業歴約90年の技術力を随所に体現。理化学用品メーカーゆえに可能なユニークさを凝縮した逸品とは
【Create New Market】Episode.2
日頃表舞台に立つ機会が少ない製造業が、知恵と技術を凝縮して生み出した商品やサービスによって思いがけず注目の的となることがあります。
どんなきっかけで作り出し、どんな思いで世の中に送り出したのか。
1つ1つの商品が世に出るまでの舞台裏を覗くと、かけがえのないストーリーが隠されています。
今回は、(株)クライミング(福岡県みやま市)が送り出すガラス製品にフォーカスを当てます。
ニッチなモノづくりによって紡いできた技術力とノウハウは製品のユニークさとして体現され、想定を超える反響につなげてきました。
【Introduction】正確無比な精度が問われる理化学用品
クライミングは福岡県みやま市に本社を置く理化学用品メーカー。
国際航路の機関長だった創業者が、ドイツで目にした度量衡を日本で広めることを目的に1932(昭和7)年に立ち上げたことに起源を持ちます。
メスシリンダー、ピペットなどの体積計をはじめ、フラスコやビーカーなど、特に円筒状で複雑な形状のガラス製品で強みを伸ばしてきました。
体積計を作る上では、何よりも「正確さ」が問われます。
国内で理化学器具を製造できる企業は珍しく、研究機関や教育現場などで使うガラス体積計の分野では約7割のシェアを誇ります。
他にも内装用のフロストガラスやエッチングミラーといったデザインガラスの製造に強みを持ち、鉄道車両の内装に採用されるなどその技術力は折り紙付きです。
【STEP.1】一般消費者との接点を作ったネットショップ
ニッチなモノづくりでノウハウを培ってきたクライミングですが、実は一般消費者との接点づくりは早くから進めていました。
窓口となったのは、メスシリンダーやフラスコなど自社製品を扱う楽天市場での展開でした。
一般消費者が手に入れにくい製品は、検索経由で密かに認知度を高める場となりました。
フラスコやメスシリンダーが一輪挿し用に使われたり、実験用備品が夏休みの自由研究用に購入されたりと、研究施設や教育機関向けとは異なるニーズを実感する場となります。
ただ、当時は自社製品をそのままネットで販売するだけの展開にとどめていました。
そんな状況からある出来事が転機となり、次の一歩へ踏み出していきます。
【STEP.2】企画から始まった商品化への歩み
遡ること約10年前。
地元テレビ局の情報番組がロケでクライミングの工場に訪れます。
中継を前に番組側から企画として提案されたのは、フラスコを応用しためんつゆボトルの製作でした。
番組が放送されたのは暑さが厳しい夏。
中継ではボトルを器にして冷やしそうめんを食べるだけでなく、販売の告知をすると番組終了後から問い合わせが相次ぎます。
「まさかの反響でその時はテレビの影響力をかなり感じました」
社長の濵地信さんはそんな風に当時を振り返りますが、企画として一時的に生産しためんつゆボトルは最終的に約50個を販売しました。
【STEP.3】理化学器具のノウハウを凝縮した商品の誕生
そんな出来事から約1年後。
めんつゆボトルを応用し、個人向け商品として本格的に売り出したのが「硝子徳利」です。
「何となくやってみようと思って作った」と語る濵地さんですが、製品にはクライミングの技術力が随所に詰め込まれています。
一般的にガラス製の容器は温度変化に弱く、加熱すると割れてしまう性質があります。
一方でクライミングの理化学用品は硬質ガラスで作られるため耐熱性、耐久性が高く、加熱しても割れにくい特徴を持ちます。
さらにガラス体積計の製造で計測に関する正確性を培ってきました。
硝子徳利は電子レンジで温めても割れにくく、水割り、お湯割り用に刻まれた目盛りや理化学用品ならではの撹拌しやすい形状が、製品のユニークさに結びつきました。
父の日のプレゼント用などを目的にコンスタントに売れ続け、とある居酒屋でも使われるなど、現在も販売を続ける定番商品となっています。
【STEP.4】「目線を変えた商品を」との想いを体現した新商品
硝子徳利をきっかけに少しずつ個人向けの商品が増える中、濵地さんはある思いを抱いていました。
「時代の流れで学校用の実験器具が樹脂化されたり、実験そのものをやる機会が少なくなったりしている状況で、何か目線を変えてできることはないかと考えていました」
そこで目を付けたのがメスシリンダーでした。
実験用として使う一般的なメスシリンダーは、円筒状の細長い形状で液体の体積を測ることを用途とされています。
ただ、その形状ゆえに倒れやすく割れやすい点が短所となっていました。
そんな短所をアレンジし、新たに企画した商品が「どっしりンダー」です。
「商品化までにそれほど時間はかからなかった」
そんな風に振り返る濵地さんですが、硝子徳利同様、どっしりンダーにもクライミングだからこそ可能なノウハウが詰め込まれました。
通常のメスシリンダーと比べ、高さは約半分である一方、外形は大きくすることで倒れにくさを実現しました。
ユニークな商品名は、そんな安定性を確保した造りから表現しています。
ネーミングとアイデアが凝縮された商品は、そのユニークさで今度は別の地元テレビ局から取材を受けるなど再び注目を集めることになります。
予想外だったのは、どっしりンダーの存在を知ったことをきっかけに、海外で医療支援活動を展開するNPO法人から問い合わせが来たことです。
どっしりンダーは企画の狙いを超え、クライミングの技術力の高さを広く伝えるツールとして浸透していきました。
【まとめ】ユーザーから学んだ会社のポテンシャル
これまで本業の延長線上として一般消費者向けの商品を企画してきたクライミングですが、継続的な展開によって得たものがあります。
濵地さんはその「気づき」について次のように述べています。
「会社を知ってもらうきっかけになっただけでなく、顧客から『使い方』を教えてもらいました」
硝子徳利、どっしりンダーともに、商品化の段階で想定した購入者に対してはるかに幅広い層へのアプローチにつながりました。
「こういう風に使ってくれるのでは」との自分たちの見込みを超え、様々な形で愛用される姿から大きな収穫を得ています。
「これからも自然体な形で続けていければ」と語る濵地さん。
「ガラスのコンビニ」を掲げるクライミングは、地道に、かつ、フランクさとユニークさを忘れずに、新たな商品を送り出すための歩みをこれからも踏みしめようとしています。
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