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日本仏教に救われなかった男がインドの仏教を復興させる。『破天』山際素男

笹井秀峰さんの人生は、まさに文字通り破天荒。日本での前半生だけでもうおなかいっぱいになってしまうのに、後半にはインドでの波乱万丈が控えていて、しかもまだ存命。活動は継続中。人生の迫力がありすぎます。

笹井さん、生まれる時代を間違えなくて本当によかった。現代日本に生まれていたら、絶対に窒息していたはず。宗教や修行、悟りとか救いってのは、笹井さんのような人のためにあるのに、現代社会では、ほぼ機能することができていません。

本当は、こんな不真面目な口調で感想書いたらいけないみたいな本だけど、真面目に書いたら作品の引力に引き込まれてしまいそうなので、敢えてこんなスタンスで書いてみます。

笹井さんは、岡山の新見で生まれて、東京へ伝手もないのに上京。地元へ戻って商売するも、色恋沙汰で事業を滞らせて家出。山梨のお寺で修行、高尾山で出家。放浪の旅に出たかと思うと、東京で勉強し、浪曲やったり占いしたり。それがことごとく上手くいってしまう。

師匠の勧めでタイへ留学し、失敗。帰り道インドへ渡り、日本山妙法寺に世話になるが、その後、飛び出す。ナグプールに拠点を構えて、仏教活動をし、やがてインド仏教界の指導的役割を果たすようになる。

いつも振り子が振れるように、極端から極端に走る笹井さんの生きるエネルギーに驚きます。もうちょっと段階を踏むとか、要領よくといった気持ちは浮かびません。とにかく周囲を巻き込んでしまう、重力の強い人。

ある時期は固い絆で結ばれても、一定時期を過ぎたら必ず人間関係を破綻させてしまう人ってのはいます。いつも何か動いていないと生きていけない。落ち着いた生活なんか、とんでもない。けれど、それは本人のせいじゃないし、本人も苦しいから、笹井さんがインドにたどり着けて本当によかったです。

インドにはカースト以下の不可蝕民といわれる人々がいて、ガンジーすら彼等を拒絶したと聞きます。現代でも虐げられた人々が、仏教に帰依します。それも、インドで数百年前に一度は姿を消した仏教に。

彼らを「導く」のは真言宗で出家して、上座部仏教を学び、お祝いのときはパーリ語でお経を唱え、憑き物払いは、日本山式に団扇太鼓で南無妙法蓮華経を唱えるササイ師。インドって国は、苦悩も時間も歴史も文化も何もかも飲み込んで、とことん懐が深そう。一度行ってみたいです。





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