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 パイナップルの彼方 著:山本文緒

 父親のコネで入った信用金庫で安定した収入を得、趣味のイラストで副業もこなし、実家を出た1人暮らしの部屋には優しい恋人が訪ねてくる。上司や同僚ともうまくやり、居心地のいい生活に満足する深文(みふみ)だったが、1人の新入社員の女性が配属された時から、ゆっくりと周囲のバランスが壊れていく......。毎日、現実から逃げたいと思ってはいても、実際に逃げ出したりはしない。そんな誰もが抱える日常を見事に描き出した長編小説。

 背表紙を引用しました。深文は短大で出会った月子となつ美は気心の知れた仲だ。なつ美の結婚式から始まるのだが、月子はハワイに留学すると言い出す。なつ美はおめでた婚で、出産も近づいてる。深文には天堂と言う優しい彼が居る。週末ごとにやって来て温め合う1人暮らしを謳歌していたが、上司のサユリさんと後輩の日比野と言う四大出の同い年の後輩と人事課で仕事をしているのだ。

 深文は美大の短大を出ていて、雑誌に載る女性の裸体を描くと言う副業も持ってる。しかし、その副業の為の画材を信用金庫の備品から頂戴する所を日比野に見られてから全てが狂い始めた。日比野もイラストを描いていると言って編集者を紹介して欲しいと頼まれ、お世辞にも上手いとは言えない日比野の絵は落選する。腹いせか何か、備品の事がバレ、課長に注意を受ける。深文の絵が載った雑誌が社内にばら撒かれ、好奇な視線を浴びる事になる。上司のサユリさんにも信用問題に発展し、上司からの信頼を失った深文は立ち直れないほど落ち込むのだ。

 一方、この信用金庫に勤める際に同期となった妻子持ちの岡崎と言うプレイボーイが居て、事ある毎に深文にちょっかいをかけて来る。面倒になったら嫌だからと深文は食事するだけで我慢していたが、岡崎の屈託ない誘いに乗ってしまいそうになる。24歳の誕生日は深文は誰からも祝ってもらえないで忘れられていた事に、ことのほかショックを受けているのだった。

 天堂の仕事先も転勤で会える頻度も少なくなり、休日を1人で過ごす事も多くなった深文。なつ美に子供が生まれ、月子がハワイから寄越したエアメール。気の置けない仲間達の近況を聞き、深文は互いの生活のズレを歓迎できなかった。月子には国際電話で、なつ美には有給を使って会いに行ったが、その後は疎遠になってしまう。仲直りもちゃんとするのだが、この物語の結末は呆気に取られて終幕を迎えた。

 一日で読んでしまった。筆の進みが小気味よく、読者の気になる続きが時系列に沿ってすぐに書き込まれており、あっと言う前にラストを迎えた。

 パイナップルは月子が送って来たパイナップルを全部食べられずに捨てる所が描写されていた。現実逃避とはよく言うが、今回の現実逃避の舞台はハワイだったのだ。

 こんなにすぐに読み終えると思ってなかった。良い読書体験だった。

 以上

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