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シャープを買収した鴻海の社長はこんな人。『野心 郭台銘伝』安田峰俊


 台湾的でもあり、中華的でもある経営者・郭台銘(テリー・ゴウ)の評伝。シャープの買収で鴻海(ホンハイ)という台湾企業は、一躍日本では有名になった(はず)。しかも、赤字だったシャープを1年ほどで黒字に立て直してしまうとか。

 もともと、鴻海はアップルや日本の大手企業の製品を組み立てる工場が有名。どちらかというと、フォックスコンという名前の方が有名かな。企業の注文を受けて、組み立て(EMS)をするだけなので、通常は表に出てこない「黒子」と呼ばれる会社。中国各地に多数の工場を持ち、安い人件費で製品をつくり、利益を上げている。厳しい経営管理が有名で、アップルの新製品発売前には厳しすぎる労働環境に、10数人の飛び降り自殺者を出したことで、悪名が一気に高まったのが2016年。

 台湾では、容赦ないリストラや買収でも知られているので、今回のシャープ買収がどんな影響を日本に与えるのか注目されていた。ただし、日本のマスコミでの注目のされ方は、中国や台湾でのそれと全然違う。どちらかというと、「本質はそこじゃないだろ!」といいたくなるようなものばかり。だから、本書の著者安田峰俊さんは、中国語が堪能で中華圏に詳しい方なので、期待して手に取った。

 期待に違わず、安田さんの筆は、郭台銘個人についてしっかり、がっちりレポーとしてくれます。彼の台湾人らしい部分と中国的な文脈もうかがえて満足。それに、他の台湾人起業家・・・たとえば奇美実業の社長みたいな日本統治時代を覚えている人と比較して書かれているあたりもおもしろいし、私生活がメチャクチャ質素(むしろ吝嗇に近い)で、他の中華系企業の成功者みたいに愛人多数抱えたりしないのもおもしろい。一方で、必要なことにはお金を惜しまないし、中国政府との距離のとり方も独特のものがある。

 ただ、経営感覚は一世代前の中小企業のワンマン社長。お寺(廟)を信じたり、父親のルーツである中国の故郷を大事にしたりと泥臭く、どう見ても現在の鴻海みたいな巨大企業グループを率いるにはスマートさに欠ける。あたりは、やっぱり中華的な人なんだなあと。何より、企業理念が(建前すら)なくて、ひたすら拡大・成功しつづけることを求めるなんて、おもしろいなあと思う。このあたり、「野心」というより「業」のような気がする。

 本書はテリー・ゴウ個人についての評伝なので、経営方面についての話はほぼなし。今度はそちらについて詳しい本でも探してみよう。それから、本書が出てからの彼は、かなり台湾の政治にも絡みたそうな感じで、最近は台湾の総統(大統領)選挙に出る出ないが取りざたされるようになった。安田さんは台湾専門じゃないから、そのあたりはまた別の本が参考になるはず。







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