ご免侍　九章　届かぬ想い（十二話／二十五話）

2024年8月13日 19:42

あらすじ　
　ご免侍の一馬かずまの父が、散華衆さんげしゅうの隠形鬼おんぎょうきだと暴露された。一馬かずまは、連れさられた琴音ことねを助けられるのか。

十二

　琴音ことねは、すぐには殺されないと聞いて安心した一馬だが、その子供が殺されると聞くと血がたぎる。

「それを命令しているものは誰だ」
「天照僧正あまてらすそうじょう」
「女と聞いたが」
「そうだ、私たちの母親だ」

　ぐっと息がつまる。頭が整理できないのか疑念が浮き上がっては消える。

「ならば、孫をイケニエにするということか」
「そうなるな」

　大烏元目おおがらすがんめは、目を伏せる。身内が元凶だった場合にどう動ける。父の藤原左衛門ふじわらさえもんが敵、琴音ことねの母親が敵、理だけで成敗できるのか……

　忍者の露命月華ろめいげっかが不思議そうな顔で質問する。

「なんで自分の孫をイケニエにするの」
「イケニエを終わらせるために、安徳様を復活させようとしている」
「……それ本気」
「復活できれば、祟たたりも消える。そう考えているようだ」

　海賊の娘、伊藤加代いとうかよが続けて質問をする。

「なら天照僧正あまてらすそうじょうを倒せばいいのか」
「そうなるな」

　大烏元目おおがらすがんめは、少年のように眼をふせる。物言いは大人だが、まだ若く元服前にも見える。一馬はあわてて口をはさんだ。

「加代かよ殿、そうは簡単にはいかぬ」
「なにが悪いの」
「その……城内の勢力の事もある。むやみに殺して解決するわけじゃない」
「そんなもんかね」
「元目がんめ殿の父親も殺されている。それはイケニエを良しとする一派がいるからだ」
「めんどくさいね、それよりも加代かよでいいよ」
「……わかった」

　ふいに露命月華ろめいげっかが、太ももを拳骨でなぐる。

「痛い」
「痛くないよ」

　月華げっかが一馬をにらみながら、ボンボンと叩いている。

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