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「改行なんてこだわる必要ない」はホントウか? 【コピーライターの視点】

株式会社エクシングのコピーディレクター、高沼です。

サムネイルを見て違和感をおぼえた方、さすがです…!

単語の途中で行が変わっているとちょっと気持ち悪いですし、場合によっては意図と異なる解釈をされてしまいますよね…。

今回は、意外と印象を左右する「改行」についてお話ししていきたいと思います。




 「改行なんてこだわる必要ない」のか?


📙 どちらが読みやすいですか?


「内容がよければ、書く人に魅力があれば、改行なんてどうでもいい」

たしかに、それも一理あるかもしれません。

けれど、下の文章なら、どちらが読みやすいでしょうか。


【A】
始まりや一番目を象徴する〈甲〉と勢
いよく上昇する〈辰〉の組み合わせとな
る2024年。皆様にとってさらに天高
く、力強く上昇する年になりますように。


【B】
始まりや一番目を象徴する〈甲〉と
勢いよく上昇する〈辰〉の組み合わせとなる2024年。
皆様にとってさらに天高く、
力強く上昇する年になりますように。

当社の年賀状 ごあいさつ文より


多くの方が、【B】の方が読みやすいと感じたのではないでしょうか。


株式会社エクシングの年賀状。コピーは「のぼる、うえへ、うえへ。」
2024年の当社年賀状。
デザイナーKさんが手がけたビジュアルが印象的です。
上でご紹介したごあいさつ文は宛名面に載っています。


📙 広告は努力して読むモノではない


あくまでも「私」に関して言えば、読みやすいものをつくらなければいけないと思っています。

それは、私が広告業界で働いているからです。

広告は本来、「率先して見たいもの」ではありません。

もしも私が売れっ子作家で、新作小説を書いたとします。
ファンである読者の方は、お金をわざわざ払って読んでくれるでしょう。
たとえ難解な内容でも、喜んでページをめくってくれるはずです。

けれど、広告は違います。
受け手の意思とは無関係に、いきなり目の前に現れるものだからです。

“はやくこの動画の続きが見たい”
“はやく次のページの記事が読みたい”

そんなときに、広告はふと姿を現します。

誤解を恐れずに言うならば、「迷惑者」です。

それでも、読んでもらわなくてはならない。
商品やサービスの魅力を、伝えなくてはならない。

だからこそ、私たち広告業界で働く者には“サービス精神”が求められます。

「読もう」と努力しなくても、自然に興味が湧いたり、すらすら読み進められるモノでなくてはなりません。

すると、内容はもちろん、文章の「見た目」も重要になります。

広告のようにそれほど長くない文章の場合、「読む」というよりは「見る」が正しい表現なのでは?と思うことがあります。

特に情報過多な現代においては、必要な情報か否かの判断がより素早く行われる傾向にあります。
Facebook(現Meta)の社内調査では、「0.013秒」の間に情報を処理しているという驚きの結果も出たそうです。

一人でも多くのひとに情報を伝えたい場合、パッと見たときの印象や読みやすさを左右する、改行にこだわることは必須と言えるでしょう。


2進数が書かれたモニター画像のイメージ
まさに情報過多の時代…


改行によって変わる印象


📙 読みやすさを求めるなら − 文節で改行すべき


読みやすさに最も配慮するなら、適切な文節で行を変えていくのが良いでしょう。

たとえば、こんなふうに。


最新鋭のファクトリー訪問と
サーキット同乗体験

ポルシェ第二の故郷である、ライプツィヒ工場。
2018年からは新型マカンの生産も開始した地で、
先進のシステムと熟練の技をご覧いただけます。
見学後は、世界中の名立たるコーナーを模した
オンロードサーキットでインストラクターによる
同乗走行をご体験ください。ポルシェ車の真価を
余すところなく引き出すドライビングテクニックは、
どんなアトラクションよりも刺激的です。

当社で手がけたポルシェ公式ツアーのパンフレットより


意味的に区切りがいいところで改行することで、文章が自然と頭に入ってくるのではないでしょうか。

これは広告だけでなく、日常的なビジネスメールなどでも使えると思います。

仕事のメールを読みたくて仕方がない、という人はおそらく少ないでしょう。
だからこそ、できる限り読みやすい形式にすることで、自分の想いを誤解なく効率的に伝えられます。

もう一つ、私が仕事をする上で特に気をつけているのが、商品名や企業名で行をまたがないようにすることです。

(デザインやレイアウトによりますが、)できる限り商品名や企業名などの固有名詞は一行に収めることで、読みやすく丁寧な印象になります。


📙 “あえて改行しないスタイル”の効果①


とはいえ、必ず文節で改行すべきという訳ではありません。

たとえば、こちらの広告。


ユニクロはなぜジーンズを2900円で売ることができるのか
ユニクロでは、製品を自社で企画開発し、自社で生産管理し、自社で流通から販売までを行っています。私たちは、このシステムに改良を重ね、よりシンプルにして様々なコストをおさえることで、市場最低価格をめざしています。そしてその過程で品質を犠牲にすることは、絶対にありません。私たちは、あらゆる人が着ることができる「カジュアル」を信じています。「カジュアル」は、年齢も性別も選びません。国籍や職業や学歴など、人間を区別してきたあらゆるものを超える、みんなの服です。服はシンプルでいい。スタイルは、着る人自身がもっていればいいと思うのです。ユニクロは、現在全国に368店。いつきても欲しいものがある「コンビニエンス」をめざしています。お近くの店はフリーダイヤル0120-09-0296でお問い合わせ下さい。私たちはこの7月、年間総売上高1000億円を達成しました。山口県山口市大字佐山から、世界一のカジュアルウェア企業になるという夢をもっています。きっと、なります。
1999年に発表されたユニクロの広告。
企業としての強い意思が伝わってくるデザインです。


ボディコピー(本文)をあえて改行しないスタイルが印象的です。
(もちろん細かな調整はされていますが…)

紙面いっぱいに文章のみをレイアウトすることで、「世界一のカジュアルウェア企業になる」というユニクロの強い意志が視覚的に伝わってきます。

「あれ? 文節で改行しないと読みづらいんじゃなかったっけ?」と思った方もいるかもしれません。

このレイアウトが成り立つ理由は、いちばん上に大きく書かれたキャッチコピーにあると思います。


ユニクロはなぜジーンズを2900円で売ることができるのか。


この大きな疑問を投げかけることで読み手の興味をはじめにグッと引きつける。

「言われてみれば、なぜなんだろう?」と思わせたところに、ボディコピーで畳み掛けているのです。

最初に強いフックによって気持ちを「掴んだ」からこそ、改行なしでもすらすら読み進めてしまう。
(まさに“キャッチ”コピーですね)

企業としての強い意思を示すためにも、(まるで息つく間もなく話す人を想起させるような)このデザインは効果的に機能していると言えるでしょう。


📙 “あえて改行しないスタイル”の効果②


もう一つ、「改行しない」という選択がプラスに働いている例をご紹介します。


漫画『こぐまのケーキ屋さん』のひとコマ。店員さん「カカオ知らないんですか…?」店長「ち…ちょっとしっています…」というやり取り。こぐまの店長のセリフは単語の途中で改行されています。
こぐまのケーキ屋さんのひとコマより


漫画家・カメントツさんの大人気作品、こぐまのケーキ屋さん

ケーキ屋さんの店長を務めるこぐまと、店員である青年のくすっと笑えるやりとりが魅力の漫画です。

こぐまの店長は人間界のことをあまり知らないので、あらゆるものに逐一おどろきます。

そんな店長のあどけないキャラクター性を際立たせるのが、文節の途中で改行する手法です。

あえて違和感のある箇所で改行することで店長の純粋無垢な性格とたどたどしい口調がとてもうまく表現されていると感じます。





掘り下げてみると、意外に奥深い改行の世界。

ちいさなこだわりがおおきな成果につながると信じて、たった1文字のちがいにも敏感でありたいです。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


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