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ご免侍 七章 鬼切り(二十三話/二十五話)

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あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。祖父の藤原一龍斎ふじわらいちりゅうさいは、一馬を刀鍛治の鬼山貞一おにやまていいつに会わせる。貞一ていいつの娘が母親だった。そして母は殺されていた。鬼山貞一おにやまていいつから、母は生け贄にされたことを知る。生け贄の場所は大烏おおがらす城だった。


二十三

「しかし死体が多すぎますな」
「なに、知り合いの侍に頼む。内々に片付けてくれよう」

 刀鍛治の鬼山貞一おにやまていいつが、村人にふみを渡すと明朝に出発するとみなに伝える。

 一馬かずまは、他の男達と一緒に死体を庭にならべてむしろをかぶせる。女達は掃除をして血をぬぐいとる頃には、夜はかなりふけていた。簡単な食事を取ると疲れ切っている。

「あっしが見張りをします」

 猟師らしく銃をかまえた権三郎ごんさぶろうがそっと家の外に出て待機する。動物を狩る集中力と体力は、誰よりも頼もしい。

「もう寝ましょう」

 お仙がみなを寝かしつけながら、一馬に耳打ちをする。

「ちょっとだけ話が……」
「うむ……」

 先にお仙が外にでる、しばらくしてから一馬も用を足すかのように小屋の外に出る。暗い庭には、どこかで権三郎ごんさぶろうが居るのだろうが、まったく気配がない。

(さすが猟師だな、動物にも感づかれないように気配を消せるのか……)

 ゆっくりと庭の中央まで歩くと、白い手が手招きをしている、星明かりで見えるその手は、妙になまめかしい。星空は高く月がないせいか、かなり暗いがそれでも見える。

「どうした」
「こっちこっち」

 ひそひそと声を立てずに、お仙の後ろを歩く。旅の途中で湯に入る暇もないから匂いが強い。それでも嫌な感じはせずに、ただただ女の香りが漂う。

 まき小屋なのか、小さくせまい小屋の戸が開いている。お仙はすっと中に入ると静まりかえる。

「お仙……」

 のどが鳴る、こんな状況でも本能で頭に血が昇る。

(……俺は何を考えている)

 小屋の中に足を踏み入れると完全な暗闇だ。どこに何があるのかわからない。暗闇から白い手が伸びると一馬の太ももに触れた。

#ご免侍
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