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Requiem《短編小説》

あの女の訃報を聞いた時、微かにほくそ笑んだ自分が居た。
死因は自殺らしい。

遺書には「生きていくのに疲れました」
そう記されていたと、知人から聞いた。

葬儀の日、あの女の遺影を見た時、心から安堵した。
これでやっと彼女と結婚出来る。

ストーカー行為を繰り返され、警察にも相談に行ったが証拠が足りないとか、何だかんだ上手く躱され、結局事件として取り扱ってくれなかった。

その内彼女までもが、俺達の仲を疑って来てここ最近はギクシャクしていた。
婚約して半年。
結婚式の日取りも決めて、後は式を挙げるだけなのに。
これじゃ全てが台無しだ…。

思い詰めていた俺は、幼馴染みに相談した。
「そんなヤツ、何言っても分からないんだからさ、ほっとくしかないんだよ」
そう軽く言われ、少し落胆したが自分から死んでくれたのなら、悩みは無くなった。

葬儀が終わり、彼女と暮らすマンションに帰った。

「ただいま」
「おかえりなさい」いつもの明るい笑顔に戻っている。
俺は嬉しくなり、彼女を思い切り抱き締めた。

「…っ」下腹に鈍い痛みが走った。
彼女を見ると、無表情でこう言った。

「あなたがまた誰かに取られる前に、私だけのものにするの」

「し……知っていた…のか…」
薄れ行く意識の中、俺は一度の過ちを悔いたが、それはもう手遅れだった。

翌日、マンションで男女の遺体が発見された。
男の上に覆い被さる様に、女が倒れていた。
男は失血死、女は毒物死と判断された。

女の頬にほんの僅か、涙の跡が残っていた事に、その場の誰もが気付かないでいた。

[完]


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