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地べたから見た英国EU離脱。『労働者たちの反乱』ブレイディみかこ


私は、ブレイディみかこさんの文章と観察力のファン。なので、出来る限り新著は読むようにしています。

本書は、彼女のいつも本のように身近な人へのインタビューや新聞、ニュース番組などのリアルタイム情報の変化のまとめだけじゃなくて、オックスフォーフォード大学の教授セリーナ・トッド『ザ・ピープル イギリス労働者階級の盛衰』をもとにイギリス・ワーキングクラスの100年の歴史を振り返っている。

珍しく、お勉強的な内容が多いのは、彼女が自分の勉強の成果を私たちに提示する必要があると感じたからだろう。世の中のことは、半径5mを観察すればいいって主張をする人もいるけど、現在は過去と無関係ではいられない。専門家たちのコンセンサスある歴史も、いちおう押さえておいた方がいいに決まっている。

さて、彼女が紹介してくれる歴史と今、直面しているイギリス社会から見えてくるのは、現在と同じようなことが、過去にも起こっていて、少しづつ形を代えて繰り返していること。イギリスのEU離脱についての日本での報道は、単純にアメリカのトランプ現象と結びつけるものが多かった。でも、みかこさんの文章は、そういう表層的な見方じゃなくて、ちゃんとイギリスの歴史の文脈の中で考える必要を提示してくれる。いつも通り、彼女のイギリス社会への目線は「地に足がついている」。

みかこさんの文章は、身近な生活の中から、社会全体に関わる問題を見つめようとする「普遍的」なものへの希求、「ニンゲン」を洞察しようとする力がある。それは、自分の見たものだけをその国のすべてとして語りたがる、数年滞在しただけの駐在ジャーナリストやビジネスパーソンと異なる所。彼女のイギリスに関する文章は広くて、深い。だから、好き。





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