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優しさがあふれる。映画『おばあちゃんの家』韓国、2002年。

わがままな都会っ子が、シングルマザーの母の都合で、しばらくの間、山奥のおばあちゃんの家にあずけられるお話。もう、見る前から大体、ストーリーは結末まで予想がつきます。でも、この映画は映像だけで、静かにいろんなことを語りかけてくるので、心に残るようです。

おばあちゃんの家は、電気は懐中電灯。水道もテレビもない。トイレは外。なにより、おばあちゃんは昔の人なので字が読めないし、耳は聞こえるけど、言葉がしゃべれません。もちろん都会生活も知りません。だから、孫に身振り手振りで話しかけるだけ。一心に愛情を注ぎます。

一方の孫は、ゲームボーイとたくさんのジャンクフードだけで、母親に置いてきぼりにされ、ふてくされています。男の子は、たぶん10歳くらい。都会と全く違う、田舎の猥雑さに驚いてしまって、一方的に連れてこられたおばあちゃんの家に、不満しかありません。だから、おばあちゃんのことは完全無視。

持ってきた食べ物がなくなると、「ケンタッキーが食べたい」と言いますが、ケンタッキーを知らないおばあちゃんが作ったのは蒸し鶏。最初は怒りまくって食べませんが、お腹が空いてはどうにもならず、しばらくして食べだします。

電池がなくなってゲームができなくなると、孫は電池がほしいとわめきます。ボタン電池が無いのがわかると、おばあちゃんのかんざしを盗んで、村のお店に電池を買いに行きます。でも、どの店にもボタン電池はありません。最後は、道に迷って泣いて、村の人に自転車で送ってもらうハメになります。

とにかく、思い通りにならないとおばあちゃんにわめきちらして、家の壁に「バカ!」と落書きしたり。男の子は観客が苛立つような態度を続けます。でも、おばあちゃんは怒りません。耳が遠いし、字が読めないという設定は活きるのですね。ひたすら、孫のいうことを聞こうとしてくれます。

転機は、村のかわいい女の子との出会いです。彼女と話をしたいために、一生懸命チャレンジする中で、少しづつ男の子はおばあちゃんや村の人たちに慣れていきます。口で何かやさしいことを言うわけではないのですが、おばあちゃんのために、家事をちょっとづつ手伝うようになります。

自分がもうじき都会に帰るとわかったときには、針山の針という針全部に糸を通してあげたり、おばあちゃんに字を教えて、「何かあったら手紙を書けば、僕がとんでくるから!」と力説します。ぶっきらぼうな男の子の、やさしい気持ちがほっこりします。

母親が迎えに来て、自分が都会に戻るときのカメラワークは秀逸で、おばあちゃんをほとんど映しません。ひたすら、下を向いている男の子を映します。おばあちゃんに「さよなら」が言えないでバスにさっさと乗り込む男の子。でも、バスが走り出すと、後部座席から手を降って、ずっとおばあちゃんを見ています。その、泣きそうな顔が、どんなセリフよりも雄弁です。

この映画は、男の子とその母親以外、すべて素人の人が出演しているそうで、おばあちゃんも地元で暮らしていた普通の人だとか。私には、韓国語がわからないので、セリフの上手い下手もわかりませんが、そういうものを全部ひっくるめて、かなり不思議な雰囲気を持った映画だと思いました。韓国でも、かなりの観客を動員して話題になったとか。

そのおばあさん役の方、キム・ウルブンさんは今年2021年4月に95歳で亡くなられたとか。ご冥福をお祈りいたします。

邦題:おばあちゃんの家(原題:집으로)英題:The Way Home
監督:イ・ジョンヒャン
主演:ユ・スンホ、キム・ウルブンほか
制作:韓国(87分)2002年

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