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昔の日本のお坊さん文化。『破戒と男色の仏教史』松尾剛次


信州生まれの私が大阪に来て、知らなかった常識をたくさん知りました。例えば、8月終わりの「地蔵盆」。それから7月にお盆をやる地域があること。関西ではお坊さんの知り合いもできたので、今頃はお盆で大変な仕事の量をこなしているだろうから、体調維持できているか心配です。

さて、本書は刺激的なタイトルですが、いたってまじめな研究書です。作者の松尾剛次先生は、中世の仏教史が専門。でも、この本は新書で薄くて小さいサイズなので、必要最低限の説明以外は、中世のお坊さんや仏教に関する説明を、完結にわかりやすくまとめてくれています。専門的で、読みやすい本はありがたいです。

ただし、松尾先生の専門が古代から中世あたりということで、この本もやっぱり古代から中世が中心です。実は私は、江戸時代とか近代以降も知りたかったので、そのあたりがかなり残念。でもまあ、予備知識を増やせたのはよかったです。いつ使えるかわからない予備知識ですが......

それにしても。江戸時代までのお坊さんたちにとって、「お稚児さん」の存在があたりまえだったとは。そして、あたりまえどころか、お坊さんたち同士で奪い合ったなんて話は全然知りませんでした。そもそも、想像がつきません。でも、ちゃんとそういう資料が残っているというのだから、すごいの一言です。

まあ、武士の男色があたりまえだった歴史があるなら、お坊さんだって同じ……というのが自然なのでしょうけれど。そして、昔「あたりまえ」だったことは、記録が残っているし、男性同士でやりとりした手紙も残っていたりするようです。

価値観がすっかり変わってしまった現代では、この本は刺激的な内容だとか感想を書かれるわけですが、もしタイムマシンで江戸時代にこの本を持っていったら、「なにあたりまえなこと書いてあるの?」になるのか、「実際はもっとすごい話が伝わっているのよ!」になるのか、どっちなんでしょうね。

この本は、「戒と僧侶の身体論から見た苦悩と変革の日本仏教史」なんて煽り文句が書かれていますが、「身体論」というなら、なぜ日本で古代から仏教の戒律が普通に破られて、それが許されていたのかも知りたかったです。全部「日本の文化」とまとめてしまって、それ以上の話に進んでいないのが残念かな。


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