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「丁寧な仕事を続けるために。」半世紀にわたるテント、看板づくりの経験から感じるものづくりへの想い

働く人にとって、日々扱う道具は「相棒」と言っても過言ではありません。
相棒とどのように出会い、どんな思い出を刻んできたのか。
長らく使ってきた道具に焦点を当てると、その人の個性やこだわりが滲み出てきます。

今回の「相棒」は、(株)フジタ工芸の藤田幸一さんが扱う工業用ミシン。
街を彩る看板や横断幕などができる裏側を覗いてみると、細部にわたる手仕事の結晶が注ぎ込まれていることが実感できます。

《プロフィール》藤田幸一(ふじた・こういち)
 短大在学中に地元のテント製造会社で勤務を始める。1976年に藤田テント製作所を創業し、1988年に法人化。代表として事業運営を手がけつつ、自らもテントや看板などを制作してきた。現在も取締役会長として時折現場に立ち、製作に携わっている。趣味は釣り。福岡県出身、1948年生まれ。



パワフルで高速なミシンが生み出す街のシンボルたち

素早いミシンの動きに合わせて生地を動かしていく藤田さんの手

ー「相棒」と出会ったきっかけは。
藤田
「短大に通っている時に柔道の先生から前職を紹介してもらい、その頃からセイコーミシン製のミシンを使ってきました。自分で会社を立ち上げてからしばらくして新しいものを購入しようとした際、馴染みがある同じメーカーにしようと選んだのが当時は比較的最新鋭だったこのミシンでした」

ーどんな時に相棒は活躍していますか?
藤田
「テント屋根や店舗の日よけ、広告用の横断幕や懸垂幕などを制作する際にこのミシンで縫い合わせていきます。基本的に家庭用ミシンと同じような扱い方ですが、テント屋根や横断幕などを縫う際には縄を入れて縁の部分を補強する点に違いがあります。大きなものでは10メートル以上になるものも作りますが、2本針のこのミシンと1本針のもので使い分けていますね」


経験だけでは補えない現場の難しさを実感

藤田さんをはじめフジタ工芸の人たちが使い続けるセイコーミシン製「LSW-28BL」

ーそんな相棒にはどんな「個性」がありますか?
藤田
「30年ほど使っているので、生地が擦れてテーブル台にいつの間にか窪みができています。衣料品だけを縫っていたらこんな風にはならないと思いますが、テントの生地が硬く1分間に数メートル縫えるほど動きが速いからこそ窪みができたのだと思います」

ー印象に残っている思い出を教えてください。
藤田
「テントの生地は重布といって伸縮性があるものを使います。縫う際は現場で施工する時のことを考えなければなりません。ただ、あるテント屋根を作って現場で施工しようとした時、重布を引っ張って調整してもピタッとならずどうしてもズレてしまうことがありました」

ー設置する場所やその時の条件によって左右されそうですね。
藤田
「重布がどれだけ伸縮するかは、これまでの経験でおよその感覚を掴んでいるので現場でもある程度補えます。その時は施工する屋根が楕円形で難易度が高かったのもありましたが、伸縮のことを頭で考えずに縫ってしまったのが失敗でした。最終的に何とかなりましたが、正直冷や汗をかきました」


幼い頃の原体験が一生モノの仕事に

「1つ1つ形が違うからこそ出来上がったものを見た時の達成感がある」と語る藤田さん

ーもし相棒が現れなかったら、どんな社会人生活になっていましたか?
藤田
「『テント屋=ミシン』なので、今では相棒のない人生は考えられませんね。ミシン自体は子どもの時に遊びで使っていて使い慣れていたので、この世界に入った初日に自分が難なく縫う様子に周りから驚かれました。そんな風にミシンを扱い続けてきたので、これさえあれば何でもできます」

ーこれから相棒とどのように付き合っていきますか?
藤田
「30年ほど使い続けてきた間にこのミシン1台で何億円も稼いできました。工業用ミシンも進化を続けていますし、メーカーや修理できる業者も少なくなって部品の交換も難しくなっています。北九州の街でもテントを作る業者が次第に少なくなっていますが、その分丁寧な仕事を心がけて続けていきたいです」


《今回紹介した藤田さんが働く会社はコチラ》
【会社名】株式会社フジタ工芸
【本社】福岡県北九州市鋳物師町9‐6
【創業】1976年
【従業員数】6名
【事業内容】店舗装飾用テント、テント倉庫、看板、横断幕・懸垂幕などの製作、施工
【HP】https://www.fujita-kougei.com/index.html


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