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ご免侍 七章 鬼切り(二十五話/二十五話)

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あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。祖父の藤原一龍斎ふじわらいちりゅうさいは、一馬を刀鍛治の鬼山貞一おにやまていいつに会わせる。貞一ていいつの娘が母親だった。そして母は殺されていた。鬼山貞一おにやまていいつから、母は生け贄にされたことを知る。生け贄の場所は大烏おおがらす城だった。


二十五

 しばらくして小さなまき小屋を出ると庭に誰かが立っている。ここからでも判る。

「いいご身分だね」
月華げっか……」

 近づこうとすると、手を前に出す。手にはクナイが握られている。

「こんな時に、女を我慢できないのかい」
「俺は……お前を信じている」
「なにが」
「いや……お前の事は……」

 俺は月華げっかをどうしたいのか……、彼女は俺と夫婦めおとになっても良いと言った。それが本心なのか、なにかの駆け引きなのか判らないが。嘘とは感じられない。それは告白とも違う、誓約に近い。

「俺は、好きだ」
「黙れ」

 クナイが震えるように上下に揺れる。月華げっかは泣いているのかもしれない、少女は何を感じて泣いているのか……

「もしお前が、俺を嫌いじゃなければ」
「嫌いだよ」
月華げっか
「近づくな、他の女の匂いで気持ち悪い」

 クナイを一馬の喉元に突きつけた。しかし敵意なんて少しもない、ただただ少女は、自分に壁を作りたい。

「俺をどうしたい」
「殺したい」
「判った、この旅が終わったら殺していい」
「何を馬鹿な……」

 腕がすっと降りると力なくたれ下がる。脱力した月華げっかをゆっくりと抱きしめた。

「本当は、俺はもう特に何かしたいわけじゃない、出世したところで飼い犬でしかない」
「……」
「俺は罪人を大勢殺した、言われるままに殺した。それが命令だからだ」
「……」
「人の命を断つのはたやすい、生かす方がもっと難しい」
「馬鹿」
「お前が俺を殺して、少しでも気分が晴れるなら……」

 月華げっかが、口を寄せると一馬を黙らせる。とてもやさしい口吸いは、前のような乱暴なものではない、いつくしむように優しく唇を合わせる。

xxx

「役人が、この下の村に来る。そこでわしが作った刀を渡せば話がつく」

 祖父である刀鍛治の鬼山貞一おにやまていいつは、一馬の顔をじろりと見るとなぜかにやける。

「男の顔になったぞ」
「はぁ、そうですか」
「覚悟を決めろよ」

 一馬は、まだ迷っている。自分で何ができるのか、何をしたいのか、旅する少女達を、どう幸せにしたいのか……

#ご免侍
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#鬼切り
#小説


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