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沖縄県糸満市|400分の作業が0分へ、農業IoTの課題を解消した1万円で導入できる新しいスマート農業の仕組み

沖縄県糸満市は、沖縄本島の最南端に位置する人口約6万人の町です。沖縄戦の終戦地で、本島最南端には平和記念資料館が設置されていることでも有名です。

糸満市の主要作物は小菊とマンゴーで、産地ブランドの確立や消費拡大などを目的にさまざまな取り組みを行っています。

マンゴーのスマート農業については宮古島の事例を先日ご紹介しました。

今回は糸満市とKDDIが取り組んだ、小菊とマンゴーのスマート農業についてご紹介します。

■本記事のまとめ
・農業IoTにおけり課題「機能が複雑で使いこなすことができない」「設置時の負担が大きい」「コストが高い」を解決する、農業支援通知システム『てるちゃん』を導入。
・電照の不点火や温度以上を検知して、SMSや電話で通知するシステム。
・月約400分(6〜7時間)かかっていた巡回作業が「0分」になり効率化を実現。心理的負担と肉体的負担を軽減。

農業IoTは難しくてコストが高い

糸満市に限らず、各地の農業分野においては人手不足や将来の担い手不足が深刻化しています。人手がいないと収穫量が減ってしまうため、直接的に売上にも影響がでてしまいます。

また、「ビニールハウス内の室温上昇に気付かず農作物を全滅させた」という話が実際にあったようで、ビニールハウス内の室温情報などを適宜チェックできる仕組みが必要でした。

ここまでの課題は今までにも起こっていたもので、これらの課題に対して農業IoTを導入して解決するアプローチがされてきました。しかし、農業IoTの導入に関する課題が3つありました。

1.農家にとって機能が複雑で分かりにくい、使いこなせない
2.IoTの設置に手間がかかり、農家の負担が大きい
3.IoTの導入・維持コストが高い

特に1については、農業に限らず、他の業種でもよく聞く課題です。実際に私が担当させて頂く企業様でも「システムを使いこなせない」という課題は多いです。

そこで農業IoTの課題に解決すべく、農作業支援通知システム「てるちゃん」を導入しました。

農作業支援通知システム「てるちゃん」

元々は、ビニールハウス内にある内にある確認作業が頻繁に発生し、確認のために農作業が中断しているという課題がきっかけで、温度をセンサーで検知して農家の方へ通知する仕組みとして「てるちゃん」を構築しました。

「てるちゃん」は照度や湿度を電話およびSMSで通知して作業の効率化を図る農作業支援通知システムです。

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※画像:糸満市HP

「てるちゃん」を使って下記2つの実証実験を行いました。

(1)小菊の電照の不点灯を検知してSMSで通知
小菊の電照栽培(夜間に電灯を点けることで開花時期を人口的に制御する栽培方法)において、雨風によってブレーカーが落ちて電灯が消えてしまうことがありました。農家では少なくとも3日に1回は深夜に巡回して電照が消えていないかどうか確認していましたが、大きな負担となっていました。

そこで、電照状況をセンサーにより監視して、電照が消えた場合はSMS(※)で作業者の携帯電話へ通知します。最新の状況を確認したい場合は、電話をかけることで確認できます。

※SMS(ショートメッセージ/Short Message Service)とは、携帯電話同士で電話番号を宛先にしてメッセージをやり取りするサービスです。

(2)マンゴーハウス内の温度異常を検知して電話で通知
ビニールハウス内で栽培するマンゴーは、逐一変化する室温の確認と室温に合わせた対応が必要となります。農家では温度計が置いてある場所まで移動して室温を確認し対応作業を行う、ということを繰り返し行わなければならず、負担がかかっていました。

そこで、ビニールハウス内の室温をセンサーで監視して、指定した温度を上回るまたは下回ったときに、作業者の携帯電話へ通知します。こちらも最新の状況を確認したい場合は電話することで確認できます。

農業IoTにおける3つの課題を解消

今回導入した「てるちゃん」は、前述した農業IoTにおける下記3つの課題を解消したシステムでした。

1.農家にとって機能が複雑で分かりにくい、使いこなせない
2.IoTの設置に手間がかかり、農家の負担が大きい
3.IoTの導入・維持コストが高い

1→機能がシンプルで使いやすい
機能は通知のみに限定し、異常検知したらSMSや電話へ通知するというシンプルなものです。これまでに良くある、過去データやログを参照できる機能、グラフによって分析できる機能などは、農家の方が使いこなせないため、あえて提供しないようにしました。

シンプルな機能により、これまでICTに触れる機会がなかった農家の方でも使いこなすことができます。

2→5分で設置できる簡便さ
センサーを設置して、親機となるルーターをコンセントに接続すればセンサーとルーターが無線で自動接続するため、5分で設置完了します。

これまではセンサーとルーターの接続作業に半日程度使うことがありましたが、「てるちゃん」では5分で完了するため簡単に設置できるようになりました。

3→低価格を実現
機能を限定し、外部のクラウドサーバや市販ハードウェアを利用することで、開発費用を抑えています。「初期費用1万円、月額費用1千円」での提供を予定されています。

効果

実証実験の結果、定量的な効果だけでなく、心理面と肉体面の定性的な効果も生まれました。

・毎月約400分(6〜7時間)かかっていた深夜の電照巡回確認作業が「0分」へ
・深夜の巡回が不要になったことで就寝時刻が1時間早くなった
・「安心して寝られるようになった」という心理的負担軽減を実現
・「ぐっすり寝られることで身体が楽になった」という肉体的負担軽減を実現
・作業が効率化されたことで、品質を上げるための別の作業へ時間を割くことができるようになった

ポイント

農業IoTにおける課題を解消し、特に使いやすさを重視したという点が今回のポイントです。

最近よく耳にする「DX」然り、IoTなどICTを活用して課題を解決するというアプローチは過去にもありましたし、多くの企業が取り組んでいるのではないかと思います。そこで直面する課題は「豊富な機能があっても使いこなすことができない」「操作性の難しさから導入時のハードルが上がってしまう」ということです。実際に私も、システムを活用できないというお悩みをよく耳にします。

農業の分野においても、IoTという技術は何年も前からありますが、まだまだ普及しているとは言えない状況です。なぜなら使いこなせないと思ってしまう農家の方が多いからです。試しに使ってみた結果、使いこなすことが難しいと判断された方もいらっしゃると思います。

そこで今回ご紹介した施策では、スマホやタブレットの利用も不要として、ガラケーの携帯電話へ電話通知するという仕組みを提供しました。普段からITシステムに触れている人にとってはスマホやタブレットを使うことは何の障壁にもならないと思いますが、高齢の農家の方々にとってはスマホやタブレットの操作も難しいのではないかと思います。

利用者のことを第一に考えて、電話で通知するというアプローチを取った点は本当に素晴らしいと思いますし、利用者のことをとことん考えた結果だと思いますので、学ぶべき点が多い事例でした。

〈ご参考〉てるちゃんPR動画

〈ご参考〉KDDIプレスリリース
【農業×IoT】沖縄県糸満市にて実証実験開始 ブレーカー落ち・ビニールハウス内温度を電話でおしらせ


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