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『住友の歴史』住友史料館編集・朝尾直弘監修


企業としての住友は、鉱山業とその関連産業を軸として成立・展開してきた財閥で、歴史はおよそ四百年以上。まず、ここから驚きました。そんなに長い歴史があったとは。そして、企業としてちゃんと史料館を持っていて、公式の歴史書まで出しているなんてすごいです。

もちろん、大きな会社は資料編纂部とか社史を制作する部門があって、公式の歴史書を出版することは普通ですが、史料館があって、しかも美術館を展示する博物館まであって、入場料もすごくお手頃。私は、友達とここの印鑑を鋳造する講座に参加したこともあって、とても楽しかったです。

さすが、大阪府立図書館(中之島)建築の施主になり、大金を寄付したり、書籍を寄贈しただけのことはあります。大阪では、公共のための文化貢献のさきがけと言われているそうです。かっこいいです。

さて、江戸時代。創業者の住友小次郎正友は、涅槃宗に帰依した宗教者だったというところで、まずびっくり。でも、当時として異端的な位置づけにあった宗教団体だったので、お上によって解体された後、正友は俗生活に戻ったそうです。

そこから住友の歴史が始まります。最初営んだのは薬屋と本屋で、屋号は富士屋。当時は「儒医」の言葉が示すように、東アジアではこの2つの兼業は普通のことだったそうです。江戸の大手出版業者の須原屋茂兵衛も、薬屋と本屋の兼業だったとか。

こういう豆知識は、多分専門家には当たり前なので、和本や漢籍、書誌専門書にはなかなか出てこないので、ちゃんと書いてくれているこの本はありがたいです。

以後、近代に至るまで四百年以上の歴史を、主に江戸時代を中心にまとめたのが本書上下2冊です。元になったのは住友史料館の館報(紀要)なので、銅に関する記述が多くて専門的なところもありますが、普通の読者に読みやすいように工夫してまとめてあるのがうれしいです。写真や図も多いし、索引や参考文献もしっかりあって助かります。

ただ、住友博古館に収蔵されている美術品とか、中国との文化方面の関わりを期待した私としては、記述があっさりしていて残念。なんでも、江戸時代にあった大きな大阪の火災で、保存していた資料が全て焼けてしまったということで、焼けなかった四国の銅山の話が多くなったのかもしれません。

あと、私は明治以降の歴史も期待したのですが、そこらへんもあっさりしているのは、まだちょっと歴史にするには新しいからなのか、今後続編が出るのか。ともあれ、住友という大企業の歴史についての入門書としては、公式でもあり、専門家の監修もあり、お値段も手頃だし、ベストなのではないでしょうか。



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