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ご免侍 七章 鬼切り(十三話/二十五話)

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あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。祖父の藤原一龍斎ふじわらいちりゅうさいは、一馬を刀鍛治の鬼山貞一おにやまていいつに会わせる。貞一ていいつの娘が母親だった。そして母は殺されていた。鬼山貞一おにやまていいつから、母は生け贄にされたことを知る。生け贄の場所は大烏おおがらす城だった。


十三

 伊豆の深い山の中を追いかける。道とは言っても石だらけの山道だ。抵抗する女を連れて早く動けるわけもない。下りの道は登りよりも危うい。下手をすると転ぶし、体力も削れる。

「いました」
「うむ、追いついたか」

 下の道を歩く三人の姿を見つける。琴音ことねは、一馬の母の形見の着物のせいか、足が遅いようだ。山道を降りるような服装ではない。

「狙いますか」
琴音ことねに、当たらないか」
「でかい方を倒します」

 露命臥竜ろめいがりゅうは六尺(百八十センチ)は、ある大男だ。それだけ狙いやすいのだろう。

 敵を一人でも減らせれば楽だ。そう思った瞬間に月華げっかが叫ぶ。

「馬鹿兄貴、琴音ことねを離せ」

 露命月華ろめいげっかが、木の枝にかぎ縄をなげつけると猛烈な早さで下に降りる。

「お、おい」

 止める暇も無い、あわてて一馬は道を走り降りる。下にいた敵も気がついたのか、歩みを早めるが山道では走るのも容易ではない。

 月華げっかは強いが、臥竜がりゅう金鬼こがねおにと比べれば、力負けをしている。

(冷静さを欠いたか)

 そう思った瞬間に、火縄銃の大きな発射音がする。コダマが響き渡ると白い煙が巻き上がる。

 一馬がやっと道を降りると、金鬼こがねおにが山道の真ん中で待っていた。また火縄銃の音がする。権三郎ごんさぶろうは、臥竜がりゅうを狙っているのだろう。

「仕方がありませんな、足止めさせていただきます」
「問答無用」

 散華衆さんげしゅう四鬼しきの一人、金鬼こがねおには、頭に金色の鉄の輪をかむり、両手に鉄貫てっかんを握っている。拳が体に当たれば即座に骨が折れて身動きできなくなる。

(今は剣速が早い鬼切おにぎりだ)

 素早さでは負けない、こちらの方が長い得物だ。それだけ当てやすいが……それでも体捌たいさばきは、一馬と同じくらいに動きが変則的だ。

#ご免侍
#時代劇
#鬼切り
#小説


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