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父から手渡された職人道具で磨いた腕。モノづくりの黒子役が抱く次代への道標

【北九州マイスター特集①】
(有)西澤保温板金:西澤末信さん

近代の産業発展とともに、モノづくりの街として色彩を帯びてきた北九州。
この街では今なお、数々の人々が多種多彩で奥深いこの街のモノづくりの担い手として日夜励んでいる。

そんなこの街には、「北九州マイスター」の称号を持つ人たちが居る。
卓越した技術と裏打ちされた経験を持つ技術者たちは、北九州のモノづくりのさらなる「進化」と「深化」に向けて欠かせない存在だ。

今回、X-BORDERチームが連載を続ける『相棒録』で4人の北九州マイスターにフォーカスした。
マイスターたちが日々扱う道具である「相棒」を切り口に仕事に対する想いやこだわりを述べる姿は、あらゆる仕事におけるプロ意識にも通じる。

第1回目は、(有)西澤保温板金の西澤末信さん。
工場や発電所の配管や機器などを覆う保温板金加工で熟練した腕を振るう裏には、この道に進んだ頃に手渡されたある道具が大いに関わっている。

《プロフィール》西澤末信(にしざわ・すえのぶ)
 福岡県立戸畑高等学校卒業後、(有)西澤保温板金に入社。工場や発電所、焼却場などの保温板金加工で現場作業や施工管理の経験を重ねた後、代表取締役として自らも現場に立ってまとめてきた。「北九州マイスター」には第13回(2022年度)に認定。プライベートではソフトボールの社会人選手である娘の試合観戦で全国を回ることが楽しみ。東京都出身、1964年生まれ。



【出会い】父から手渡されて知った職人道具

長年使いこなす板金鋏で板金材を切る西澤さんの「手」

ーまずは北九州の街とのつながりを教えてください。
西澤
「生まれは東京ですが、2歳の頃に父の地元である北九州に移り住んできてからはずっとこの街で暮らしています。物心つく前から居るので実際は生まれも育ちも北九州ですよね(笑) 地元の高校を卒業した後、父が営んでいたこの会社に入って約40年働いてきました」

ーそんな西澤さんが「相棒」の板金鋏と出会ったきっかけは。
西澤
「入社間もない頃、父に『これを持っておけ』と手渡されたことがきっかけでした。当時は板金を切る鋏にどんな違いがあるのかもわかりませんでしたが、最初に使い始めた縁もあって現在も千葉県館山市にある明治15年創業の『君萬歳久光』が作る板金鋏を使い続けています」

ー板金鋏の使い方はどのようにして覚えていきましたか?
西澤
「板金鋏は普通のハサミと違い、板の厚みに合わせるために刃にすき間があって切るにはコツが必要なんですよ。正直、最初は切れ目を入れることもできませんでした。幸い、会社には現場から持ち帰った端材があって練習する環境が整っていたので、練習を重ねて感覚を掴みながら覚えました」


【経験】仕事道具ならではの譲れないこだわり

西澤さんの「相棒」である君萬歳久光の板金鋏

ー相棒である板金鋏は普段どんな場面で使っていますか?
西澤
「工場や発電所、マンションなどの配管を覆う保温工事で板金材を切る時に使っています。よく使う長さが240㎜の鋏は、主に厚さが0.2~0.5mmの板を切る時に使っています。他にも40本程を現場に持ち込んで使い分けていますが、厚みが0.6~1㎜の板を切るために使う鋏はずっと持ったまま作業をすると重みで腕が疲れるので柄の片側を床に置きながら切っています」

ーそんな相棒にはどんな「個性」がありますか?
西澤
「君萬歳久光の板金鋏は職人の手づくりで1個ずつ違いがあり、買い足す時は10本ぐらいある中から絞り込んでさらに業者に調整してもらっています。普段使う時には刃先の重なり具合を見ていますね。重なり過ぎると切り跡が歪むので、柄の内側を叩いてちょうどいい重なり方になるように調整しています」

ー印象に残っている思い出を教えてください。
西澤
「父から『手入れはお金をかけてでもちゃんとした所に持っていけ』と言われて以来、刃を手入れする際は小倉の刃物屋に持って行っています。砥石を使って自分で調整する人もいますが、刃物の専門家と比べると素人なので切れ味が悪くなることもあります。そんな父の教えもあり、私も従業員には『手入れをする際のお金は会社で出すから遠慮なく言いなさい』と伝えています」


【想い】仕事を支える誇りとさらなる技術向上を胸に

「自分の会社だけなく、地域に向けても技術を伝えていきたい」と語る西澤さん

ーもし相棒が現れなかったら、どんな社会人生活になっていましたか?
西澤
「この仕事に就いていなかったら、板金鋏の存在すらも知らないままだったと思います。保温工事は世の中になかなか認知されにくい仕事です。コツコツと続けてきたことで表彰してもらう機会も頂き、近所の人からも『この前動画見たよ』『市政だよりで見たよ』と声をかけてもらえたことはこの仕事を続けた誇りとなりました」

ーこれから相棒とどのように付き合っていきますか?
西澤
「やはり、最初から使い続けてきた君萬歳久光の板金鋏をこの仕事を辞めるまで使い続けたいです。他のメーカーのものもありますが、手に馴染んでいるこの鋏を買い替える時にもずっと選んできました。綺麗に板金材を切れなくなるその日まで、この鋏を握って仕事を卒業したいですね」

ー最後に今後の目標を教えてください。
西澤
「鋏を使って作業するこの仕事だからこそ、材料ロスを少なくすることにこだわりたいと考えています。単にコストダウンやゴミを減らしたいわけでなく、浮いた分を従業員の福利厚生や退職金の積み立てなどに還元できるからです。材料についてシビアに考えることは将来につながるからこそ、自分だけでなく会社全体で板金鋏を使いこなす技術を高めたいです」


《今回紹介した西澤さんの会社はこちら》
【会社名】有限会社西澤保温板金
【事務所】福岡県北九州市若松区畑谷町13‐2
【工場】福岡県北九州市八幡西区夕原町3-21-8
【事業内容】工場、発電所などの配管、機器類に関する保温板金加工・取り付け


▼次回の公開内容はこちら。(公開後に閲覧できます)

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