ご免侍 十章 決戦の島(七話/二十五話)
設定 第一章 第二章 第三章 第四章 第五章 第六章 第七章 第八章 第九章 第十章
前話 次話
あらすじ
ご免侍の一馬は、妹の琴音を助けるために鬼ヶ島を目指す。父と母は敵として一馬の前に立ちふさがる。しかし船出をしたすぐに、散華衆のもう一隻の鉄甲船が、襲いかかる。
七
「一馬という名前だったか……」
「神無流、藤原一馬」
名乗りを上げたのは初めてだろうか、臥竜はどこかやつれたような顔色で、ゆっくりと歩みよる。
「お前は、藤原左衛門様の真意を知らぬ」
「知らぬも何も説明もない」
「左衛門様は、この国を救うお方だ」
「……子供を犠牲にして救えると」
「そうだな、だが犠牲はどこにでもある」
「どこにでもある犠牲が、お前だったとしてもか」
臥竜は、目をつむる。一馬は鬼切りをゆっくりと抜刀する。細かな振動が腕に伝わり、それは自分の激情を反映するように震えている。
(これは恐怖なのか、迷いなのか)
臥竜は、頭も良いし理屈も通じる相手に思える。一緒に戦えば、頼もしい友にもなれると夢想する。
「……そうだな、犠牲になった子からすれば国の事は、どうでもいいな」
「なぜ、まだ父に従う」
「それは、変わると思ったからだ」
「変わる……」
「そうだ、閉塞的な徳川幕府と侍、それを恐れて反抗もできない民百姓」
「それを変えられると」
「それは、わからぬ。新しい王がわれらの事を考えるとは思えない、それでもいっときでも自由になれるなら、俺は……」
音も無く野太刀が振り下ろされた、殺気もない攻撃はよけられない。なんとか鬼切りで受けたが、肩を少し切られる。ぬるりとした血が体を濡らす。
「お前は弱い、左衛門様のような強い意思がない、単なるふぬけだ」
「うるさい……」
自分でもわかる、俺はただ上から言われた通りに罪人を殺してきた。しかし、それは散華衆の臥竜達と何が違う!
「弱いお前は左衛門様には勝てぬ。」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?