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ご免侍 七章 鬼切り(十二話/二十五話)

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あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。祖父の藤原一龍斎ふじわらいちりゅうさいは、一馬を刀鍛治の鬼山貞一おにやまていいつに会わせる。貞一ていいつの娘が母親だった。そして母は殺されていた。鬼山貞一おにやまていいつから、母は生け贄にされたことを知る。生け贄の場所は大烏おおがらす城だった。


十二

 権三郎ごんさぶろうは、難しそうな顔をしながら

「弾は当たっていますが、足を傷つけただけです。血は流れていますので追えます」
「判った急ごう」

 権三郎ごんさぶろうは、すっかり狩人の顔だ、獲物を探して仕留める猟師として一馬かずまに、忠実に付き従う。

一馬かずま殿、拙者はご老体を村までお連れします」

 両手に藤原一龍斎ふじわらいちりゅうさいを抱きかかえ、雄呂血丸おろちまるは一礼する。臥竜がりゅうに刀を折られているので、今は戦力にはならない。

 露命月華ろめいげっかは、ただそこに立っていた。

月華げっか、一緒に来てくれ」
「……」

 呆然としている月華げっかは、少しだけ雰囲気が変わっていた。鋭さが消えている。

「ついて来れるか」
「……ああ、うん」

 頭をふるといつもの月華げっかにも感じる。

(兄と出会った事で何かあったのか……)

 月華げっか散華衆さんげしゅうから抜けた理由を一馬は知らない。父が連れてきた理由もあいまいだ。

(もし敵となるなら……)

 祖父が死んだ事や味方の変化で、一馬も余裕が無くなっていた。何かに頼って生きていると失った時の無力感は想像を超える。

(本当に、琴音ことねを助けられるのか……)

 山賊の権三郎ごんさぶろうに案内をさせながら、自分のやるべき事がかすんでくる。江戸の街で格下の相手を退治していた時と違い、腹の底が重い。この重さを取り除けるならば、金を出してもいい。

(弱い、俺は本当に弱い男だ)

 人では感じとれない量の血を追いながら権三郎ごんさぶろうの後ろを歩いていると、彼はぽつりとつぶやく。

「旦那、娘さんはゆっくり歩いてます、たまにひきずられてます」
「わかるのか」
「そりゃ判りますよ、獣だって足あとで気分が判ります」

琴音ことねは、抵抗している。)

 一馬は、そう考えると心が晴れやかになる。助けなければ、いや絶対に彼女を助ける。何があっても助ける。

#ご免侍
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