「常に挑戦したい」組子職人の繊細な作業を支える「相棒」の存在とは
働く人にとって、日々扱う道具は「相棒」と言っても過言ではありません。
相棒とどのように出会い、どんな思い出を刻んできたのか。
長らく使ってきた道具に焦点を当てると、その人の個性やこだわりが滲み出てきます。
今回の「相棒」は、(有)村本建具製作所の村本裕作さんが扱う半自動NCラジアルソーに着目しました。
釘を使わずに幾何学模様に組む細工が特徴的な組子ですが、緻密で繊細な加工をするためにはある「相棒」の存在が欠かせないものとなっています。
より高度な細工を施すために取り入れた組子細工専用の機械
ー「相棒」と出会ったきっかけは。
村本
「2012年頃になるかと思います。それまでは手動の機械で作業をしていましたが、どうしても精度の高い細かな加工ができなくて買い替えたのがきっかけでした。組子細工専用に使われる機械で、他のメーカーのものと比較しましたが、同業者からの評判を耳にして導入を決めました」
ーどんな時に相棒は活躍していますか?
村本
「組子製作で材料を切る際に使っています。材料として組み込む木材を『葉っぱ』と呼んでいますが、厚みが1mm程度なので加工の際には繊細さが必要です。NC装置で材料の長さや溝の幅などを設定し、半自動で切れる使い勝手の良さもあって使い続けています」
完成間近に訪れたトラブルで実感した「相棒」の大切さ
ーそんな相棒にはどんな「個性」がありますか?
村本
「0.01mm単位の精度で加工できることが特徴です。皮を1枚だけ残して切るような加工は、手作業では難しくどうしても機械でないとできません。1つずつは小さくても、次第にズレが大きくなると全体が組めなくなってしまいます。雨の日になると湿度によって葉っぱが膨れるので、気候に合わせてほんのわずかな違いを調整しながら使っています」
ー印象に残っている思い出を教えてください。
村本
「納期が迫った完成間近のある日、いつも通り使っていると機械が突然動かなくなった時がありました。内蔵のバッテリーが切れたことが原因でしたが、メーカーの人が修理に来るのが待てない状況だったためテレビ電話で繋いで自分で凌いだことがあります。電気系統の扱いに詳しくないのでヒヤヒヤでしたが、バッテリーを調達して何とか直せた時はホッとしました」
ー日頃から使う機械が急に動かなくなるとパニックになるのも頷けます。
村本
「もともと近くに高圧線が通っていることもあり、万が一雷が落ちてNC装置が故障することを防ぐために使った後はコンセントを抜いていました。ただ、それによってバッテリーが上がりやすくなったのかもしれません。その時以来、天候によって様子を見ながらコンセントを抜くタイミングを調整しています」
立ち止まらずに突き進む思いが組子製作の原動力に
ーもし相棒が現れなかったら、どんな社会人生活になっていましたか?
村本
「建築科のある高校に通っていたので、建具を作る仕事以外は考えられなかったですね。『小倉組子』を掲げて組子製作に本腰を入れたのも、常に何かに挑戦していたいとの思いからでした。その点、このラジアルソーには助けられましたし、これが無ければ普通の建具屋のままだったかもしれません」
ーこれから相棒とどのように付き合っていきますか?
村本
「本当はもう1台買って効率を上げたいのですが、建具用の機械を買ったばかりでなかなか難しいですね… 組子の仕事は好きでないとなかなかできない仕事ですし、作業を始めると『ここまでやらないと』となってつい没頭してしまいます。これまで組子の仕事を続けてきましたが、立ち止まるとそこで満足しそうなので、大会にも出ながら自分の腕を試していこうと思います」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?