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何としてもこの装置を世に送り出す

X線分光撮像衛星XRISMの開発メンバーへのインタビューシリーズ。今回,お話を伺ったのは,軟X線分光装置Resolveの開発を担っている藤本 龍一さん(金沢大学)です。藤本さんは,ASTRO-E,ASTRO-E2 (すざく),ASTRO-Hにわたって,これらのX線天文衛星に搭載されるX線マイクロカロリメータを用いた精密分光装置の開発に携わってきました。

——XRISMの開発に参加を決めたときのお気持ちを聞かせてください。

私が開発に携わったASTRO-Eはロケットの打上げ失敗,ASTRO-E2は観測装置の不具合で,X線マイクロカロリメータによる天体観測は実現できませんでした。ASTRO-Hも打ち上げ1か月で衛星が失われましたが,数は限られるものの,実際に X線マイクロカロリメータで天体を観測し,世界初の画期的なデータを取得することができました。

これで終わるわけにはいかない,XRISMでもっとたくさんよいデータをとりたいという気持ちと,何としてもこの装置を世に送り出さなければならないという思いで,XRISMプロジェクトへの参加を決めました。

——藤本さんから見て、Resolveチームはどんなチームでしょうか?

Resolveは、基本的にはASTRO-Hに搭載された軟X線分光装置SXSの再製作であり,ResolveチームはSXSチームの主要メンバに新しいメンバが加わったチームです。NASAとの国際協力はASTRO-E以降ずっと続いており,古参メンバとはもう20年以上の付き合いになります。苦楽を共にした,私にとってかけがえのないチームです。

一方で,ASTRO-Hの運用停止で日本では少なくない数の若手がこの分野から離れてしまいました。そのためASTRO-Hと比べて若手や中堅が少なく,XRISMの先を考えると少し不安なところです。

——Resolveの開発チームでは,どんな仕事をされていますか?

ResolveのサブPI(副代表研究者)という立場で,

  1. Resolveが満たすべき機能や性能を設定し,

  2. それが満たされていることを技術的な観点でしっかり確認していく

のが第一の仕事です。システムズエンジニア的な役割を担い,科学成果の創出に責任をもつPI (代表研究者),開発の進行に責任を持つマネージャと協力し,時には意見を戦わせて開発をリードしています。

ASTRO-E/-E2/-Hの搭載装置では,装置を構成するコンポーネント毎に担当者を決めて開発担当メーカとやりとりし,PIが開発全体を統括するというスタイルを採っていて,このような横通しの役割分担は明確には行なっていませんでした。

XRISM開発当初にNASA側co-PIのRichard Kelley博士から,「あなたは常に技術的な観点で考え,判断するように。決してスケジュールやリソースの観点で判断してはいけない。それはマネージャの仕事である。」と言われたのがとても印象に残っています。ただ,私自身は科学者・大学所属の研究者であり,このような仕事は今回が初めての経験でしたので,お世辞にも期待通りに役割を担えたとは言えないです。

——システムズエンジニアリング (SE) 担当を独立しておくのは,XRISMで大きく変わった点でした。良い点悪い点等,実際,担当者としての感想を教えてください。

科学成果の創出に責任を持つPI,開発の進行に責任を持つマネージャ,技術的に確実に開発を進めることに責任を持つSEを分け,三者がお互いの立場で意見を戦わせながら最適な解を見つけて開発を進めるのは,理にかなっていると思います。

これらを一人で担当すれば,人的リソースは少なくてすみ,効率もよいです。分担すれば,人は三人必要で,調整にも時間がかかるようになります。ただ,システムが大きくなると,すべてを一人でこなすことは難しく,無理が生じます。

SE担当を独立させることで,まず技術ベースでしっかり検討した上で,スケジュールやリソースも踏まえて最終判断を下すことができ,やはり大きなシステムでは望ましい分担の仕方だと感じました。

——Resolveの一つの特徴としてNASAと密接に連携しながら作業を進めた点がありますね。

はい。NASA側には,X線マイクロカロリメータやそれを絶対温度0.05度に冷やす冷凍技術で世界を牽引する研究者・技術者もいて,一緒に仕事をすることは非常に刺激的です。

NASAで製作されたモジュールを、日本側で製作した真空断熱容器に組み込む瞬間の様子。2019年11月25日に住友重機械工業(SHI)新居浜工場にて、SHI/NASA/JAXA共同で実施。
後方右端で青いマスクをつけて確認しているのが藤本氏。

過去にはインタフェースの相互理解が不十分であったために失敗もしたのですが,それを乗り越え,緊密に連携しながら開発を進めています。考え方や文化の違いは常々感じています。

一般的な傾向として,日本人は限られた資源の中で最善をつくすよう工夫するのに対して,アメリカ人は資源を惜しみなく使って十分な性能を出そうとします。どちらがいいとか悪いとかではなく,お互いの違いを認め合い,その上でしっかりと合意を得ることが大切で,それにより大きな相乗効果が得られます。フラストレーションがたまることもありますが,「なるほどそういう考え方ができるのか」と思わされることが多く,勉強になります。

——開発過程で印象に残っていることを教えてください。

一番大変だったのは,真空断熱容器の中にある液体ヘリウムを入れる容器から液体ヘリウムがリークした(漏れた)ことです。液体ヘリウムを入れて極低温にした時にだけ起きる非常に厄介なリークで,何とか解決できるだろうという楽観的な気持ちと,本当に解決できるのだろうかという悲観的な気持ちとが半々で,先行きが見えず,とてもしんどかったです。解決するまでに一年以上かかりました。日米の開発メンバーで協力して解決できたときは,ほっとすると同時に,このチームの強さを実感しました。

細かいトラブルもありましたが,Resolveでは装置単体で十二分に試験をして,自信をもって衛星に搭載することができました。ASTRO-Hのときは難易度が高くで実施しなかった試験も十分に準備をして実施しました。時間をかけて準備をして,試験をして,やるべきことはやったという気持ちです。

試験を終え,衛星に搭載する直前のResolve冷凍機システム。(c)JAXA

——今後の夢を教えてください。

まずはXRISMが無事に打ち上がり,軌道上でResolveの性能が出ることを確認することです。そして,きちんと科学成果を出すこと。さらにResolveが軌道上で3年以上活躍し,液体ヘリウムがなくなった後も観測を続けられることを見届けること。Resolveは液体ヘリウムがなくてもセンサを絶対温度0.05度に冷やして観測できるように設計されています。このことは、貴重な観測時間を延長できるとともに、将来につながる技術の実証にもなります。これで思い残すことはありません。

X線マイクロカロリメータによる宇宙観測の実現にこれまでに4回もチャンスを頂いたので,XRISMの後は,これまでの経験を活かして他の科学ミッション遂行にも貢献できたらと思います。さらにその後は,宇宙科学を通して何か広く社会の役に立つこと,世界平和につながるようなことができたらいいなと思います。

インタビュー日:2022年12月27日
インタビュアー:堀内貴史・生田ちさと