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文章を送る日々

 友人と会って話をしていた。友人は揺れていた。同じような揺れが私のなかにもあった。私の揺れは僅かだった。僅かな揺れでも何かをしたくなった。言葉を使って確かめたくなった。だけど、確かめることはしなかった。解釈を取り除くと、そこには事実があった。あることがあり、ないことはなかった。ないことを受け容れるのは難しかった。あることを認めるのも難しかった。あることはあり、ないことはない、を感じ続けた。

 久しぶりに半地下カフェにやってきた。いつも座る席には赤いハンドバックが置いてあった。その席の後方、通路を挟んだ4人掛けテーブル席に私は座った。4人掛けテーブル席に1人で座るのは気が引けた。まわりを見渡すとほとんどの客が4人掛けテーブル席に1人で座っていた。新聞を広げて読んでいたのは老いた男性だった。私が座る4人掛けテーブル席のとなりの4人掛けテーブル席には男性2人が対面で座っていた。ブルージーンズに緑色のジャンパー姿の男がまくし立てるように話していた。金髪に上下白色ジャージ姿の男が相槌を打って話を聴いていた。金髪白ジャージの男は敬語で受け答えしていた。禁煙席エリアに入ってきた観光客風の集団は入り口近くのテーブル席に座った。レジカウンターからやってきた店員はゆっくりとした口調で「レジで、注文、してくださいね」と観光客風の集団に言った。店員の話を聞いていた女性は、ウン、ウン、と頷いていた。半地下は賑やかだった。

 異動の内示があった。7年間働いた部署を去ることになった。異動先は今の職種に就いた当時の部署だった。いわゆる出戻りだった。異動の実感はなかった。ドキドキもなかった。身体が機能しなくなるまでの期間を考えた。我慢して過ごしたくなかった。表現したいことを表現して生きたかった。

 今の部署では人の優しさを体験した。温かさのなかで過ごすことができた。7年前、不安定な状態で異動してきた私は過大に怯えていた。担当した業務は、つぎはぎだらけだったが、乗りきることができた。周囲の人に不安を薄めてもらって私は存在できた。居場所を整えるために、人の間に入って立ち回った。そのことを受け容れてくれたのが今の部署だった。

 文章を送り、過ごす日々。

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