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サーモンピンクのヴィンテージネックレス

ヴィンテージやアンティーク、レトロといった服や小物が好きになったのはいつからだろう。

高校生の時に友人が連れて行ってくれた古着屋は、私には衝撃だった。独特の匂いと雰囲気を持っていた。ちょっと取り入れるには難しそうなものばかりが並んでいた。

友人に「これ、かわいいね」と言われると「かわいいね」としか答えることができなかった。渋谷から原宿へと足が棒になるまで歩き、「やっぱりあの店に行ってもいいかな」と聞かれると、「うん」としか答えられなかった。

それからも古着屋巡りは続き、少しずつ感化されていった。誰かが大切に使ったものを私が使う。それが海外からのものと聞くと、いつも以上に心が高まった。

母が着ていた昔の服も着るようになり、祖母のバッグを喜んで使うようにもなった。今は手に入らないものを身に着けることができる。

働くようになってから、出会った青山のあの店。古着屋というよりアンティークショップという名前が似合う店だった。階段を上がると、カラフルなじゃらじゃらしたカーテンのようなものがかかった入り口。中に入るとアンティークの家具が並んだ中に、海外から入ってきた洋服やバッグが並んでいた。

平日の昼間は、客もまばらだった。仕事の合間にふらっと足を運んでは、気に入ったアクセサリーを買い集めた。

ゴールドのリングたちやガラス玉のようなロングネックレス、そしてサーモンピンクのネックレス。

イタリアとかパリとか、アンティークとかヴィンテージとか言われると、勝手に街を思い浮かべて、かつて足を踏み入れたあの街に気持ちがワープするような気持ちになった。

冷たい風が肌に触れたあの感覚、大きな枯れ葉が舞う大通り、雨の中傘を捨てて抱き合うカップル、映画のようだった。

マダムがしていた大きな赤いリング。息子が近くに住んでいたけれど、夫はいないようだった。夜になるとマダムは出かけることが多かった。どうやら彼氏がいるようだった。

ちょっと特別なことがあるときに、この大ぶりのネックレスをつけるようになった。大事な商談のときやパーティのときなど、ふさわしいと思える場所に。

会議と工場の視察で長野へ行った時のことだった。一日目は、会議と懇親会。二日目は、工場視察という流れだった。

行きは、先輩の車に乗せてもらった。お昼頃に到着すると、お偉いさんや上司たちは朝からゴルフをしていた。午後から長い会議が続き、夜はお酒と社内営業。おじさまたちの話を聞いて、カラオケに付き合って。

そういう場所はキライではなかった。実際に酔ってはいても気持ちはしっかり持っていたつもりだった。三次会へというときに、携帯をどこかに忘れていることに気づいた。

人波に逆らって探しに行くと、「どうしたの」と途中であの人も一緒に探してくれた。いた場所を辿っていくと、座敷の座布団の下に隠れていた。

「ありがとうございました」といって、三次会の場所へ向かうと、途中の窓から雪が降っているのが見えた。

「あっ、雪」

「本当だ。ちょっと待って」

窓を開けて二人で覗き込んだ。ライトアップされた夜の中から、ふわふわの白い雪が静かに降ってきた。

「寒い?」

「お酒が回っているので、ちょうどいいです」

「じゃあ、少しここで休憩していこうか」

この日は、ブルーのブラウスにこのネックレスを重ねていた。

「今日の服とおんなじね」と言われた。

首をかしげると、ブラウスとネックレスを指さして「ブラウスが空で、白いのが雪、ゴールドのがライト、ピンクのがほっぺた」と。

「えっ、なんか悪意ありますよね」と見上げると、ふたりで笑った。

そして、「いや、かわいいなと思って」とさらりと言われたので、恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。

それから、しばらく雪を眺めていた。話が途切れても、一緒に雪を眺めている時間が心地よかった。

「おーい、ちょっとふたりでなにしてるの!早く来て」と呼ばれるまでそこにいた。


昨日、私の街で雪がちらついた。

あなたの街でも雪が降っていますかと聞きたくなってしまった。

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