見出し画像

ご免侍 八章 海賊の娘(二話/二十五話)

設定 第一章  第二章 第三章 第四章 第五章 第六章 第七章 第八章
前話 次話

あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一おにやまていいつと城を目指す船旅にでる。


 弁才船べざいせんは、祖父の鬼山貞一おにやまていいつが特別に用意させた仮の船で、紀伊水道を抜けて大阪湾に入る前に淡路島の港に停泊をする。

「うわー、地面がゆれてない」

 きゃっきゃっと喜んでいる月華げっかとは対照的に、水野琴音みずのことねは、落ち着いているように見えるが、表情はかなり硬い。

琴音ことね、具合が悪いか」
「いえ、やっと西国に近づいたので気を引き締めています」

 本来ならば岡山城へ行き面会の支度をしなければいけないが、祖父の鬼山貞一おにやまていいつは、船を変えると言い出した。ここから陸路で進む予定だったが、通行手形が江戸の天狼からもらい受けたものしかない。その通行手形を出せば、いずれ天狼が知る事になる。

琴音ことねを連れて旅をしている事がばれる)

 もっとも、いまさらばれたところで何も変わらないとは思うが、もし天狼が関所で止めろと命令をしているならば、一馬と琴音ことねは、別行動になる。

(それでは敵の正体を見極められない)

 国家安泰のために、女を生贄いけにえとしてささげる。その神の正体を知りたい。自分の命よりも優先に感じていた。一馬は琴音ことねに近づくと琴音ことねの手をとる。

「一緒いきます」
「はい」

 琴音ことねの顔がやわらぐと、ほほえんでんでみせてくれた。この仕草がとてもたまらなく感じる。守りたい、幸せになって欲しい、命を助けたい。

 横腹に衝撃が走る。

「ぐっ」
「なに気をゆるましているんだい」

 月華げっかが、悪鬼羅刹あっきらせつのような顔でにらんでいた。確かに夫婦になる事も考えたが、果たしてこの娘と幸せになるのか疑問にも思えてくる。

一馬かずま、大丈夫ですか」
「こんくらいで死ぬならもう死んでる」
「乱暴にしないでください、まだ若いんですから」
「若くないよ、おっさんだよおっさん」

#ご免侍
#時代劇
#海賊の娘
#小説


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?