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アメリカ人記者の中国大冒険。『モルモットをやめた中国人』カール・クロウ


清朝末期から1937年までの約30年といえば、中国も日本も、そして世界も激動の時代。中国に住んで、各地を旅したアメリカ人ジャーナリストのクロウが書いた『CHINA TAKES HER PLACE』(1944)の翻訳が本書。現在読んでも、とてもおもしろいです。

なんせ、同時代の新聞記者の目で見た中国と、中国に住む人たちの心情が活き活きと表現されているんです。第二次世界大戦がどう決着するかもわからないし、中国で社会主義革命が起きることもまだ知らない。だから、読者の一般的な中国史のイメージをひっくりかえしてくれます。

1911年、最後の皇帝溥儀が退位する1年前。作者のクロウは、アメリカ人が始めて設立した『チャイナ・プレス』(中国名:『大陸報』)で仕事を始めたそうです。この新聞の創刊者は、ミズーリ大学のジャーナリズム専攻で、クロウもその後輩。後に有名な『中国の赤い星』を書くエドガー・スノーも、彼らの後輩だったそうです。

ヨーロッパの中で、中国に最初にやってきたイギリス人ジャーナリストたちは、「中国では事件が起きない」、「中国人は何もできない」と信じていて、大英帝国が中心の世界観の中で、アジア=インドとしか考えていなかったそうです。けれど、アメリカ人のクロウは、自分たちは好奇心たっぷりに、激動の中国社会を見聞してまわったと書いています。

1991年の辛亥革命では、辮髪をめぐる新旧世代のジレンマや、地方軍が集合しても言葉が通じない「バベルの塔」状態について、教科書や政治中心の歴史書にのらないようなおもしろい逸話を教えてくれます。クロウが孫文にインタビューしたときの様子も、すごく興味深いです。彼の文章は、その時代と中国の魅力を、アメリカ人的視点から余すところなく伝えてくれます。

本書を訳をした山腰さんは、英語も漢文も堪能で、漢文の翻訳辞書もつくってしまうような高校の先生。そんな先生に教えてもらえる学生さんたちが、本当にうらやましいです。山腰さんは、クロウのことを”マーク・トゥウェインが中国をレポートしたよう”と表現しますが、確かにそんな雰囲気があります。アメリカの地方新聞の記者、という経歴もマークとよくにているそうです。

歴史好きはもちろんのこと、中国の伝統社会や、中国にいたたくさんの外国人たちが、20世紀はじめにどんな仕事をしていたのか、知りたい人にもオススメです。


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