中では、肉の持つ血液の温もりと、親の愛が直結しているようで、常に飢えていた。温めても冷たさのある野菜ではダメだった。
痩せ細った体にワンピースの袖を通し、何も言わずに出掛け、古い西洋建築の裏の、小さな川のそばに腰掛けた。
藍色と水色と、時たま桃色がゆらゆらと遊色のように輝いている。
ふと気がつくと、後ろに人が立っていた。
それまで何にも気づかなかった。気配が薄くて、息遣いも整っていたからだ。
改めて彼に目をやると、私と同い年かいくつか上と思しき美少年だった。
肌は温かみを感じられない色をしていて、刺さるような目をしていた。口元は緩く微笑んでいる。まっさらの肌には青白い血管が浮いていて、もし破ったら素晴らしく鮮やかな赤が出て来そうだった。
「こんにちは」
私は彼に興味を抱き、挨拶した。彼も、挨拶を返してくれた。
「後ろに立ってどうしたの?御用ですか?」
じっと見つめてくる目に少し居心地が悪くなって、座り込んでいたところの脇にある石を指でなぞった。
「ううん、僕も川のそばに座りたくて、そしたら君がいて。僕友達が欲しいから近づいたけど、でも声が出なくて…そんなとこ。」
頬を染めるような様子は全くない極めて青白い彼が告白した、声をかけることが恥ずかしいという心が、アンバランスで奇妙だった。
「こっちおいで。座ろう。私も友達いないから、うれしい。」
私はあからさまに嬉しくなった声で誘った。
彼の話し声は耳触りが良く、ほんの少しだけ眠気を誘う音色だった。
話していると、奇妙な心地になる。薄暗い雰囲気と戯けた様子を行ったり来たりしているようで、ああこんな人は、初めて見る、私はまだどんな人も知らないけれど、と思った。
「僕、美味しい木のみ持ってるよ。お店にもあるようなやつでおいしいよ。食べようよ、お嬢さん。」
話し言葉を聞くと、やはり少し年上なのかしら?と思った。言われるがまま木のみを頂いた。とても甘くて素晴らしい味がした。
「見て、舌が赤くなった、ほら。」
舌の先端を出した彼を少し見て、やはり青白い肌には赤がよく似合うと思った。先ほど想ってしまった血液も、きっとこんなふうに艶やかに皮膚に迸るのだろう、と、また再度想起した。
なぜこう思うのか、わからなかった。私は彼に特別な感情を抱けるかもしれないとまで思った。
次回↓
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