マガジンのカバー画像

中国──あの日、あの時

15
旅行記まとめ
運営しているクリエイター

#旅行

呼和浩特──騎馬民族の祈り

呼和浩特──騎馬民族の祈り

内蒙古、3月の冬へ

 北京でも桜が咲き始めた頃、私は内蒙古自治区の省都、呼和浩特に向かう列車の中にいた。かつて騎馬民族が駆け巡った大地の鉄路は、春とは思えぬ冷気に支配されていた。

計画的な無計画

 今回の旅行はいつになく突発的なものだった。木曜日の夕方に放課して、金曜日に授業がない授業予定を組んでいる時分で、金曜の夜まで予定がないというタイミングだったのである。
 「つまり木曜の夜に出て、金

もっとみる
南京──追憶の都市を往く。①

南京──追憶の都市を往く。①

北京発南京行き

江蘇省南京。中国の首都北京から高速鉄道でわずか3時間の土地に、この長い中国の歴史で多くの偉人が争った古都がある。   
 南京は歴史上、三国・呉、東晋、南朝の宋・斉・梁・陳、十国の南唐、そして幻の宗教国家であった太平天国、傀儡国家南京国民政府の首都が置かれ、台湾(中華民国)が首都と主張する非常に数奇な都市だ。
 寒さが戻ってきた3月の中旬、私と友人は夜の北京駅を寝台列車で滑り出し

もっとみる
南京──追憶の都市を往く。②

南京──追憶の都市を往く。②

南京の隠し味

 南京という街ほど、歴史と観光を調和させた街はないだろう。彼らはその昔から、自らの都市が抱いた歴史を尊重し、それを外部の人が楽しめるように程よく隠し味を追加したのである。

 隠し味には多くの物があるが、例えばそれがちょっとした良いお酒だったらどうだろう。南京でも有名な観光地、夫子廟周辺の煌びやかな通りに佇む一軒のバーこそ、南京旅行をちょっとグレードアップさせてくれる"隠し味"かも

もっとみる
内蒙古──変わる支配者、変わらぬ大地

内蒙古──変わる支配者、変わらぬ大地

 中国は共産党が指導する社会主義国家ということもあり、5月1日のメーデーを中心に大型連休が組まれている。多くの中国人はこの機会に旅行に出かけており、私も学生向けツアーで内蒙古自治区の草原と砂漠を訪れることにした。

朝4時、トラブルにて

 内蒙古は中国の北西部にかけて位置する広大な民族自治区であり、多様な自然が同居していることでも知られている。遊牧民族の残り香を感じる草原に、オリエンタルな空気を

もっとみる
ウイグル旅行を振り返って──中華民族のディストピア

ウイグル旅行を振り返って──中華民族のディストピア

 先日、noteでウイグル旅行記を前後編に分けて2篇投稿した。

 概ね4日間の旅行は私の抱いていた従来のウイグル観を大きく崩すと共に、一つの結論を導き出させた。つまりこの2023年のウイグル自治区(少なくとも主要都市圏)は、既に"従来の民族文化が全て浄化されたディストピア"なのではないかと言うことだ。これについて端的に述べていきたい。

①監視体制の弱体化・縮小化

 従来、ウイグル自治区のイメ

もっとみる
天津──ソ連空母を観に行く・商務座体験

天津──ソ連空母を観に行く・商務座体験

 ソビエト連邦。世界初の共産主義国家にして戦後世界もう一つの牽引者であった国は多くの遺産を残した。領土問題、民族問題、社会主義リアリズム……。ソ連崩壊の折に最も関心を集めた問題が莫大なソ連邦軍の装備品の譲渡だ。ソ連は崩壊直前から軍備の海外流出が相次いでおり、崩壊とともに多くの装備がソ連邦圏から成る独立国家共同体加盟国に配分された。

 ところ変わって中国は天津市。北京近郊の港町として栄えたこの西欧

もっとみる
カシュガル民宿街──作られた旅情

カシュガル民宿街──作られた旅情

 最近、新疆ウイグル自治区に徐々に日本メディアが入るようになり、様変わりした新疆の様子が話題になりつつある。
 私自身、少し前に書いた2本の旅行記(下にリンク)や、旅行の振り返りが好評を博したりと、新疆を巡る情勢は日本が取り上げる中国ニュースの中でもホットな話題と言えるだろう。

 そしてつい先日公開されたこの記事は、ウイグル自治区のカシュガル市内に設けられた民宿街について触れていた。
 旅行記を

もっとみる
延安──革命の食都

延安──革命の食都

山奥の小さなこの街が、新中国建国につながる大きな原動力を育て上げたのか。西安から延安に向かう高速鉄道から見える景色は、思わずそう考えさせてしまった。西安を出た頃に見えた田園風景はすっかり険しい山々の稜線へと変わりつつあった。

革命根拠地として

 延安は建国の父である毛沢東が、国共内戦の最中に辿り着いた都市であり、中国共産党中央委員会が置かれ、彼はここで"革命家"としていくつかの主要な論文を書き

もっとみる