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文字通り、波乱万丈の人生。『呉清源』江崎誠致


作者の江崎さんは『昭和の囲碁』という本を書いた方。1942年に出版したときには、木谷実、呉清源、藤沢朋斎、高川格、坂田栄男という棋士を中心に書いかれたそうです。

戦後になって、林海峰、石田芳夫、橋本宇太郎という新しい囲碁界のヒーローが出てきたので、あらためて彼らの話を追加して『昭和の囲碁』を再版し、さらに平成になって藤沢秀行、加藤正夫、張治勲も加えた『昭和の囲碁』三版を書かれたとのこと。つまり、昭和の日本囲碁界の生き字引的なライターさん。

そんな江崎さんが書く『呉清源』は、来日してからの活躍と、帰化をめぐる話、日中戦争中の話。戦後の宗教や国籍をめぐる問題などなど。囲碁棋士なのに、囲碁以外のことに振り回されてしまう部分が多いです。それは、彼が囲碁界にとどまらない大きな存在で、戦前には囲碁を通じて政治家や文豪とも交友関係があったり、宗教を信じて囲碁を捨てたりと、社会的にも話題になったからでしょう。

なにより戦後の日本は、台湾に撤退した中華民国と国交を結び、中華人民共和国とは国交がありませんでした。だから、彼の国籍も中国福建省生まれなのに、自動的に台湾の中華民国になってしまうという妙な事態がおこります。本人さえ知らない間に、国籍や所属でややこしい話になるのが辛いです。

日本棋院や読売新聞との関係をめぐるゴタゴタや、中国と台湾をめぐる問題。交通事故にあって、思うように勝てなくなってしまう不運。それでも、長生きをされたおかげで、日本と中国が国交を結んだ後に中国に帰ったり、旅行をすることができて、本当によかったです。

ご本人が存命のうちに中国で映画『呉清源 極みの棋譜』がつくられるなんてのも、伝説的な存在ならではですね。


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