「推し、萌ゆ」胸をじっとり焦がす愛しさと、自己防衛

とても簡単に、主人公と年齢の近い視点から感じたことを、散文でお話するnoteです。

あらすじ

高校生のあかりは、現実世界での生きづらさを感じているが、''推し''であるアイドルにお金や気持ちを注ぎ込むことを生きがいとしている。生きることは、推すことであった。あかりをとりまく環境と、自己の確立、周りからの目、家族関係、退学、就活。さまざまな問題を抱えながら悩む少女と現代を描く。

知っている感情

この本の中でいちばん描写の多い、愛しさの部分。推しへの苦しくなるくらいの愛、むず痒い胸の痛み、かわいい、愛しい、と目頭が熱くなる感じ。
朝起きて、なんだか今日もがんばれそう、と大げさだけれど思わせてくれる存在。そういう共有できないような人の内側を切り取って、言葉にして、読者が「わかる、感じたことある」と共感して胸を熱くさせるまでを伝える表現力。一行一行がたいせつな作品でした。

心地よくするすると自分の中に入ってくる文章を、久々に感じた気がします。

現代のあらゆる問題を混在させる

この小説の中に、どれほど多くの社会問題が描かれていただろうかと、読み終わってから気づきました。ADHDのつらさ、その周りの人の何気ない一言がナイフとなること、ピーターパンシンドローム、ネット依存、炎上、若者の無気力、顔色を伺い期待に応えようとする子ども、家庭内プレッシャー。まさに令和時代の今を、一番生々しい視点から書き記している作品かもしれません。

主人公は、現実から自分を守るために、推しを推していたのだと思います。星占いは推しの星座しか見なかった。自分の存在を、のめりこむことでまぎらわせていたのだと思いました。
若者が無意識に隠し持っているこころの隅部屋の場所を、そしてその鍵も、宇佐見さんは知っているのだろうなと思いました。

同じこと考えてた人を、知ってる

自己紹介にも書いてあるように、移動(電車、バス、飛行機、車)が好きな私が、考えていたことが作中にでてきて、いたく興奮してしまいました。
移動が好きなのは、そこから得る安堵も含まれているのかもしれないと。まさに言葉にしてくれていて、感動。

以下、引用です

午後、電車の座席に座っている人たちがどこか呑気で、のどかに映ることがあるけど、あれはきっと「移動している」っていう安心感に包まれているからだと思う。自分から動かなくたって自分はちゃんと動いているっていう安堵。(中略) 何もしないでいることが何かをするよりつらいということが、あるのだと思う。

何もしないでいることのつらさを、私は少し知っていると思いました。忙しくしたい!とか、そういう話ではなくて、、これわかる人かなり少数派な気がするな、、

もう一つ、好きな箇所を。

「単純化された感情を押し出しているうちに
単純な人間になれそうな気がする。単純な会話を続けて、電話を切る。」

おわりに

きっとたくさんの視点から考察できそうなこの小説を、浅く拙い自分の目線で語ってしまうのが、なんだかもったいないような気がしています。もう少し思考すればもっと別の解釈が浮かんできそうな、そんな作品でした。いろんな人が感じとった、この作品を知りたいと思いました。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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