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とおまど、M-1に出る。 シーズン2編

総目次

前話(シーズン1編) あらすじ
M-1予選1回戦の会場を勘違いして大阪に行ってしまった浅倉。福丸の機転による『リモート漫才』で出番をやり過ごすが結果はあえなく落選。超高倍率の終盤日程で再エントリーしたものの、樋口は浅倉の予測不可能で無軌道なアドリブに翻弄されてしまう──



──────⑦ ノウハウ継承


「283バラエティ三銃士を連れてきたぞ!」

「バラエティ三銃士……?」

 は? ふざけているんですか?
 ……あなたは、割と偉そうな肩書きだったと思いますが、死ぬほど暇なんですね。

「Pたんってば、困るとすーぐ三峰呼ぶんだから~
 ……はいはい、かしこまりましたよー」

 『アンティーカ』から、三峰結華さん。
 あの収拾不可能にも思える個性的なユニットメンバーの中で、道化的な立ち回りによって一手にフィニッシャーを引き受けるポジションにある結華さん。細かいトピックも見逃さないパーフェクトリィな即応力と、それを下支える膨大な知識量において、随一のバラエティ適正を誇るアイドルだ。オールラウンダーな技巧派が現場でこなす仕事量は並大抵のものではない。

「お菓子も持ってきたよー!」

 『放課後クライマックスガールズ』から、園田智代子。
 言わずと知れたチョコアイドルとしてのキャラクターメイキングを、ほとんど完璧に近い形で実践する智代子。『森永DARSコラボ』の際も間近でその職人芸に触れたが、驚くべきことにそのセルフブランディングはプロ入り以後のものらしい。おそろしい、でもそれ以上に哀しいコ……日常がチョコだったはず……今こうして笑顔でいられるのが奇跡的なほどの……

「えっ……
 ……なんていうか、ちょっとびっくりしてます
 えー……私だけなんですかね、焦ってるの────」

 『シーズ』から、七草にちか。
 朝の報道バラエティにおけるレギュラー芸人の強い押しに対し、生意気で甘え上手な妹キャラとして渡り合う胆力を持つにちか。ケレン味のある今どきのワードチョイスや素直でないモノの捉え方、そしてスレた業界人視点と素人っぽさのシナジーは、ある種の可愛げとして大衆に受容されている。オーバーキル気味な当たりの熾烈さと語量も目を見張るものがある。

「皆さん、こういった不当な扱いについては
 はっきり遺憾を表明しておいた方がいいですよ」

「大丈夫です! パンチしときますんで!」

「……どうぞご自由に」

「ははっ……!」

「視界に入らないで貰えますか?」

 それにしてもグルメ漫画の読みすぎでは? ミスター・味っ子。

 このように、今後の在り方について議論しようという触れ込みで伺った事務所で待ち構えていたのは、昨今のバラエティ番組での活躍目覚ましい283プロ所属アイドルの面々であった。専業芸人の視点とはいえないまでも、一聴に値する意見が期待できる仕事人たちである。

 ────私たち『とおまど』は、どうにか1回戦を通過することができた。ただしYouTubeにネタが公開される上位3枠からは漏れる、なんとも地味な結果だ。

 去る10月06日、出場予定者193組から19組が欠席したことで、実質的な母数は174組となった。そのうちプロが41組、アマチュアが133組だったのだが、プロの通過は『とおまど』を含め9組(21.9%)、アマの通過は4組(3.0%)に留まり、その日2回戦に進出できたユニットは計13組(7.4%)のみという悍ましいデータが算出され一同を呆然とさせた。上位3枠のランクイン率は1.7%ということになるから、私たちが漏れたのも当然の結果といえる。
 また、プレスの公表に先んじて自らデータを集計したプロデューサーによると、M-1グランプリ2023全体のエントリー総数はなんと前年より1280組も多い8541組に達したそうだ。激戦を経、欠席960組を除いた7581組のうち1365組が2回戦へ通過。現時点で全体の82%が弾かれたわけだが、まだまだ競合は減らない。

 今回集まってもらった3人には、2度やった1回戦のフッテージをそれぞれネタ参考資料映像として共有してある。雛菜のスマホで撮影されていたエントリー用紙記入時の動画は、スポンサーをイジってたり飲酒ネタが含まれるから普通にこちらでボツ。初回エントリー時の1回戦ネタも途中でチェインを送ったせいで録画が途切れてしまい使い物にならなかったのだが、念のためにタブレットでのビデオ通話を画面収録していたことが功を奏した。それには私の姿こそ映されていないものの、一応は内容とウケ具合を把握することができる映像となっていた。

「これは面白かったよ、なあ────」

「全然」

「あれ」

「うらやましい限りです
 こんなくだらないもので笑えるなんて」

「そ、そんな冷静に……」

「あなたほど単純にはできていないので」

 重ねて思うが、私の感触ではやはり通過自体が危うかったように思える。うっかり透の手綱を離した結果、激しいロデオに翻弄される羽目になったためだ。透の跋扈を鎮めるには2分間という持ち時間はあまりにも短すぎた。収拾をつけるその一念に専心するばかりで、それが話芸として成立していたとは到底思えない。
 早々にドロップアウトしたい気持ちは当然ある。しかしあのみっともない有様への屈辱を覚えそれを払拭したいと思ってこそ、この助っ人たちのアドバイスを謹んで拝受しようという気にもなったのである。

「よっし! 一緒に頑張ろ!」

「ファイト!」

「……私に何かできるとは思いませんけどー……」

「よろしくお願いします」

 素直に頭を下げる。


「……でも、私はまどちゃんに修正すべき点はないと思うけどね〜!
 どっちの1回戦もめちゃめちゃ面白かったし!」

「そうでしょうか」

「うんうん!
 うちの樹里ちゃんを彷彿とさせるコミットだったよ……!」

 そういえば智代子はツッコミでもありボケでもあり、そして天然でもあり計算でもある複雑なハイブリッド型プレイヤーだ。結華さんもしばしば流動的に役割をスイッチしている。両面に構えることができる特異なポジションから、大局というものはどのように見えているのだろう。

「透ちゃんにそんなつもりはないだろうけど……
 拾ってほしいボケを逃さず拾ってくれるのって、
 すっごく頼もしいんだよね……!」

「わかるー!
 フリオチの時間差が開くと不安になっちゃうよね!
 『はっ……! スルーされてる?
 三峰がセルフツッコミ致せばいいの!?
 それとも伏線回収のために泳がされてる……!?』とかね!」

「あははっ それアイドルの職業意識じゃなくないですかー?」

「ヒュウ! にっちゃんのツッコミも沁みるぜ……!」

「問題はやっぱり、ひたすら拾う円香ちゃんの忙しさかなぁ……
 頭働かせっぱなしになるわけだしね
 あ、チョコ食べる? 糖分補給!」

「ん」

 さすがと言うべきか、ユニットを跨いだ薄い関係性であってもバラエティクイーンたちの会話にはなめらかなフローと文脈の導線がある。中身がなくなりがちな私たちの会話に慣れていると、この耳心地には新鮮ささえ感じる。
 自分のワードに対してオートマティックに反応する智代子の反射神経も並大抵ではない。しかもチョコを勧めたと同時に自分の口にも放り込んでいる。これもプロ意識──なのだろうか?

「……まぁ実際、相方主導のフリートークへ突っ込んでいく方法論に
 まどちゃんは限界を感じたわけなんだもんね?」

「はい、制御できかねました」

 そして本題である。現状認識も正確だ。本当に、そつがない。

「あの、こいつが何言ってるんだって意見なんですけど……
 基本振り回され続ける形で漫才が進んでたわけじゃないですか?
 あれって結構、アラートに助けられてるとこあったと思うんですよね
 ──って、あ! 失礼言っちゃってたらすみません!」

「……
 そうかもね」

 一理ある。『細かすぎて伝わらないモノマネ選手権』なども演者が奈落に落ちることでオチるという側面が大いにあるし、『あらびき団』の悪意さえある切り上げも、粗すぎて見ていられない芸未満の芸を上手くパッケージ化する。それはいわば、放埒なユニットに番組という外枠が突っ込むメタフィニッシュだ。


 恐縮しているようでその実わりと遠慮なくずけずけ言ってくるにちかにはピリッとしなくもないが、的を射ている。自身にもその経験値の中で幾許かの心当たりがあっての意見なのだろう。

「次からは持ち時間が3分になってくるけど
 そうなると確かにしんどくなっちゃうかもだね……」

「ですですー」

「進行の主導権を常にまどちゃんが握っておくのは前提として──
 でもそれだと、
 とおるんのブッチギリな独走が見れなくなっちゃうもんなー」

「そうならないようにどうにかしたいのですが」

「あはは、やっぱそう? だよねー」

 結華さんの、何か既に答えがあるようで、腹の内にそれを隠しつつはぐらかしているような態度が気になる。現状の延長をこそ肯定している意見自体にはどうやら嘘がなさそうだが。

「展開の中でタイムキープできるような
 枠組みが要るんじゃないですかねー」

「枠組みねぇ……」

「うーん……」

「──『システム漫才』……?」

 少しだけ遠い目をしながら、結華さんが何やら含みのある提案をする。

「…………」

 『システム漫才』とは、パターン化された展開を反復的に運用する漫才の類型である。『パッケージ(型)』が繰り返し提示されることでリズムが生まれ、観客も笑いどころを掴みやすい。

「なるほど……! でも──
 ──透ちゃん、窮屈になっちゃわないかな」

「うん、そうなると思う
 それに秩序はできるけど、
 逆に3分が短くなってこないかな〜なんて
 ま、ひとクダリのボリューム次第だけどさっ!」

「形式のオリジナリティでキャラ売るタイプでもないですもんねー
 やっぱガチンコのしゃべくり、全然期待しちゃいますし」

「そうそう、
 私たちが見たいのは事件的なドライヴ感なんだよねぇ
 適正アビリティはそっちの方に……
 ──って! まどちゃんの負担をどうにかする話だった!
 ごめんごめん!」

「……いえ、構いません」

 やはり、結華さんの言動には何かが見え隠れしている。だが、この人はそういった他者からの見え加減さえコントロールしているかのような油断のならなさがある。


「──それでもやっぱり、1回でもやってみる価値、ないかな?
 だんだん審査が厳しくなる中でシステムが合うか試せるの、
 次ぐらいしかないと思うんだ……!」

「……台本化されたネタ、浅倉はやりたがらない
 それに、きっと覚えられない」

「迷っても、悩んでも
 『型』を模索すること自体は大事だと思う……
 チョコだけに……!
 足掻く中で、勝ち筋の光明が見つかるんじゃないかな!」

 これが壮絶な場数を踏んできたチョコアイドル。勝ち筋だの光明だの、まるで合戦を控えた武将のような発言の凄みにたじろぐ。懐に抱えるチョコレートの箱も脇差しに見えてくる。

「う〜〜〜ん
 仮にやってみるとしてですよ?
 樋口さんの仕事量と、浅倉さんの暗記量
 どっちも減らさなきゃなわけですよねー?
 浅倉さんの暗記量を減らすためにセリフを固定するとしたら……
 それをカバーする樋口さんの仕事量、結果増えちゃわないです?」

「まあ想定外がなくなる分には、むしろ楽かもね
 セリフを遊ばせとく方が危険」

 にちかの尤もな指摘は、しかし文量比に着目した意見だ。コンビバランスの偏りに対する懸念でもありうるだろうが、ここではそれを一旦考慮しないでおく。
 初見の発話への当意即妙に掛かるプレッシャーと比べれば、多少のセリフ増ぐらい微々たるものである。漫才自体に腰が乗らないのは前提として、私に限っていえば台本に従うことについては吝かではない。もっといえば、どうでもいい。

「とおるんのアドリブはナシの線か〜」

「透ちゃんの喋り、なんか雰囲気すごいもんね……!」

「っていうかそもそも……
 台本に空欄あるってやばくないですー……?」

「あはは! ほんとそう!
 でもね、なんかね そういう『表現力のひろがり』に……
 ──期待しちゃうんだよね」

 ひときわ強い視線がぎらりと私を貫いた。錯覚であってほしいが、いやに反射する眼鏡越しに感じた結華さんの眼光は、私たちをハメ込んだディレクターのそれに似ていた。

「……浅倉に期待したって、何も出てこないですよ」

「──ううん、違う
 私が期待するのは……
 ……いんや、やっぱいいや!
 じゃあシステムで考えてみよっか!」

 何かを言いかけ、すぐにそれを打ち消す。

「ていあ〜ん!
 とりあえず私たちで持ち帰って
 フレーム開発を宿題にするってのはどうかな?」

「もちろん! おっけーです!」

「あ、はい 手伝いますよー」

「……ありがとうございます」

 議論はそういう形でまとまり、具体的なネタ作りは一旦持ち越しとなった。

 あとは平場での立ち回りやMCへの対処など、バラエティ強者の実体験トークが花咲いた。
 空気が重い時には簡単な定食を用意しておいたり、アウェーにおいては好きなもの、あるいは苦手なものに絡めてのリアクションを持つことの重要性を説かれた。冗長は悪だが、過剰は正義だとも口を揃えていう。……皆さんの本業、アイドルなんですよね?

「…………円香」

「今、会議に集中しているんです
 見てわかりませんか」

「いや……
 円香の肩、テントウムシがとまっているんだけど」

「…………」

「…………」

「…………
 ……早く、どうにかして
 ──〜〜!! な、何か、首に触った……!
 ──────……!!
 きゃ…………!」

「…………」

「……………………
 ……なんでもありません」

「様式美……
 ……円香ちゃん、バラエティ適性ありすぎなのでは……?」


──────⑧ NEXT STEP


(胸を打つものは)


《技術
 いかに笑いを誘うネタであっても、笑いながらステージに立つわけではない
 台本に合わせた緩急、強弱──
 漫才する者の内面ではなく技術こそが観客に楽しさや可笑しさをもたらすのだと
 そう言っていましたよ
 どこかの有名な漫才師が
 私も同感です》

《なるほど、つまり──
 今日のステージで俺がクスッとしたのは不可抗力であると》

《クスッと?》

《……まあ、島田紳助が100点をつける程度にはクスッと》

《はい》

《…………》

《……何》

《うーん……
 てっきり『ミスター・笑い飯』とか言われるだろうと思っていたから意外で……》

《残念でしたね》

《残念だ
 いや、残念じゃないが……!》

《…………》

《ともかく────
 素晴らしいステージだったな
 本当に面白い漫才だった》

《…………》



* * *

「正直なところ、結華はどう思っているんだ?」

「ん〜〜? 何のことかな?」

「さすがになんでもないは通用しないぞ」

 お開きになった議論の後、智代子とにちかはそれぞれ次の仕事へと向かった。私も次の予定のために移動していたのだが、誤ってタブレットを返却しそびれていることに気が付いたたため事務所へと急ぎ引き返した。そこでは、結華さんとプロデューサーが思わせぶりな会話を繰り広げていた。

「…………
 ……三峰のことわかりすぎるくらいわかってくれてるPたん、怖~い」

「怖いとか言うな、怖いとか」
 ……よかったら、聞かせてもらえないか」

「……
 ──Pたんって、お笑いの話とか結構いけるクチ?」

 盗み聞きをするつもりはなかったが、ふと私のことについて言及していることがわかり、ドアノブに手を翳しかけて引っ込め廊下に立ち止まる。先程の結華さんの遠慮がちで示唆的な物言いが私を目の前にしてのせいであったとするなら、ここにおいて本音を聞くことが叶うかもしれない。私は息を殺した。

「理論の話か?
 最近は、それなりに勉強しているつもりだが……」

「ふっふーん、言ったなー?
 ──ではここで三峰クイズです!
 『人はなぜ笑うのか』
 西洋哲学におけるその三大理論とはなんでしょーうか!」

「……えっと……
 『優越理論』、『不一致理論』、『エネルギー理論』
 ……だったか?」

「ピンポンピンポーン! さっすがプロデューサー!
 しっかり調べてあるねぇ、三峰先生マルあげちゃう!」
 『優越理論』派で代表的なのはホッブズ
 『不一致理論』だとショーペンハウアー
 『エネルギー理論』だとスペンサー
 ってとこまで答えてくれたら花マルだったかなー!」

「……勉強好きなんだな」

「嫌いじゃないよー 面白いのも多いしね
 それに、漫才って学問領域としてはアイドルと近くて
 表象文化論とかメディア社会学、美学なんかが絡んでくるし
 卒論もカルスタ的に芸能論いこうかなって思ってたり?
 なーんて」

「そんなに詳しいのに、さっきはどうして伏せていたんだ?」

「やだなぁ、こういうのみんなに見せるの恥ずかしいじゃん?
 そういうとこ察してくれないとダメだぞーPたん」

「う…… 確かにそうだが……」

 人の繊細なところを遠慮なくぶち抜いてくるムーヴを他のアイドルにまでカマしている様子には呆れるほかない。
 やんわり嗜めた結華さんは続ける。

「……っていうのもあるし
 答えも持ってはいるんだけどねぇ」

「やっぱり何かに、気付いていたんだな」

「テレビっ子ナメちゃダメですよ、Pたん
 ……で、だ」

 少し深く息をついた結華さんは、ほんの少しの沈黙の後、思い切ったように切り出した。

「……
 Pたん的に、『とおまど』漫才の笑いの本質ってなんだと思う?」


「…………うーん
 さっきの三大理論でいうなら、
 やっぱり『不一致理論』かな……?」

「おっ、そのこころは?」

「天真爛漫で奔放な透と常識との間にあるズレ
 つまり『不一致』を、
 円香が妥当なツッコミで是正しようとすること
 これが主な笑いなんじゃないか?」

「……ほうほう! 他には?」

「他には、か……!
 例えばこの間の1回戦ネタの終盤だとどうかな
 何か意味ありげなことを言い出しそうな雰囲気は纏って
 結局何も言わないという……
 『期待の無化』──これも、不一致理論か」

 ふうん、自分を棚に上げて、あなたはそんなふうに見ていたんですね。
 努力、根性、希望、理想を情熱的に語っておきながらその実、中身がぽっかりと空洞なのはむしろあなたの方では? ミスター・ドーナツ、もとい、ミスター・オールドファッション。

「うんうん、『緊張の緩和』!
 桂枝雀、あるいはカントの『判断力批判』だねぇ
 思わせぶりとしょーもなさの落差に『下降性』があるから
 これは『エネルギー理論』だとも言えちゃうね!
 ──そう、確かにそう
 ネタ内部のレベルで、下降性不一致の笑いは確かに起きてる」

「ああ」

「でも不一致理論が焦点化する対象って、基本的にボケなんだよねぇ
 …………
 ……Pたんは、あれが『とおるんの漫才』だと思う?
 まどちゃんのツッコミって、
 とおるんのボケの補足に徹する従属的なものなのかな?」

 少し聞き捨てならない提起にピクリと反応する。

「……!
 …………
 ……いや、違う
 あの漫才は、『円香の漫才』でもあるんだ
 紛れもなく」

 は? あなたに、何がわかるっていうんですか?
 事実この人たちは、ボツ動画として雛菜のスマホに眠っている4分のフッテージを知らない。私たち幼なじみだけの空間で生まれた掛け合いのグルーヴを知らない。
 ──可能性に満ち溢れた透の煌めきを、知らない。
 私は、『透の漫才』を……

「でしょ?
 ──ここからは、私の考え
 私があの場で言いかけてやめた意見」

「…………」

 私は、透の……

「気ままに振る舞うとおるんに、なす術もなく振り回されるまどちゃん──
 一時のらしくないノリで、漫才をやるハメになったまどちゃん──
 透明感が売りのアイドルなのに、俗な芸人の力学に引き摺り下ろされたまどちゃん──」

「……!」

「──かわいそうだよねぇ……
 って、あはは!
 やらせた立場としては思うところあるかもだけど!」

「う……」

「でも、どう?
 この劇的な『価値下落』
 観客はまどちゃんに何を感じるかなー?」

(ああ)

「……
 …………そうか
 ──『優越』の快か……!」

(私は)

「そう
 それも個人間の対立を超えた社会的な、スターンの『優越理論』……!
 『とおまど』が漫才をやるに至った枠組み──そのメタレベル
 芸能界の構造の中で翻弄される『まどちゃん自身』を……
 ……観客は『笑う』んだよ」

「……なるほどな……」

「『人生はクローズアップで見ると悲劇だが、
 ロングショットで見ると喜劇である』ってね……!」



《あの…… この間はすみませんでした
 聞いてください!
 ──私、すぐに降りちゃうので
 樋口さんのことが好きでした
 凛々しくて、迷いがなくて……
 たくさんのことを知っていて……
 だから、本当は少し嫌い、なんて……えへへ》


 私は気づいていた。
 テレビバラエティの要請に踊らされ視聴者に消費されること、それを仕事としてなんとなく割り切っている私自身の、想像を絶するほどの『軽さ』に。

(軽やかに)

「……こんなこと直接まどちゃんに言える?
 言えっこないよねー」

 私たちが私たちのあるがままでいられている幸運にかまけて、欺瞞に塗れた芸能の世界にその身を委ねることを許す、そこはかとない『薄っぺらさ』に。

(軽やか──
 というより)

「そうだな……
 確かに言われたところでどうしようもないし……
 その自覚が枷となることもあり得る」

(軽薄)

「インフラやレトリックを検討するとか
 表層的な部分だったら全然手伝えるんだけどね〜〜
 本質の部分は、自分で気づいてどうにかするしかないじゃん?」

 ──私は軽薄だ。私の言葉は重さを持たない。水気を失い枯れきった花のように。
 だからこそ『透の漫才』でなければならないのだ。『私の漫才』であってはならない。でも──

(あなたは
 欠けた部分に完璧を見るの?
 あなたは、おそらく
 あなたは欠けたものを
 そのままに愛する人では
 過去ではなく
 今を見る人では
 枯れた花を
 枯れたまま美しいと思う人では
 私とは違って)
 
(──知らんけど)

「…………」

「相方のとおるん……幼なじみでしかもお隣さんなんだっけ」

 結華さんの声のトーンが一段落ちたのを感じ、顔をはっと上げる。

「とおるんと新たに向き合うことも──
 社会構造のことも──
 まどちゃん自身のことも──
 それらをこじ開けて客体化するには、
 絶対に、必ず、自分の言葉じゃなきゃいけない」

「…………」

「──胸に燻る焔を『ネタ』に、孤独な泪を『笑イ』に変える
 他人の言葉じゃダメ……自分自身の問題だもんね……!
 わかる?」

「…………!」

 そしてその反響具合から、結華さんの声の方向が俄にこちらへと転じた明らかな気配を感じ取った。
 私は思わず息を呑み、拳を握りしめる。


《樋口円香には激情がある》


 ドアを挟んで、確実に、確実に私の存在に向けて、厳かに語りかける声が続いた。

「──────これは、まどちゃんの『闘争』なんだよ」


──────⑨ とおまど、2回戦に出る。


 10月27日、浅草は雷5656会館ときわホール、グループL。
 M-1グランプリ予選2回戦に駒を進めた私たちは、1回戦で立った会場キャパの倍以上の観客を眼前にし、漫才を披露する。

* * *

○ON STAGE 00:00:00
────(Rock Jingle!!)────
●ON STAGE 00:00:01

両者「「どうも〜〜」」
浅倉「浅倉透と」
樋口「樋口円香で」
両者「「とおまどです、よろしくお願いします」」


 およそ3週間前、1回戦で散々味わった透の手のつけられなさにほとほと懲りた私は、時間と展開を管理するための手段を乞う議論へ臨んだ。それにおいて三峰結華さん、園田智代子、七草にちかといったバラエティ強者たちが『システム漫才』のパッケージを考えてきてくれることになり、上がってきた案をもとに第2回ネタ制作会議が開かれるに至った。
 今度は小糸ディレクターを監修として同席させたところ、慣れないメンツに対して可哀想なくらいビクビクと恐縮しきりだったのだが、実際の制作に移る段になると首尾よく理論を吸収し、その柔軟なセンスを覗かせた。

樋口「えー、はい
   私たちは幼なじみでずっと漫才やってきたんですけども」
浅倉「ふふ、小さい頃からね 四六時中
   なかったよね、やってなかった時なんて」
樋口「うん」
浅倉「ずっとね」
樋口「うん」
浅倉「これからもね」
樋口「うん?」
浅倉「一緒だよ」
樋口「うん
   まあ小さい頃から一緒だったんで、
   結構しょうもない遊びとかしましたね」
浅倉「あー」
樋口「例えばそう、10回クイズとか」
浅倉「したね」


《10回クイズ
 ……
 なんか、どこかで見たネタ……》

《……っ
 よくある平凡なネタで申し訳ないですー
 ──なんかベタだなー
 個性ないし、500万回見たことあるしって思ってるんでしょうけど!
 テクニックないですって感じだもんなー
 めちゃめちゃさえないしとか思ってるんでしょうけど!》

《ぴぃ…………》

《いやそこまでは思ってないから》

《ううん、むしろオッケーだよ!
 入門にはちょうどいいパッケージだろうし
 予選の早いうちは、ポップな方が入りやすいんじゃないかな!?》

《コンスタントにネタ作ってるプロなら必ず通る道だしねー
 見る人にも馴染みがあるから、最短でギア入るってのも強み!
 いいぞいいぞー、やっちゃえ、にっちゃん!》

《もうーなんですかー? その滑舌悪い日産自動車のCMは―》

《あっはは、舌足らずなYAZAWAだ!
 滑舌──
 そうだ、とおるんって10回クイズ苦手だったりするかな?》

《……ああいうの、得意とかあるんですか?
 まあ人並みにはいかないでしょうね、マイペースですから》

《ふむ……》

《そっか……! まず口が回らないとダメだもんね……
 普通の10回クイズネタだと他のコンビと差別化もしなきゃだし……》

《シンクロニシティみたいな落研的な大喜利力に敵いませんもんねー
 ……そこで考えてきたのはですね!
 10回クイズのパッケージ自体を変形してみるのってどうでしょう!?》


樋口「10回クイズっていうのは
   とーるとーるとーるとーるとーる
   とーるとーるとーるとーるとーる」
浅倉「ふふ、怖っ」
樋口「みたいに10回言う」
浅倉「うん」
樋口「っていう遊び」
浅倉「うん?」
樋口「やっていきましょう」
浅倉「え?」
樋口「円香って10回言って」
浅倉「まどかまどか……まどか……ま、え?
   まどか、まどか、まどか、まどか────」
樋口「あー、遅い」

●ON STAGE 00:01:00

浅倉「まどかまどかまどかまっ かっ まかどまっかま?
   まど、まどか、まどかまどかまどか」
樋口「ちゃんと言って」
浅倉「まどか、まどか、」
樋口「遅い」
浅倉「まどかまどかまどかどまっまかっ
   え、これむずくない?」

 そう、今回私たちが結論として行き着いたのは、理想型に至るまで修正を繰り返す、いわばモグライダーのスタイルだ。
 通常、一つのセクションを締めるはずである10回クイズの解答を省略し、ひたすらノックを打つ。終止を待たずに進行役側がリズムを作れるため、展開に抑揚を持たせることが可能となる。そして万人にとって伝わりやすい底抜けなポップさがある。
 ポップさ──裏を返せばそれは素人受けに堕する日和りでもある。しかし智代子は、審査傾向が目に見えてシビアになるという3回戦以前の時点で極端なネタは是非試しておくべきだと主張した。ベタ中のベタを演ることになったのはその意見あってのことだ。
 一つ意外だったのは、いかにもありきたりなネタを嫌いそうなにちかからこのモチーフの提起があったことだ。ただ彼女のバラエティオンエアをよくよく振り返れば、やや浮世離れした相方を引き立たせるためあえてベタを踏みに行く殊勝なスタンスも思い浮かぶ。
 にちかにとって『仕事』は『仕事』と割り切るべきものであり、エゴを棄てて当然という態度なのだろう、智代子や結華さんの役割論に通ずるプロ意識から編まれる『お約束』は、平凡だなどと一概に唾棄できないものがある。そのくせ既存形式に変形を加える、ちょっとしたオリジナリティを滲ませたい素直じゃなさが見え隠れして、そんなアンビバレンスが生意気で可愛い。

樋口「とーるとーるとーるとーるとーる
   とーるとーるとーるとーるとーる」
浅倉「怖いって 近いし」
樋口「ね、簡単でしょ セイ」
浅倉「えー
   まどかまどかまどかまど、
   かまどかまどかまどかまど、かまどかまど」
樋口「かまどになってる」
浅倉「無理ゲーじゃん?」

 変形された10回クイズという枠の中でフリースタイルの発話を促し、突き返し続けることで矢継ぎ早のラリーが成り立つこの形式は、天然ボケの予測不可能な即興性を制御する上で効果的だ。『言って』と振られた内容に答えていればいいだけだから、台本を暗記する負担も少ない。
 3分間の持ち時間のうち、中盤の1分間は台本が完全に空欄となっている。その空欄の中に任意のタイミングで展開上不可欠な要素を押さえる。これは透を程よく走らせることと時間管理とを両立する。伸びそうなら走らせ、ダメそうなら切り上げればいい。必要ならスピーディーな掛け合いに持っていくこともできる。
 これはメロウビート・スローダウンな透の喋りを逆手に取った戦術である。かつて幼い頃実際にしていたこともなくもない10回クイズでさえ、そういえばしっかりと10回言えていた記憶に乏しい。

樋口「セイ」
浅倉「かまどかまどかま」
樋口「最初からかまどになってる」
浅倉「まどかまどかまどかまどかまどかっかどっ ま」
樋口「とーるとーるとーるとーるとーる
   とーるとーるとーるとーるとーる」
浅倉「むずいんだって、まどかが
   逆にしようよ、逆がいい」
樋口「ダメ」
浅倉「え、なんで?」
樋口「意味ない」
浅倉「なんの?」


《ずっとね
 これからもね
 一緒だよ》


 ツカミのやけにハートフルな滑り出しは、小糸ディレクターの監修によるものだ。ツカミとセットになっているオチもそう。


 それはいいとして、相方の名前を連呼する私の猟奇的なキャラ付けは結華さんの発案によるもの。コンビ間のセリフバランス調整のためやむを得ないと満面の笑みで言っていたけど、もう、完全に悪ふざけだとしか思いようがない。
 ……先日あれだけメンター然とした見透かした言動を匂わせておいて、本っ当にタチが悪い。ボケとツッコミが逆編成なのも納得いかない。
 加えて結華さんは小糸にだけ何やら耳打ちをし、それを聞いた小糸は少しの驚きののち嬉しそうな表情を浮かべていた。それからその2人は互いに頷き合いながら草稿へ加筆していき、おかげでこんな狂気とほっこりの中間みたいなネタが出来上がってしまったわけで、小糸を盾に取られた私は強く反論するわけにもいかず唯々諾々とネタを受け取るしかなかった。

樋口「とーるとーるとーるとーるとーる
   とーるとーるとーるとーるとーる」
浅倉「うわ、でた」
樋口「セイ」
浅倉「セイやめて、そのセイ
   とおるとおるとお」
樋口「は?
   透は私のものって言ってるでしょ」
浅倉「えー」

 なんでこんなこと大衆の面前で言わされないといけないわけ? どこかの最悪な新人研修プログラムみたいだ。私の自己啓発でもインストラクションするおつもりですか?
 ネタおろしにあたっても『まどとおの波動……ごちそうさまです!!』と智代子が両手を合わせて訳のわからないことを喚いていたが、間食のみならずそんなものまで腹に溜まるのなら、霞でも食っていただいた方がコスパいいのでは?

●ON STAGE 00:02:00

樋口「はいって言って」
浅倉「あー、イエス」
樋口「円香は私のものって言って」
浅倉「まどか、イズ、マイン」
樋口「円香って10回言って」
浅倉「あーーーーーー
   まどか、まどか、まど」
樋口「遅い」

 それでも透がシステムの掌の上で転がる様子は新鮮なものがあった。癪ではあるが最近耳馴染みのない名前呼びに驚きと似た感慨がないわけでもない。しかし──今透が漫才している相手は、システムであり、私ではない『まどか』という名の誰かだ。透が『まどか』目掛けて撃った弾は私に響き得ない。私は私で『まどか』と漫才している透を端から見ている他者に過ぎない。

 本質的に、誰しも人は他の誰かにはなり得ない。いつだったか俳優演技指導で耳にしたストラスバーグの『メソッドアクティング』だって、役者の神秘性を崇める凡人の信仰という印象に尽きる。インスタントに変身できる都合のいい方法なんてない。だからあくまでなんの隠し立ても臆面もなくがむしゃらに透を求めてやまない『まどか』とは、想像もつかないほどの距離がある他人でしかない、はずでしょ。
 ──その欲望はぎこちないし、あまりにも不恰好だ。現にほら、普段の私と『まどか』のズレを楽しんでこんなにも観客が笑っている。そう、これも言葉を借りれば『不一致理論』とでも言い得ますか?

 透が、私のものであるはずはない。
 私が、透のものであるはずもない。
 ああ、なんてぎこちない──

浅倉「無理だって」
樋口「なんで」
浅倉「無理、もう」
樋口「ずっとこれからも一緒って言ったでしょ」
浅倉「え、なんかずるくない? その盾」
樋口「本当に無理なら、やめさしてもらいますって言って
   皆さんの前で、やめさしてもらいますわって言って」
浅倉「終わっちゃうじゃん、それ」

 でも、『まどか』。
 終わっちゃう前に、そこをどいて。
 透の隣は私にとって、『我が家』に等しい場所だから。
 次は私の番だから。
 ────『かわれ』。


樋口「なら、できるわけ?」
浅倉「……あー
   やるわ やらなきゃ」
樋口「浅倉……」
浅倉「そこは浅倉呼びなんだ」
樋口「できなくても、いいから」
浅倉「急に甘っ」
樋口「……最後だからね、浅倉
   ちゃんとついてきて」
浅倉「しゃー やるか」


《透ちゃんには苗字なの、どうしてなんすか?》

《……どうしてだと思う?》


樋口「とーるとーるとーるとーるとーる
   とーるとーるとーるとーるとーる」
浅倉「まどかまどかまどかまどかまどか、
   まどかまどかまどか、まどかまどか」
樋口「とーるとーるとーるとーるとーる
   とーるとーるとーるとーるとーる!!」
浅倉「まどかまどかまどかまどかまどか
   まどかまどかまどかまどかまどか!!」


《なんか
 とーるくん、とーるくんって、音みたいな感じで……》

《音……》

《うん
 とーるちゃん、とーる、とーるくん────
 全部、一緒
 私のこと、指してる音》

《はは、確かに
 いい音だな
 とーるちゃん、とーる……とーるくん────》

《ふふっ うん
 今みたいに、誰って感じもなかったしね》

《……?》

《浅倉透、17歳、高校2年生
 漫才やってます、みたいなこと、ないじゃん
 だから、なんでも全部私だった 音》

《────あぁ……》

《……あ、なんか、なんのこと言ってるか、わかんなくなった》


●ON STAGE 00:03:00

 噛まないで言い切ることができた透の健闘に、客席からの拍手が届く。

樋口「──じゃあ、私たちは?」
浅倉「え?
   …………
   ──……ずっとこれからも一緒」
樋口「──正解」
浅倉「ふふ、いやちゃんとクイズだったんかい
   やめさしてもらいますわ」
両者「「どうも、あーしたー」」

●ON STAGE 00:03:09
○ON STAGE 00:03:10
──終了。

* * *

 もちろん言い切れなかった時用のプランも用意してあった。できなくてもよかった。でも透は──ちょっとムキになってくれた。透が振り回される様子の面白さも一つの発見だ。
 私たちの関係性と漫才はまるで関係ないけど、どうだと言わんばかりに私に微笑みかける透を見て、なんとなく、このアホとうまくやっていけそうな気がした。

 しかし袖へのハケ際、いきなり透が喋りかけてくる。まだ舞台上だ、バカ。

「誕生日っしょ、今日」

「……あ」

 舞台袖で見守っていた小糸ディレクターが花束を持って出迎えてくれる。
 今日は、10月27日。私の誕生日だ。
 監修のフィルターを通してネタにまで意図を反映させてくるなんて、サプライズが過ぎるでしょ。完全にやられたわ。
 こんなハートフルな結び、競技漫才には絶対似合わないのにね。

 透が私の肩に腕をつき、ドヤ顔でキメる。

「そういうこと」


──────● ピックアップコンテンツ(2)


【とおまど】
M-1予選2回戦ネタ
タイトル: 『10個、光』
ネタ時間: 03:10
開催日程: 2023/10/27
開演時間: 11:00
開催会場: 雷5656会館ときわホール(東京)
グループ: L

○ON STAGE 00:00:00

両者「「どうも〜〜」」
浅倉「浅倉透と」
樋口「樋口円香で」
両者「「とおまどです、よろしくお願いします」」
樋口「えー、はい
   私たちは幼なじみでずっと漫才やってきたんですけども」
浅倉「ふふ、小さい頃からね 四六時中
   なかったよね、やってなかった時なんて」
樋口「うん」
浅倉「ずっとね」
樋口「うん」
浅倉「これからもね」
樋口「うん?」
浅倉「一緒だよ」
樋口「うん
   まあ小さい頃から一緒だったんで、
   結構しょうもない遊びとかしましたね」
浅倉「あー」
樋口「例えばそう、10回クイズとか」
浅倉「したね」
樋口「10回クイズっていうのは
   とーるとーるとーるとーるとーる
   とーるとーるとーるとーるとーる」
浅倉「ふふ、怖っ」
樋口「みたいに10回言う」
浅倉「うん」
樋口「っていう遊び」
浅倉「うん?」
樋口「やっていきましょう」
浅倉「え?」
樋口「円香って10回言って」
浅倉「まどかまどか……まどか……ま、え?
   まどか、まどか、まどか、まどか────」
樋口「あー、遅い」
浅倉「まどかまどかまどかまっ かっ まかどまっかま?
   まど、まどか、まどかまどかまどか」
樋口「ちゃんと言って」
浅倉「まどか、まどか、」
樋口「遅い」
浅倉「まどかまどかまどかどまっまかっ
   え、これむずくない?」
樋口「とーるとーるとーるとーるとーる
   とーるとーるとーるとーるとーる」
浅倉「怖いって 近いし」
樋口「ね、簡単でしょ セイ」
浅倉「えー
   まどかまどかまどかまど、
   かまどかまどかまどかまど、かまどかまど」
樋口「かまどになってる」
浅倉「無理ゲーじゃん?」
樋口「セイ」
浅倉「かまどかまどかま」
樋口「最初からかまどになってる」
浅倉「まどかまどかまどかまどかまどかっかどっ ま」
樋口「とーるとーるとーるとーるとーる
   とーるとーるとーるとーるとーる」
浅倉「むずいんだって、まどかが
   逆にしようよ、逆がいい」
樋口「ダメ」
浅倉「え、なんで?」
樋口「意味ない」
浅倉「なんの?」
樋口「とーるとーるとーるとーるとーる
   とーるとーるとーるとーるとーる」
浅倉「うわ、でた」
樋口「セイ」
浅倉「セイやめて、そのセイ
   とおるとおるとお」
樋口「は?
   透は私のものって言ってるでしょ」
浅倉「えー」
樋口「はいって言って」
浅倉「あー、イエス」
樋口「円香は私のものって言って」
浅倉「まどか、イズ、マイン」
樋口「円香って10回言って」
浅倉「あーーーーーー
   まどか、まどか、まど」
樋口「遅い」
浅倉「無理だって」
樋口「なんで」
浅倉「無理、もう」
樋口「ずっとこれからも一緒って言ったでしょ」
浅倉「え、なんかずるくない? その盾」
樋口「本当に無理なら、やめさしてもらいますって言って
   皆さんの前で、やめさしてもらいますわって言って」
浅倉「終わっちゃうじゃん、それ」
樋口「なら、できるわけ?」
浅倉「……あー
   やるわ やらなきゃ」
樋口「浅倉……」
浅倉「そこは浅倉呼びなんだ」
樋口「できなくても、いいから」
浅倉「急に甘っ」
樋口「……最後だからね、浅倉
   ちゃんとついてきて」
浅倉「しゃー やるか」
樋口「とーるとーるとーるとーるとーる
   とーるとーるとーるとーるとーる」
浅倉「まどかまどかまどかまどかまどか、
   まどかまどかまどか、まどかまどか」
樋口「とーるとーるとーるとーるとーる
   とーるとーるとーるとーるとーる!!」
浅倉「まどかまどかまどかまどかまどか
   まどかまどかまどかまどかまどか!!」
樋口「──じゃあ、私たちは?」
浅倉「え?
   …………
   ──……ずっとこれからも一緒」
樋口「──正解」
浅倉「ふふ、いやちゃんとクイズだったんかい
   やめさしてもらいますわ」
両者「「どうも、あーしたー」」

○ON STAGE 00:03:10

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