ご免侍 八章 海賊の娘(二話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一と城を目指す船旅にでる。
二
弁才船は、祖父の鬼山貞一が特別に用意させた仮の船で、紀伊水道を抜けて大阪湾に入る前に淡路島の港に停泊をする。
「うわー、地面がゆれてない」
きゃっきゃっと喜んでいる月華とは対照的に、水野琴音は、落ち着いているように見えるが、表情はかなり硬い。
「琴音、具合が悪いか」
「いえ、やっと西国に近づいたので気を引き締めています」
本来ならば岡山城へ行き面会の支度をしなければいけないが、祖父の鬼山貞一は、船を変えると言い出した。ここから陸路で進む予定だったが、通行手形が江戸の天狼からもらい受けたものしかない。その通行手形を出せば、いずれ天狼が知る事になる。
(琴音を連れて旅をしている事がばれる)
もっとも、いまさらばれたところで何も変わらないとは思うが、もし天狼が関所で止めろと命令をしているならば、一馬と琴音は、別行動になる。
(それでは敵の正体を見極められない)
国家安泰のために、女を生贄として捧げる。その神の正体を知りたい。自分の命よりも優先に感じていた。一馬は琴音に近づくと琴音の手をとる。
「一緒いきます」
「はい」
琴音の顔がやわらぐと、ほほえんでんでみせてくれた。この仕草がとてもたまらなく感じる。守りたい、幸せになって欲しい、命を助けたい。
横腹に衝撃が走る。
「ぐっ」
「なに気をゆるましているんだい」
月華が、悪鬼羅刹のような顔でにらんでいた。確かに夫婦になる事も考えたが、果たしてこの娘と幸せになるのか疑問にも思えてくる。
「一馬、大丈夫ですか」
「こんくらいで死ぬならもう死んでる」
「乱暴にしないでください、まだ若いんですから」
「若くないよ、おっさんだよおっさん」
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