見出し画像

その「何か」を

今日は13時半から開催された文章筋トレに参加した。参加者は計6名。Zoomに並んだ面々は、ぼくにとっては揃いも揃ったすごいメンバー。これで面白くならないはずはない。そう思ってスタートした文筋の時間は最初にショート10分書いて、読んで感想を述べ合って、次はロング60分書いて、読んで感想を述べ合った。

もう本当になんというか、それぞれがそれぞれの方向に向かって書く、のだけれど、書かれた文章を読むと不思議と共通する像のようなものが浮かんでくる。全く同じではないけれど、遠くでつながっていそうで、おそらく違っていないくらいのことが、読んでいて小さくつながったりする。毎回面白いし、これはなんだろうかと思うし、毎回ここにそのように書いてしまう。

ぼくの「書く」は、どうだったのかというと、わからないままに粛々と書いた。考えてきたことを書こうとしたけれど、一行目を書いた時に、進路変更した。そのせいで話自体が思っていた方向と違う方向にドライブしていった。これは書いた本人にしかわからないことだけど、不思議な感じでもあるし、それでいて書く時には毎回起こっているような気もする。

皆が書いた文章を読めることが、面白くてしょうがない。そこに文章として生み出される「何か」に触れると、ぼくのなかで「何か」が蠢く。その「何か」を感想として言葉にすると、また「何か」を書きたくなる。

まだ話をしたいのだけれど、ちょっと持っておきたいような、そんな豊かな気持ちのままZoomを退出して文章筋トレの時間を終える。

これほど面白いことってあるのだろうか。って、たぶんある。でも今のところ、この時間はぼくに予想を超えた面白さを運んでくる。運んでくるというか、自らその場所に向かう感じだ。

玄関ドア前にあるインターホンのボタンを押す。家の中で「ピーンポーン」と音がする。インターホンのスイッチが入った音がして、「はーい」とユウジのお母さんの声がする。「シンイチです」とぼくは答える。

「あーシンちゃん、おはよう、ごめんね、ユウジまだ起きてなくて、今から用意させるから、もう先に行っておいてくれる?」

「いいです、ここで待ってますから」

「いつもごめんねぇ」

そこでインターホンのスイッチが切れる。

ここ数日、ほぼ毎日そうだ。ユウジを迎えに来ても、起きていない。ぼくはほぼ毎日ユウジの家の前で、ユウジが起きて、学校に向かう準備をするのを待っている。家の駐車スペースに停まっているユウジの親父のローレルの下で、白黒ネコが今日も座って目を瞑っている。朝でこんなに暑くなっているのだから、ネコだって出歩くのがいやなのかもしれない。

同じ小学校だったユウジと同じ中学校に通うようになって、小学校の時と同じように毎朝、家に寄ってユウジと中学校に向かう。

ユウジとは小学5年生と6年生の時に同じクラスだった。中学校では違うクラスになったが、同じ野球部に入った。

ぼくとユウジは小学校の時に入っていた少年野球のチームが違っていて、その二つの少年野球チームは通っていた小学校のグラウンドを半分に分けて使っていた。

ぼくが入っていたベアーズは緑色のアンダーシャツに緑色のストッキングの白いユニフォームで、ユウジが入っていたリトルスターズは赤いアンダーシャツに赤いストッキングの白いユニフォームだった。

同じグラウンドで練習しているのだから、ベアーズとリトルスターズで練習試合でもすればいいのに、決して試合をしなかった。どうやらそこには大人の事情があるらしく、監督やコーチ同士で話もしなければ、目も合わせることもない。そのことを話題にしてはいけないような雰囲気が二つのチームの間にはあった。

ぼくとユウジは普通に友だちだったので、学校で過ごす時や、家に遊びに行ったときは普通に仲良く過ごした。土日にある少年野球の練習で一旦グラウンドに出ると、ちょっと雰囲気が違って、練習中にグラウンドの中でユウジと顔を合わせても、一言も言葉を交わさなかった。

ある日、グラウンドでぼくがセンターに入ってノックを受けていた時に、リトルスターズ側のグラウンドでもノックが行われていて、ユウジはショートの位置に入ってノックを受けていた。

ぼくはセンターの二番手に入っていたので、ユウジがノックを受けている姿を見ていた。その時のユウジはなぜか、ノッカーが打った簡単なゴロを何度も落としてしまっていた。調子が悪いのかなと思いながら、ちょっと声を出して、やじった。

「おーぃ、しっかり、行こうぜぇー」

ユウジはまたポロッとボールをこぼす。ノッカーがユウジのことを叱責する。帽子を取って直立不動のユウジは大きな声で返事をする。ユウジはショートの位置に戻る。

「また落としてぇ、どうしたんだぁー」
ぼくはまた、やじる。

ちゃんと捕れるまでノックは続く。ユウジは真っ赤な顔をしてノックを受ける。ボールが低くバウンドしながらユウジの右側に飛んで来る。ユウジのグラブをかすめたボールがぼくの方に転がってくる。

グローブにボールを収めたぼくは、追いかけてくるユウジに向かってボールを返す。真っ赤な顔をしたユウジがぼくを睨む。ボールをグラブに収めたユウジはすぐに振り返ってノッカーがいるホームに向かって強いボールを投げる。ショートの位置に戻ったユウジはノックを打つ人に向かって大声で叫ぶ。

ライナー性の打球がショートとサードの間に鋭く飛んでくる。ぼくはそのボールをバックアップしようとして身構える。ユウジが横っ飛びになって突っ込み砂煙を上げる。ボールが捕れたのかどうかは見えない。

砂煙の中から真っ赤な顔をしたユウジが立ち上がる。グローブの中には白いボールが入っていて、右手に持ち替えたボールをホームベースに投げ返す。眼のあたりの汗を右の袖で拭いてショートの位置に戻りながらぼくの方をみる。

「ナイスキャッチィー」とぼくはユウジに声を飛ばす。ユウジはグローブを突き出してくる。ぼくもグローブを突き出す。

ベアーズのノッカーがレフトに向かってノックを打とうとしたが、ファールグランドの方に転がっていく。

「ノッカー、しっかり行こうぜぇー」声を出して、ノッカーをやじる。

背中の方でユウジの声が聞こえる。

「しっかり打とうぜー」


「ガチャリ」とドアが開いて、眠たそうな顔をしたユウジがあくびをしながら出てくる。目を開けた白黒ネコが、すぐに目を瞑る。道を歩き出したぼくの後ろを、ユウジが追いかけて歩いてくる。

【文章筋トレ 10分+60分 修正有】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?