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 荒地の家族 著:佐藤厚志

 坂井祐治が主人公である。冒頭にそのまま出て来るがその後(ご)は祐治である。やっぱり男性作家の書く書物は時系列があやふやでは無い。震災を経験し、復興途中である阿武隈川に沿った亘理町を舞台に、シングルファザーの祐治は奮闘する。造園業を生業として息子啓太と母和子の三人住まい。和子は祐治の母である。啓太のお婆さんだ。

 役場の河原木と造園を頼まれた六郎さんの息子の明夫。河原木と明夫と祐治は同学年である。河原木から仕事を請け負う事も多かった祐治は釣りを河原木に薦められたりしながら日々を熟していた。明夫は震災で妻と娘を失っている。祐治は震災で被害は受けたが妻の晴海と啓太は失っておらず、震災の後(あと)で晴海さんを失い、再婚を果たすが離婚する事になってしまった過去を持つ。再婚相手の知加子との間に子供が恵まれるも死産する事になってしまった。どちらも不運が重なったのだが仕事に打ち込む事でしか、不幸は和らげられなかった。知加子とは絶縁状態になってしまうのだ。

 津波被害のあった防潮堤の景色を何度も描いている。釣りの場面でも密猟の場面でも、梅雨の雨の中、阿武隈川が氾濫した時も、津波があった時も、震災前と震災後を比べて、海の景色と防潮堤の海との隔たりを文章の中に散りばめながら、荒地になった街で家族三人の暮らしを暮らしの場面でなく祐治の視点で仕事を熟す場面を引き合いに出しながら延々と描いていた。

 ラストはあっけなかった。これで終わりなのかとちょっと拍子抜けしたが158ページでラストだった。震災を経験した。その復興と記憶を風化させない意味で宮城県ならではの土地勘で描かれているのは正直嬉しい。あの震災があったあとの地続きで繋ぐ家族の物語は貴重な体験記のようだった。

 もちろんフィクションなのだろうが、佐藤厚志さん芥川賞受賞おめでとう御座います。震災の記憶を風化させない地元の話を書いてくださり、ありがとうございました。


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