「まだまだ1人前じゃない」木型職人を支える唯一無二の丸かんなに込められた想い
働く人にとって、日々扱う道具は「相棒」と言っても過言ではありません。
相棒とどのように出会い、どんな思い出を刻んできたのか。
長らく使ってきた道具に焦点を当てると、その人の個性やこだわりが滲み出てきます。
今回の「相棒」は、(有)井上木型製作所の神崎富喜さんが愛用する丸かんな。
木型作りならではの道具には、神崎さんの職人としてのこだわりや想いが染み込まれています。
木型作りに欠かせない世界に1つだけの丸かんな
ー「相棒」と出会ったきっかけは。
神崎
「入社してすぐは先輩のものを譲り受けて使っていたんですが、しばらくして『自分のセットを作ろう』と思って手作りで作りました。R(丸み)の形状に合わせ、かんなの大きさや反りなど形状を変えているので本当に世界に1個しかないんです」
ーどんな時に相棒は活躍していますか?
神崎
「機械加工だとズレが生じるので、コンマ数ミリの精度で調整して仕上げていく時に使っています。加工の形状に合わせて3~4種類を使い分けていますね。大工さんもかんなは使いますが、丸かんなを使うのは丸い形状のものを作り出す木型職人ならではだと思います」
木と刃の相性で決まる使い勝手
ーそんな相棒にはどんな「個性」がありますか?
神崎
「作るものに合うように、反りの部分を意識して作りました。昔作ったものと最近のものを比べると、やはり昔のものは下手に見えるんですよね。ただ、刃も切れ味がそれぞれ違うので、自分の相性にあうものを見つけることが大事なんです。だから、今でも昔からのものを使い続けています」
ー印象に残っている思い出を教えてください。
神崎
「ケガすることも度々ありましたね。特に砥石で研ぐ時に指先を切ってしまうことは数えきれない位にあります。作業している時も手元を動かしていると、加工しているモノに腕が当たって傷が出たり、血が出たりするようなことも沢山ありました」
ーケガとの戦いでもあるんですね。
神崎
「ただ、かんなで削ると表面がツルツルで見た目のツヤが断然違うんです。平面の図面から丸みのある立体の製品を作る過程は、それぞれの個性が出るんですよ。同じものを作っていてもやり方が違う分、『こんなやり方があるんだ』と新しい方法を見つけていいモノを作るのが今でも楽しいですね」
「まだまだ1人前じゃない」と高みを目指す職人魂
ーもし相棒が現れなかったら、どんな社会人生活になっていましたか?
神崎
「もともと大工になりたいと思っていた時にこの会社を知って木型の制作を始めたので、コレがないと仕事になりません。最終的に自分の腕が1番大事ですが、その腕を使いこなすためにもまずは道具を大切に扱わないといけないですよね」
ーこれから相棒とどのように付き合っていきますか?
神崎
「モノによっては欠けがあるものもありますが、そんな部分も大事しながら使い続けたいです。30年ほど木型を作ってきましたが、『まだまだ1人前じゃない』と感じる時もありますし、さらに精度を高めていきたいんです。そのためにも感覚を研ぎ澄ませて体に染み込ませ、技を極めていきたいです」
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